11月24日(月): ※瀬戸内寂聴さんのご健康回復を心よりお祈りしております。
236ページ 所要時間 3:20 ブックオフ200円
著者55歳(1951生まれ)。
帯文:死を見ずに戦争を語るな。戦後生まれの感性で、いま語り直す戦争のエキス。
テキスト。補章の参考文献リストも充実していて、とても良い。読後の印象は、岩波新書版「はだしのゲン」って感じである。戦争の真実を知る上で極めて具体的かつ記憶に残る内容である。問題提議も多角的であり、いろいろな立場から戦争、特に戦争による様々な死について考えられるようになっている。
8年前の著者の集団的自衛権に関する懸念は、現在まさに現実の問題化している。尊く貴重な<戦争の悲惨>の経験を、しっかり継承しようとして来なかった我々は、今まさに同じ過ちに踏み込もうとしている。そして、全く同様に尊く貴重な<福島原発事故の悲惨>の経験から真摯に学ぼうとして来なかった結果、原発再稼働という深刻な同じ過ちに踏み込もうとしている。これが日本人の限界なのかと思うと情けない惨めな気持ちになる。
1967年レイテ島の慰問団に参加した大岡昇平が、芝生の上に手をついて、いつまでも頭を上げられず慟哭していた記述も忘れがたい。
原爆の被害を受ける前に、原子爆弾の存在は、新聞報道によって日本人の多くが知っていた。従来の知らなかったという論理は本書でくずされた。
まえがき:私は戦後生まれの自分の感性だけを羅針盤として文献と証言の海を泳ぎ、自分自身が「これは戦争のエキスだ」と感じたことを読者にも提示しよう、と思った。私は戦後生まれの目で、戦後生まれにも通じる言葉で、戦争のエキスを語りなおしたかった。/何のために? それは日本のこれからを考えるときの判断材料として、過去の事実のなかに、未来を開く鍵があると思うから。/誰のために? それは私と同じく、戦争を知らない人々のために。 ページ
・これら一連の資料を見れば、こう思わずにいられない。もし日本かドイツが原爆投下に成功すれば、日本人の多くは喝采して喜んだのではないかと。日本軍のなかに、原爆の投下を命じられ、「そんな非人道的なことはできない」と断るパイロットがいたとは思えない。人は簡単に兵器を使ってしまうのだ、ある方向を向いた流れのなかでは。99ページ
・日本の戦後をアメリカとは異なる色に染めてきたものは、人々の心に重く沈み、消えることがないこの悲しみの深さだったと、いま本書の取材を終えて私は痛感している。/「戦争が終わりました」というビラと一緒に投下された1トン爆弾で、バラバラになって死んだ労働者。歯ぎしりをして敵艦に突入していった特攻機のパイロット。ふるさとの江州音頭を歌いながら南方のジャングルに置き去りにされた兵士。死んだ母親の乳首にすがりつき泣いていた赤ちゃん。赤ちゃんを抱いたまま首なしの死体になった女性。炭と同じ状態になって、シャベルで片付けられた人々。そして、キューピーのようにお腹をふくらませて広島の川を流れていった男と女……。/悲しみの底まで降りた者だけが、他者の悲しみを予見できる、それを防ぐために働くことができる。このたぐいまれな日本の個性を軽薄に投げ捨てるということは、戦争で死んだ人々にかけても許されない。195~196ページ
・「ハイテクによって戦争は変わった」とか「いまの戦争はきれいだ」などというのはまやかしである。かつての戦争でも、いまの戦争でも、同じように人は傷つき、同じように人は死んでいる。テクノロジーの進化によって兵器が高性能となり、殺す側の負担は小さくなっていくとしても、殺される側の痛みは変わらない。殺される側の人々が発する“恨み声のうねり”をテクノロジーによって止めることはできない。199ページ
・私は憲法改正にともなって、日本に株式会社スタイルの戦争請負会社が生まれることは確実だと思っている。そう思う理由は簡単で、市場原理を信奉する社会が「新たなビジネスチャンスを逃すわけがない」からである。そうなると、戦争によって配当利益を得る株主がたくさん生まれることになる。「戦争が起きたらもうかる」というネット株主がうようよいるという国が、この世界から戦争をなくすため「誠実に働いていく」ということができるのだろうか。/日本の憲法九条をどうするかということは、それらを知ったうえで考えるべきではないだろうか。つまり本書は、憲法九条改定問題を考えるときの「基礎知識編」として読んでいただきたい、と願っている。200ページ
