■その時わたしに何がおこったの
c/w つれてって、何処までも / 和田アキ子 (RCA)
昭和44(1969)年10月に発売された、和田アキ子にとっては3枚目のシングル盤が本日のご紹介です。
まずジャケットに写る彼女の衣装がサイケデリックからニューソウルへの懸け橋的なイメージなのが、今となっては意味深でしょうか。当時としても、これはなかなかスマートなカッコ良さがありましたですねぇ。
ご存じのように、当時の和田アキ子はデビューした時から芸能界においては異色の女性歌手であって、その男っぽさというよりは、アウトローな存在感がちょっとした魅力でした。そして黒人R&Bの強い影響下にある卓越した歌唱力は、そういう個性があって、さらに注目を集めていたのですから、制作側の売り出し方は正解だったのでしょう。
しかし楽曲の歌詞の中には、明らかに女っぽい部分が強く描かれていたのも確かです。
例えば、このA面曲「その時わたしに何がおこったの」は、矢鱈に長いタイトルではありますが、流れ者の男に恋した女が、旅の途中で捨てられても、今は連れていって欲しいと願う、なかなか明日なき刹那の希望が歌い込まれています。
そうした物語性の強い作詞は阿久悠の十八番であり、また田口ふさえの書いたメロディはメリハリの効いた覚え易いものですが、ここでも特筆すべきは川口真のアレンジでしょう。
まろやかなのにパワフルなホーンセクションとジャジーなピアノや打楽器、そしてツボを外さないストリングの使い方は、典型的な川口真スタイルですし、ちょいと甘さを滲ませる和田アキ子のボーカルをがっちりサポートしています。
と言うよりも、こういう見事なアレンジがあってこそ、幾分ワザとらしいフェイクも感じられる彼女の歌が、自然体に仕上がっているんじゃないでしょうか。
その点、B面収録の「つれてって、何処までも」は地味ながら、如何にも和田アキ子のイメージにジャストミートのR&B歌謡!
曲タイトルからもご推察のように、大日向俊子の作詞はA面の続篇を強く感じさせますし、ド演歌色も強い曲メロは和製R&Bの決定的な大ヒットとなったキングトーンズの「グッド・ナイト・ベイビー」を書いたむつひろし!?!
ですから、和田アキ子の粘っこいフィーリングに溢れた歌い回しは、A面以上の昭和歌謡曲になっています。
そしてもちろん、こちらのアレンジも川口真ということで、ヘヴィなビートを活かしつつもチープなオルガンやジャジーなピアノ、蠢くベースに厚みのあるホーンアレンジが、たまりません♪♪~♪
しかし、新しさという点では、やっぱりA面の「その時わたしに何がおこったの」でしょう。
R&B歌謡というよりも、この頃から盛り上がっていく歌謡ポップス路線の中では、ひとつの優良なサンプルなのかもしれません。
結果的には中ヒットではありますが、既に前作「どゃしゃぶりの雨の中で」を大ヒットさせ、歌手として認められていた和田アキ子にとっては、続く「笑って許して」の社会現象的ブレイクの狭間に出された隠れ人気曲として、忘れられないものだと思います。
そして実際、この歌が好きだという歌謡曲ファンが大勢存在しているんですよねぇ。
ということで、やっぱり歌手としての和田アキ子は素晴らしい!
特に初期の彼女は上手さの中にも未完成の魅力があって、それがシンプルな状態で楽しめるあたりが、サイケおやじの最も好むところなのでした。