今日は夕方から仕事での大一番が控えているので、絶対にこれを聴いてテンションを高めようと決めていました。
また本日から、ちょっと書き方を変えてみました。と言うか、敬愛するジミ・ヘンドリクスのアルバムなので、書いているうちにそうなったわけですが――
ジャズにおいて誰も乗り越えられないのがチャーリー・パーカー(as) だとしたら、ロックの世界ではジミ・ヘンドリクスでしょう。これは単に楽器奏者としての腕前だけでなく、その生き様、音楽に対する姿勢、さらに後々への影響等々、いろいろな角度から検証してみても、断言出来ると思います。
等と、本日も独断と偏見に満ち溢れた書き出しですが、実際、ジミヘンが演じて残した全ての音源には、聴く度に圧倒されます。しかもチャーリー・パーカーと同様、この人もまたドラッグの悪影響で道半ばで早世、しかも残された音源は次々に発掘されているという、ファンならば感涙の世界にいる天才です。
したがってジミヘンなどと軽々しく呼んではならない人なのですが、私の世代では憧れと畏敬の念、そして親しみをこめて、あえてジミヘンと呼ぶことをご理解願います。
で、そのジミヘンが残した音源の中からブルースに関するものに的を絞って編集したアルバムが、今回ご紹介のCDです。もちろん内容は既発と未発表の混ぜ合わせですが、黒人としてはややブルース味が希薄だと言われていたジミヘンの、それに対するアプローチが存分に楽しめます。その内容は――
01 Hear My Train A Comin' (録音:1967年12月19日)
ジミヘンが生ギターだけで弾き語る有名なプロモ・フィルムからの音源です。これは映像が色々なDVDで復刻されていますので、そちらもご覧下さい。
02 Born Under The Bad Sign (録音:1969年12月15日)
このアルバムが初出となる演奏で、メンバーはジミヘン(g,vo)、ビリー・コックス(b)、バディ・マイルス(ds) からなるバンド・オブ・ジプシーズによるスタジオ録音です。元曲はご存知、アルバート・キングの大ヒットですが、同じ左利きの黒人ギタリストということで、そのあたりを意識したのでしょうか? ジミヘンにしては、やや煮え切らない演奏です。しかしそれでも真似出来ないエモーションが渦巻いていますよ♪ ちなみにほとんどが演奏パートばかりで歌が出ないのが残念……。
03 Red House (録音:1966年12月13日)
あまりにも有名なジミヘン自作のブルースですが、ここに収められたものがオリジナル・バージョンです。メンバーはジミヘン(g,vo)、ノエル・レディング(b)、ミッチ・ミッチェル(ds) からなるエクスペリエンスで、演奏は素晴らしいの一言に尽きます。
で、この曲の初出は1967年5月にイギリスで発売された1stアルバムですが、それがアメリカで発売された時には、なんとこの曲が外され、その後、ベスト盤に入れられた時には別バージョンに差し変えられていたのです。さらにそれがCD化の際にもそのまんまになっているというわけで、もちろん両方が大名演なのですが、個人的にはこのオリジナル・バージョンの方が、ジミヘンのエモーションナルな掛声なんかがあって、好きです。
04 Catfish Blues (録音:1967年11月10日)
オランダでのテレビ出演からの音源で、メンバーはエクスペリエンスです。オリジナルは黒人伝承のブルースですが、多くの黒人ブルースマンが改作して取上げており、その意味ではこのバージョンもそのひとつというわけです。その演奏は粘りつくような前半のノリから過激な中盤のインスト・パートを経て、ミッチ・ミッチェルのドラムソロ、さらにジミヘンのサイケフレーズが爆発する大団円と、見事な展開を聞かせてくれます。もちろんブルース味は希薄で、全篇がロックしていますよ♪
05 Voodoo Chile Blues (録音:1968年5月2日)
このCDが初出の音源で、メンバーはジミヘン(g,vo)、ミッチ・ミッチェル(ds) に加えてトラフィックのスティーヴ・ウィンウッド(org) とジェファーソン・エアプレインのジャック・キャサデイ(b) というオールスターによる、大ブルースロック大会が満喫出来ます。もちろん名盤「エレクトリック・レディ・ランド」の没テイクですから、悪いわけがありません。スローな展開の中に情念を吐露するジミヘン、共演者もそれを良く理解したサポートに徹しているところが潔いと感じます。
06 Mannish Boy (録音:1969年4月22日)
これも初出で、演奏メンバーはバンド・オブ・ジプシーズです。アップテンポの展開の中でボーカルとユニゾンでキメのフレーズを吐き出すジミヘンは。私が最も好むところです。バディ・マイルスのドラムスもワイルドにノッています。う~ん、それにしてもジミヘン、余裕で荒業を繰り出している様が凄すぎます。こんなにギターを弾けたら、楽しい限りでしょうねぇ~♪
07 Once I Had A Woman (録音:1970年1月23日)
これも前曲と同じく、バンド・オブ・ジプシーズによる未発表曲です。スローな展開でジミヘンが気だるいギターをたっぷりと聞かせてくれますが、誰かさんのハーモニカが加わっているのがミソです。ドロ~ンとしたジミヘンのボーカルも味の世界♪
08 Bleeding Heart (録音:1969年3月18日)
一応、ここが初出となっていますが、海賊盤では比較的有名な名演でした。メンバーは不明ながら、ミッチ・ミッチェルの参加は確実でしょう。もちろんスタジオ録音で音質も良好、鋭いジミヘンのギター&ボーカルが楽しめます。
09 Jelly 292 (録音:1969年5月14日)
これも初出とはいいながら、海賊盤では知られていた演奏で、スタジオでのジャムセッションです。参加メンバーはジミヘンの他にスティーブン・スティルス(p)、ジョニー・ウインター(b)、ダラス・テイラー(ds)という豪華オールスターズとされておりますが、真偽のほどは不明です。肝心の演奏はジミヘンが激しく燃えまくり♪ 最初から最後まで強烈なジミヘン節が炸裂するギターが楽しめます。発狂寸前!
10 Electric Church Red House (録音:1968年10月29日)
エクスペリエンスにバディ・マイルス(ds) とリー・マイケルズ(org) が加わった演奏で、もちろん原曲は「Red House」と同じですが、これも凄いバージョンです。エレキベースはブリブリ蠢くし、オルガンはヒーヒー泣きます。もちろんドラムスはビシバシ! そしてジミヘンのギターはボーカルと一体になって激しくコール&レスポンスを展開してクライマックスに突進していくのでした。やや予定調和的ではありますが、余人には真似の出来ない演奏だと思います。
11 Hear My Train A Comin' (録音:1970年5月30日)
初っ端に収められた同曲のライブ・バージョンで、もちろんエレキがピンビンです。メンバーはジミヘン(g,vo)、ビリー・コックス(b)、ミッチ・ミッチェル(ds)、名演とされるバークレイ・シアターにおけるファースト・ショウからの音源ですから、もう最高です。ブルースなんですが、全くのロックですね、これはっ♪ こんな激しく情念を爆発させるギタリストは他にいません! 爽快! こんなん生で体験したら……、う~ん、恐くて書けません。
ということで、これはジミヘンのブルースアルバムのはずが、演じている中身は完全にロックです。否、ジミヘンの残した音源は、どんなものでも不滅の価値があるわけですが、それが如何にひとつのジャンルに括ることが出来ないか、はっきりと感じてしまいます。
皆様にはぜひとも聴いていただきたいのは、この作品だけでなく、ジミヘンの全てなのです。
さあ、これからが正念場!