■Fifth Dimension / The Byrds (Columbia)
私が少年時代の日本ではレコードがとても高価でしたから、好きな曲があっても、そう簡単には買えませんでした。もちろんそれは収入というか、自分的には小遣いが乏しかった所為で、ことさらLPはグッと我慢の対象だったのです。
ところが昭和40年代末になると、輸入盤を扱う店も増え、またデパートの催しとしてバーゲンセールが行われたりして、当時は日本盤が二千円以上していたアルバムが、それ以下で入手出来るようになりました。
それは夢のように、嬉しかったですねぇ~~~♪
当然ながら、その頃になると、私もバイトをやって、それなりに小遣いも確保出来るようになっていましたから、まずは積年の夢を実現するべく買い集めたのが、大好きなバーズのアルバム群でした。
で、本日ご紹介のアルバムも、そうしてゲットした中の1枚なんですが、実は日本ではリアルタイムでも、このオリジナル仕様の発売が無かったと思われます。確か次作の「Younger Than Yesterday」と抱き合わせというか、ミックス選曲された1枚物の独自編集盤だったような……。
ですから、輸入盤独得の透明シールドを切る快感とレコードに針を落とす瞬間のワクワクした気分は、今でも明確に覚えているほどです。
A-1 5D
A-2 Wild Mountain Thyme
A-3 Mr. Spaceman
A-4 I See You
A-5 What's Happening?!?!
A-6 I Come And Stand At Every Door
B-1 Eight Miles High / 霧の8マイル
B-2 Hey Joe
B-3 Captain Soul
B-4 John Riley
B-5 2-4-2 Fox Trot
バーズにとっては1966年に発売した、公式デビューから3枚目のアルバムで、ジャケットを見れば、それまでの5人組からジーン・クラークの抜けた4人が写っているとおり、制作中に脱退騒動がありました。
しかし、それでもジーン・クラークが参加している曲もありますし、一番驚くというか、実は当たり前かもしれませんが、それまでのフォークロックの代表的グループというイメージを決定的にしていたボブ・ディランの楽曲が、ひとつも入っていないのはバーズの新しい飛躍の現れでしょう。
演奏そのものについても、スタジオ系の助っ人が参加しているのは言わずもがなですが、基本的な部分はロジャー・マッギン(vo,g)、ディヴィッド・クロスビー(vo,g)、クリス・ヒルマン(b,vo)、マイク・クラーク(ds,vo) 、そしてジーク・クラーク(vo.hca)というオリジナルメンバーによるところが多いと思われますし、その幾分の荒っぽさが如何にもロック的な自然体の質感に直結する魅力です。
中でも「I See You」は非常にテンションの高いサイケデリックロックの典型で、ワイルドなギターのアンサンブルと刹那的なコーラスで歌われる抑揚の少ない曲メロが、もう最高! また元祖カントリーロックの「Mr. Spaceman」は、軽快なメロディとアホみたいな歌詞が見事にジャストミートした名曲名演で、世界中でシングルカットされ、小ヒットしたのも当然でした。
そしてメンバー各々の個性も、これまでの作品中では一番明確になり、ディヴィッド・クロスビーは変則コードワークのギタープレイとエキセントリックなボーカル&曲作りに大貢献していますし、対するロジャー・マッギンはアルバムタイトル曲「5D」で、気持良いほどボブ・ディランへの敬意を表したパクリを披露して、実に潔いかぎり♪♪~♪
もちろんバーズのオリジナル曲を作る過程では、クリス・ヒルマンとマイク・クラークも深く関わっていることが明白ですし、カパー曲にしても演奏の土台の部分で、しっかりと自己主張を忘れていません。
ただし、例えばジミヘンでお馴染みの「Hey Joe」は、ディヴィッド・クロスビーが主役ながら、既に聴いていたジミヘンのバージョンが強烈ですから、物足りないのは確かですし、まさかバーズの面々にしても、後年にそんなトンデモバージョンが出ようとは、想像も出来なかったでしょうねぇ……。
まあ、それはそれとして、当然ながら、このアルバムは全曲がステレオミックスの収録ですから、それまでモノラルミックスのシングル盤で聴いていた「霧の8マイル」にしても、やっぱりシビレ具合が違います!
しかし例えば「Captain Soul」のように、明らかに未消化なインスト曲があったり、様々な効果音をコラージュした「2-4-2 Fox Trot」はサイケデリックど真ん中というよりも、1枚のアルバムを完成させるための埋め草と受け取られても言い訳出来ないものが、確かにあります。
そのあたりだけを指して、このアルバムを貶す向きもありますねぇ……。
ただ、それでも私はこのアルバムが大好きで、「Wild Mountain Thyme」や「John Riley」は随所に使われるストリングスも味わい深い、バーズの隠れ名演だと思うほどですし、クロスビー節が全開の「What's Happening?!?!」やヒロシマの悲劇を痛烈に歌った「I Come And Stand At Every Door」は、ぜひ、今こそ聴いていただきたい歌として、大推薦!
ということで、既に述べたように、評論家の先生方からは散漫な出来と云々されますが、私は絶対にそんなことは無い、傑作盤だと思います。実際、これが世に出た1966年を鑑みてもも、「霧の8マイル」のようなサイケデリックロックの極みつき大ヒットは、ビートルズさえも作り出していませんし、ディヴィッド・クロスビーを要にした強烈な変態コードを用いた曲作りとアレンジ、失礼ながらヘタレ気味のテクニックを逆手に活かしたラフな質感のバンド演奏、そしてジャケットのイメージも含めて、まさに1966年にしか誕生しえなかった金字塔だと思います。
なによりもLP片面の曲の流れが良いんですねぇ~♪
今日ではリマスターも秀逸なCD化によって、さらに親密に楽しめるわけですが、実はサイケおやじは最初の印象が忘れられず、アナログ盤も手放せない状況です。それは正直、歯切れの悪い音質で、当時のコロムビアのステレオミックスでは「お約束」の微妙なエコーが不必要の賛否両論ではありますが、それも当時の「音」だとすれば、素直に楽しまなければ勿体ない♪♪~♪
本当に、そう思っています。