■目次:
はじめに――語りなおす戦争のエキス
第一章 大阪大空襲――戦争の実体からの出発:火の鳥のなぞ/戦争死亡障害保険/首のない死体の氾濫/第二次大戦最後の大空襲/戦争で死ぬということ
第二章 伏龍特攻隊――少年たちの消耗大作戦 :幻の海底特攻隊/一億玉砕という嵐/これが戦争なのか?/特攻の現場で起きたこと/ひとりにはひとつの命
第三章 戦時のメディア――憎しみの増幅マシーン :暗闇のジャーナリスト/恐怖の網が良心をからめとる/大東亜共栄のまぼろし/さげすめ! 憎め! 殺せ!/何が民族を覚醒させたのか
第四章 フィリピンの土――非情の記憶が伝えるもの :ある子どもたちの死/フィリピンにとっての占領/ゲリラはなぜ生まれるのか/原爆を待つ戦場の狂気/ジャングルに流れた江州音頭/死者たちの証言
第五章 殺人テクノロジー――レースの果てとしてのヒロシマ:「八月六日以前」の原爆報道/果てしない殺人のレース/ウラン鉱の採掘を続けて/子どもが見た戦争の正体/予測できない被害/二つの顔を持つ原爆体験
第六章 おんなと愛国――死のリアリズムが隠されるとき:乙女たちの祈り/女子特攻部隊を!/戦争のチアガール/「轟沈」のリアリズム/生命は誰のものか/よみがえる戦争応援団/軍国少女との訣別
第七章 戦争と労働――生きる権利の見えない衝突 :「原子爆弾」と労働者/「毒ガス戦」と労働者/秘密と分断の体制/戦争へと駆け込んだ社会/深刻な被害、そして加害/兵器工場と哺乳場
第八章 九月のいのち――同時多発テロ、悲しみから明日へ:テロが日常に飛び込んだ/「カミカゼ」という衝撃/日本という事業子会社/深まる悲しみとイラク戦争/悲しみの連鎖を止める/日本という国の色
あとがき――九条問題の基礎知識
補章 主な参考文献
236ページ 所要時間 3:20 ブックオフ200円
著者55歳(1951生まれ)。
帯文:死を見ずに戦争を語るな。戦後生まれの感性で、いま語り直す戦争のエキス。
テキスト。補章の参考文献リストも充実していて、とても良い。読後の印象は、岩波新書版「はだしのゲン」って感じである。戦争の真実を知る上で極めて具体的かつ記憶に残る内容である。問題提議も多角的であり、いろいろな立場から戦争、特に戦争による様々な死について考えられるようになっている。
8年前の著者の集団的自衛権に関する懸念は、現在まさに現実の問題化している。尊く貴重な<戦争の悲惨>の経験を、しっかり継承しようとして来なかった我々は、今まさに同じ過ちに踏み込もうとしている。そして、全く同様に尊く貴重な<福島原発事故の悲惨>の経験から真摯に学ぼうとして来なかった結果、原発再稼働という深刻な同じ過ちに踏み込もうとしている。これが日本人の限界なのかと思うと情けない惨めな気持ちになる。
1967年レイテ島の慰問団に参加した大岡昇平が、芝生の上に手をついて、いつまでも頭を上げられず慟哭していた記述も忘れがたい。
原爆の被害を受ける前に、原子爆弾の存在は、新聞報道によって日本人の多くが知っていた。従来の知らなかったという論理は本書でくずされた。
まえがき:私は戦後生まれの自分の感性だけを羅針盤として文献と証言の海を泳ぎ、自分自身が「これは戦争のエキスだ」と感じたことを読者にも提示しよう、と思った。私は戦後生まれの目で、戦後生まれにも通じる言葉で、戦争のエキスを語りなおしたかった。/何のために? それは日本のこれからを考えるときの判断材料として、過去の事実のなかに、未来を開く鍵があると思うから。/誰のために? それは私と同じく、戦争を知らない人々のために。 ページ
・これら一連の資料を見れば、こう思わずにいられない。もし日本かドイツが原爆投下に成功すれば、日本人の多くは喝采して喜んだのではないかと。日本軍のなかに、原爆の投下を命じられ、「そんな非人道的なことはできない」と断るパイロットがいたとは思えない。人は簡単に兵器を使ってしまうのだ、ある方向を向いた流れのなかでは。99ページ
