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サイケおやじの生活と音楽

オリバー・ネルソンの痛快ライブ!

2010-01-07 12:00:48 | Jazz

Live From Los Angeles / Oliver Nelson's Big Band (Impulse!)

1960年代に台頭したジャズ系のアレンジャーの中で、オリバー・ネルソンは一際カッコ良い作編曲で人気を集めました。とにかく分かり易くて痛快、グルーヴィでシャープなフィーリング、そして何よりもモダンジャズの保守本流を大切する姿勢がジャズ者の心を掴んだわけですが、もちろん広く大衆的な部分も兼ね備えていたのですから、ジミー・スミスやウェス・モンゴメリー等々、超一流プレイヤーのリーダー盤や多くの有名歌手へのアレンジ提供とヒット作作りへの貢献は言うまでもありませんでした。

そしてもちろん、自身のリーダー作品にしても、あの超絶の名盤「ブルースの真実(Impulse!)」を筆頭に、粒揃いのアルバムが幾つもあって、中でも本日ご紹介の1枚はジャズ喫茶の人気盤にして、学生バンドの聖典ともなった傑作です。

録音は1967年6月2~4日のロスンジェルス、「マーティズ・オン・ザ・ヒル」という店でのライプセッションで、メンバーはバディ・チルダーズ(tp)、コンテ・カンドリ(tp)、ボビー・ブライアント(tp)、フレディ・ヒル(tp)、ビリー・マイヤーズ(tb)、ピート・メイヤーズ(tb)、フランク・ストロジャー(as,ts)、トム・スコット(as,ts)、ビル・パーキンス(ts,bs)、ジャック・ニミッツ(bs)、フランク・ストラッゾーリ(p)、モンティ・バドウィッグ(b)、エド・シグペン(ds) 等々の実力派を擁したビッグバンドに、プロデューサーのボブ・シールが当時発見してきた黒人ギタリストのメル・ブラウンも加わっていますが、なによりもオリバー・ネルソンの作編曲と指揮が冴えまくりです。

A-1 Miss Fine
 ノッケからグルーヴィなムードが横溢した快演で、ちょいとカウント・ベイシー楽団を意識しまくったメロディリフやリズムアレンジがニクイところです。しかもトランペットでアドリブを演じるフレディ・ヒルが、これまた意識過剰ですから、たまりせん。
 肩慣らしとしては、あまりにも贅沢な名演じゃないでしょうか。とにかく聴いているうちに腰が浮くというか、ウキウキしてくるジャズ本来の魅力にどっぷりと惹きこまれてしまいます。

A-2 Milestones
 そして始まるのがマイルス・デイビスのオリジナルにして、モードジャズ聖典曲の痛快天国! 例の気持良すぎる音列が圧倒的なスピード感とシャープなアンサンブルで提示された後は、フランク・ストロジャーとトム・スコットが丁々発止のサックス合戦!
 ちなみにトム・スコットは後年、ミスター・ワンテイクと尊敬されるスタジオセッションの大名人となるのはご存じのとおりですが、この当時は本当に駆け出し時代ながら、既にオリバー・ネルソンに見い出されてインパルスと契約する寸前の頃とあって、そのプレイは荒っぽい中にも、なかなかモダンジャズのツボを掴みきった熱い吹奏には好感が持てます。
 もちろんそれをバックアップするリズム隊の安定感、バンドアンサンブルのスリルと興奮度の高さは言わずもがな、ついついアンプのボリュームを上げてしまうのでした。

A-3 I Remember Bird
 チャーリー・パーカーに捧げられた、これまたグルーヴィなジャズオリジナル曲ですから、メインで吹きまくるフランク・ストロジャーのアルトサックスが大ハッスル! オリバー・ネルソンのアレンジも原曲のムードを大切にした彩りが秀逸です。
 ちなみにこの曲はフィル・ウッズも十八番にしていますから、その聴き比べも興味深いところだと思います。

