昨日はPCが絶不調でした。原因不明だったのですが、何やってもダメだったのが、本日、再起動してみたら、何事も無かったかのように動くという気まぐれです。
やっぱり秋の空なんですかねぇ~。
ということで、秋には、こんなピアノが聴きたくなって――
■Ballads / Krzysztof Komeda (Power Bros)
今では日本経済の悪夢となったバブル期は、いろんな物欲が渦巻き、例えばジャズでは欧州盤ブームがひとつのトレンドでした。
そこには賛否両論あろうとも、今まで聴くことの出来なかった多くの優れたジャズメンに邂逅出来た幸せが、確かにあったのです。
その中で人気を得たひとりが、ジャズピアニストとしてのクシシュトフ・コメダです。
クシシュトフ・コメダはポーランド人で、西側ではクリストファー・コメダとして、ロマン・ポランスキー監督の映画音楽を数多く担当している有名人ですが、ジャズピアニストとしての腕前も鬼才の名に恥じぬものでした。
実際、ポーランドのジャズ界では主導的な役割を果たしていたようです。
このアルバムは1962年のワルシャワ・ジャズ・ジャンボリーにおけるビアノトリオのライブ音源をCD化したブツです。
メンバーはKrzysztof Komeda(p)、Roman Dylag(b)、Rune Carlsson(ds) で、タイトルどおり耽美的な演奏がたっぷりと味わえます――
01 Waltz (Alice In Wanderland)
タイトルは「Waltz」ですが、実はビル・エバンスが十八番にしていた「不思議の国のアリス」です。
そしてここでのクシシュトフ・コメダのピアノ、及びトリオでの演奏は、そのビル・エバンスを大いに意識したものですが、その耽美性、歌心の成熟度、爽やかさは負けるものではありません。
ビル・エバンスの演奏が幻想的な美しさから爛熟美に落ちて行く雰囲気ならば、クシシュトフ・コメダは同様の幻想美が墨絵の清々しさに移り変わっていく感じです。もちろん歌心は互角ですが、似て非なる美しさがあると思います。
ドラムスとベースも鋭さを含んだ好演ですし、もう、これ1曲で、完全にこのアルバムの虜になるでしょう。
02 Breakfast At Tiffany's - Theme 1
グッとテンポを落として耽美を究めんとするクシシュトフ・コメダのピアノの響き♪ ジンワリと心に滲みてまいります。このあたりのトリオの先進性は、同時期のビル・エバンス以上と言ったら、顰蹙でしょうか?
でも、私には実際にそう感じられるんです。あぁ、このディープな歌心♪ 美メロの泉です。
03 Unknown
タイトルが付けられていませんが、どっかで聞いたようなメロディが心地良い限りです。ドラムスもスティック主体でビシバシと攻めて来ますが、クシシュトフ・コメダは揺ぎ無い美メロ主義です。
またベースも攻撃的なソロを展開しますが、残念ながらトリオとしての絡みが稀薄のようで、やや残念……。しかしキース・ジャレットのスタンダーズ・トリオあたりが、これを意識していたという可能性も秘めています。
04 Ballad For Bernt
ちょっとデューク・エリントンあたりが書きそうな魅惑のスロー曲です。
重いブラシの響きとベースの蠢きが、クシシュトフ・コメダの耽美なピアノを一層引き立てていますから、全体はテーマメロディの変奏に終始した短いトラックとはいえ、満足感があります。
05 Crazy Girl
どうやらクシシュトフ・コメダの代表曲らしいです。
リズミックなベースの定型パターンに促され、クシシュトフ・コメダは情緒に流されないクールさを発揮しています。
その曲調と演奏スタイルは、「カインド・オブ・ブルー」期のマイルス・デイビスみたいな魅力があり、トリオは徐々に力強いベクトルを明確にしていくのです。もちろんマイルス・デイビスのトランペットをビアノに置換したようなフレーズが出ますし、ドラムスはジミー・コブを大いに意識しているようです。
しかし基本は、やっぱりビル・エバンスでしょうねぇ~。似て非なるものとはいえ、この曲をビル・エバンスのトリオが演奏したら、どうなるか!? 大いに興味が沸きます。
06 This Or This
最後はベースがリードする暗い情念みちた曲で、それが、かなり黒っぽい雰囲気を秘めていますから、知らぬ間に惹き込まれてしまう演奏です。
クシシュトフ・コメダのピアノからは「泣き」というか「琴線に触れる」というか、とにかく不思議な魅力に満ち溢れたフレーズが泉のごとく湧き出て止まりません。
リズム隊も力強く、緩急自在に盛り上げていきますから、リスナーは山場に至って最高に熱くさせられるという、魔法にかかってしまいます。
これは、東欧ゴスペルっ!? やるせないムードの最後もたまりません♪
ということで、これからクシシュトフ・コメダを聴いてみようと思われる皆様には、激オススメです。いかにもジャズで聴き易いし、和みます♪
ちなみにクシシュトフ・コメダは1960年代末の39歳の時、交通事故で他界していますが、その名前が世界中に知れ渡ったのが、その直前に携わっていたホラー映画の傑作「ローズマリーの赤ちゃん」という、真に呪われた作品でした。
合掌。