・日本の戦後をアメリカとは異なる色に染めてきたものは、人々の心に重く沈み、消えることがないこの悲しみの深さだったと、いま本書の取材を終えて私は痛感している。/「戦争が終わりました」というビラと一緒に投下された1トン爆弾で、バラバラになって死んだ労働者。歯ぎしりをして敵艦に突入していった特攻機のパイロット。ふるさとの江州音頭を歌いながら南方のジャングルに置き去りにされた兵士。死んだ母親の乳首にすがりつき泣いていた赤ちゃん。赤ちゃんを抱いたまま首なしの死体になった女性。炭と同じ状態になって、シャベルで片付けられた人々。そして、キューピーのようにお腹をふくらませて広島の川を流れていった男と女……。/悲しみの底まで降りた者だけが、他者の悲しみを予見できる、それを防ぐために働くことができる。このたぐいまれな日本の個性を軽薄に投げ捨てるということは、戦争で死んだ人々にかけても許されない。195~196ページ
・「ハイテクによって戦争は変わった」とか「いまの戦争はきれいだ」などというのはまやかしである。かつての戦争でも、いまの戦争でも、同じように人は傷つき、同じように人は死んでいる。テクノロジーの進化によって兵器が高性能となり、殺す側の負担は小さくなっていくとしても、殺される側の痛みは変わらない。殺される側の人々が発する“恨み声のうねり”をテクノロジーによって止めることはできない。199ページ
・私は憲法改正にともなって、日本に株式会社スタイルの戦争請負会社が生まれることは確実だと思っている。そう思う理由は簡単で、市場原理を信奉する社会が「新たなビジネスチャンスを逃すわけがない」からである。そうなると、戦争によって配当利益を得る株主がたくさん生まれることになる。「戦争が起きたらもうかる」というネット株主がうようよいるという国が、この世界から戦争をなくすため「誠実に働いていく」ということができるのだろうか。/日本の憲法九条をどうするかということは、それらを知ったうえで考えるべきではないだろうか。つまり本書は、憲法九条改定問題を考えるときの「基礎知識編」として読んでいただきたい、と願っている。200ページ
■目次:
はじめに――語りなおす戦争のエキス
第一章 大阪大空襲――戦争の実体からの出発:火の鳥のなぞ/戦争死亡障害保険/首のない死体の氾濫/第二次大戦最後の大空襲/戦争で死ぬということ
第二章 伏龍特攻隊――少年たちの消耗大作戦 :幻の海底特攻隊/一億玉砕という嵐/これが戦争なのか?/特攻の現場で起きたこと/ひとりにはひとつの命
第三章 戦時のメディア――憎しみの増幅マシーン :暗闇のジャーナリスト/恐怖の網が良心をからめとる/大東亜共栄のまぼろし/さげすめ! 憎め! 殺せ!/何が民族を覚醒させたのか
第四章 フィリピンの土――非情の記憶が伝えるもの :ある子どもたちの死/フィリピンにとっての占領/ゲリラはなぜ生まれるのか/原爆を待つ戦場の狂気/ジャングルに流れた江州音頭/死者たちの証言
第五章 殺人テクノロジー――レースの果てとしてのヒロシマ:「八月六日以前」の原爆報道/果てしない殺人のレース/ウラン鉱の採掘を続けて/子どもが見た戦争の正体/予測できない被害/二つの顔を持つ原爆体験
第六章 おんなと愛国――死のリアリズムが隠されるとき:乙女たちの祈り/女子特攻部隊を!/戦争のチアガール/「轟沈」のリアリズム/生命は誰のものか/よみがえる戦争応援団/軍国少女との訣別
第七章 戦争と労働――生きる権利の見えない衝突 :「原子爆弾」と労働者/「毒ガス戦」と労働者/秘密と分断の体制/戦争へと駆け込んだ社会/深刻な被害、そして加害/兵器工場と哺乳場
第八章 九月のいのち――同時多発テロ、悲しみから明日へ:テロが日常に飛び込んだ/「カミカゼ」という衝撃/日本という事業子会社/深まる悲しみとイラク戦争/悲しみの連鎖を止める/日本という国の色
あとがき――九条問題の基礎知識
補章 主な参考文献