B-1 Night Train
 ここでいよいよ期待の新星ギタリストだったメル・ブラウンが登場! しかも演じられるのが、以前にオリバー・ネルソンがアレンジを担当したウェス・モンゴメリーとジミー・スミスの競演盤「ジミーとウェス(Verve)」で名演が残された人気曲ですから、同じアレンジが使われているのは言わずもがな、いろんな意味でたまらないものがあります。
 グイノリのリズムアレンジと豪快なフルバンドの魅力が見事に一体化した演奏の中でアドリブソロに没頭するのは、メル・ブラウンが唯一人! それはグラント・グリーンをさらに俗っぽくしたような、実にR&Bとモダンジャズの折衷スタイルということで、ちょっとぱかり気恥ずかしくなるのがジャズ者の本音かもしません。
 ですからジャズ喫茶の人気盤でありながら、中にはB面のリクエストが「お断り」になっていた店もありましたですね。
 しかその場の観客のウケも良いですし、バンドの面々も含めて、メル・ブラウンの一生懸命な姿勢には、かなりの好感を覚えてしかるべきものがあると思います。

B-2 Guitar Blues
 それがさらに凝縮されたのが、このオリバー・ネルソンのロックジャズなオリジナル♪♪~♪ もう完全にメル・ブラウンのスタイルを活かすべく書かれたソウルフルな曲調が、極めて強いロックビートで演じられるあたりは、これまた面映ゆい感じです。
 ただし、そのものズバリの曲タイトルにも象徴されるその姿勢は潔く、なかなか楽しい岐キメのリフはオリバー・ネルソンの真骨頂ですし、メル・ブラウンのギターには自らが楽しんでいるような歓喜があって、賛否両論の中にも、ついついノセられてしまいます。

B-3 Down By The Riverside
 これまた前述した「ジミーとウェス(Verve)」で演じられていた人気曲の再演として、もちろん同じアレンジが使われていますが、ここではバンドの4人のトランペッターが火の出るようなアドリブ合戦を繰り広げ、完全なるクライマックスを演出しています。
 あぁ、こういう素直に興奮を煽るような演奏って、1967年の最先端モダンジャズの現場では珍しかったような気が、これまでに残されている所謂「歴史的な名盤」ばかりを聴いていては、そう思うばかりです。
 しかし現実のライプステージとか、お客さんを前にした現場では、当たり前だったんでしょうねぇ~。悩んで聴く、なんていうのは我国のジャズ喫茶だけが率先して、そのムードに浸りながら喜んでいた現象なのかもしれません。例えそれが、昭和のジャズ喫茶全盛期の様相だとしても、こういうストレートに熱い演奏の前では、なんとなく虚しいものに思えてしまいます。

B-4 Ja-Da
 これはオーラスのバンドテーマというか、ジャケットに記載された解説によれば、セッションが録音された店の「マーティズ・オン・ザ・ヒル」では、出演者が必須の曲だったそうです。ちなみに誰もが一度は聞いたであろう、あの和みのメロディが、ここでは尚更のゆとりで演奏されていますよ。

ということで、実に痛快にしてモダンジャズがど真ん中のフルバン作品♪♪~♪

なによりも分かり易い演奏ばっかりなんですが、飽きてしまうなんて事は無く、何時聴いても素直にジャズの世界に惹かれてしまうこと請け合いです。

時代は既にビッグバンドには厳しくなっていたはずですが、それでもオリバー・ネルソンは散発的ながら、実際に自分の楽団を率いて巡業もやっていたそうですし、同時にスタジオでの仕事もジャズばかりではなく、コマーシャルの制作や映画音楽、テレビの劇伴、さらに若手の育成にも積極的に取り組んでいた勢いは、忘れられません。

ただし、それゆえに音源の散逸もあるようで、集大成的なボックスセットや復刻・発掘の積極的な展開が待たれますねぇ。

最後になりましたが、特に参加が注目されたギタリストのメル・ブラウンは幾枚かのリーダー盤を残しています。しかし結局、大きなブレイクも無く、我国では完全無視状態……。まあ、そのスタイルからして、当時のジャズ者からは軽視される雰囲気が濃厚だったんですが、個人的にもイマイチというか、もう少し強烈な個性とかアクがあればなぁ……、と不遜なことを思ったりします。

ただし後年にブームとなった所謂レアグルーヴとか、そのあたりの視点からすれば、なかなか面白い存在かもしれません。

ビックバンドのアルバムとしては最高級の痛快さと楽しさは保証付きです。

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