もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

9 004 佐藤優「君たちがわすれてはいけないこと 未来のエリートとの対話」(新潮社:2019)感想特5

2019年09月10日 02時51分54秒 | 一日一冊読書開始
9月9日(月):  

268ページ     所要時間6:50      アマゾン1088円

著者59歳(1960生まれ)。

著者の本を読むと次元の違う知性の存在と言うものを思い知らされる。もちろん優れた知性の持ち主はたくさんいるのだろうが、著者のようにそれを言語化して次元の違いを目に見える形で見せつけてくれる人は少ない。今回も高い壁を感じながら、しかも強い興味を抱き続けて最後まで目を通すことができた。

「8 095 佐藤優「君たちが知っておくべきこと 未来のエリートとの対話」(新潮社:2016)感想4」の印象がすごく良かったので、我慢できずにアマゾンで今年発刊の本書を取り寄せてしまった。結論から言えば、正解だった。とにかく、前著と本書から膨大な知見、知識と考える材料を得ることができた!

本書では著者と灘高校生との対話(2016年、2017年、2018年)は、前著(2013年、2014年、2015年)よりも問いと答えの関係が整理され深化されていた。特に、前著よりも灘高生の質問の質と量が高まり、灘高生の存在感が大きくなっていた。

灘高生らの発する神羅万象あらゆる問いに対して、著者が非常に高度で明確な答えと問題意識の提議を用意しているのにはいつもながら舌を巻くしかない。正直レベルが高すぎて、本当に正しいことを語ってるのかわからない箇所がたくさんあったが、部分的に俺も詳しく知っている箇所などではしっかりとした知識に基づいて正しく論じられているので著者の知識・知性は十分に信用するに足る。

比較にもならないが、売文屋さんがぺらぺらしゃべるが肝心なところは外して逃げる作風とは全く違い、著者は根本的な問いに対して、もちろん答えは一つではないが、いくつかの答えの可能性を分かりやすく紹介して、「自分はこう考える」としっかりと自らの立場を明らかに示してくれる。著者の意見を受け入れるかどうかは読み手の自由に任せてくれる。
 
今回、今年5月発刊の本著を手に入れたことで、特にまさに最近の時事的ニュースに対する著者の見解を知ることができたのも収穫だった。灘高生と著者がアクティブラーニングを簡単に否定している(188ページ)のを見て「やはりこの本は信用できる」と思った。

勿論無理だが、欲を言えば、今年の山本太郎氏の<れいわ新選組>の現象に対する分析と見通しを聞いてみたかった。雑誌でも、何でもいいから著者の話を読んでみたい。

【目次】まえがき
1 ファシズムは僕らの周りにある 2016年4月5日
「半年後の国際情勢をズバリ予測します」と言っている人がいるとしたら、それは大ウソつきか、まるで分かっていないかのどちらかです。 :資本主義を読み解いた宇野弘蔵/国際政治は複雑系/「資本の過剰」からイノベーションまで/『わが闘争』を巨大化したドイツの発想/第一次世界大戦に伴うパラダイムチェンジ/二〇世紀最大の「問題国」は?/勉強に興味のない東大生たち
共産主義と違って、ファシズムはまだ潜在力を使い切っていない。 :「One for all, All for one」はファシズムの合言葉/ファシズムの芽は学校にも/簡単に受容し、絶対に消化しない日本/室町時代のグローバリゼーション/英語で授業して伝わる内容は六%/「メンター」にご用心/神権がなければ人権はない/現世は悪ければ悪いほど良い/じつは都合がいい「対米従属論」
今は入学歴プラス大学で何をやったのかが問われる、真の学歴社会が到来している。 :SEALDsは中堅大学生の地位上昇装置/若者は狙われている/安保法案は突っ込みどころ満載のガラス細工/国民投票の現実性は/中学までは少なすぎ、高校からは多すぎる/日本最高のエリートは高卒だった/錬金術師・小保方さん/AO入試の罠/ロマン主義が分けた欧と米/マシンガン・ベーコンの国
人生の価値観を高収入に置く場合、儲ける方法はたった一つしかない。それは企業を興して、他人の労働を搾取することです。 :日本の社会民主主義政党はどこだ/ハーバードは寄付で入れる時代/行政が喜ぶ「富山モデル」/「女性の活躍」に潜むカラクリ/「お上は信用ならない」/最高税率一五%の国へ/大金持ちの憂鬱/日本人の自己意識/労働力再生産の現場
みなさんが大学に入って学ぶ際にも、平和学の仮面をかぶった安全保障問題や軍事問題があることを覚えておいてください。 :日本と核/GPS技術をどう持つか/NPT体制は風前のともしび/資本主義崩壊は外部からやってくる/どうなる、次世代の経済システム/空気のような天皇
2 モラルとモラールを持って生きよ 2017年4月4日
計算能力と識字率の高さが産業社会の特徴であり、産業を維持するために必要なインフラなんです。 :もしグローバル化できなかったら/国家と産業がセットな理由/受験英語では物足りない君へ/マルクス経済学とは?/民族・国家・資本の環/「官製春闘」はファシストの発想/「負の相続税」の可能性/資本主義はマネジメントできない/「歴史的」とはどういう意味か/メタファーとアナロジー
日本人における天皇制と似ているのが、イスラム社会におけるイスラム教です。 :希望のない人の希望としての宗教/アイデンティティの基盤はどう決まる/スルーされた籠池発言の大問題/天皇が作る日本的特殊性/変わりつつある共産党/「イスラム穏健派」は存在するのか?/品格ある帝国主義の国イギリス
沖縄問題の一番のボタンの掛け違いは、中央政府の目には、自分たちの味方が敵に見えていることだ。 :沖縄くんのトイレ掃除/琉球は水戸黄門にひれ伏さない/自己決定していく沖縄/分離独立のシナリオを問う/米軍は何のためにいるのか/「絶対に負けない国」と戦ってはいけない/イキり盛りの中国海軍
北朝鮮には世論がない。韓国には世論がある。 :パワー・エリートという人種/「金持ちの無償奉仕」は美談ではない/アメリカの現状はボナパルティズム/トランプ政権の意外な支持層は/金正恩vs.トランプ/韓国が核保有国になる日/市民は欲望を追求する/『東京タラレバ娘』の生活保守主義/ポピュリズムはエリートを指弾する
言っておくけれど、受験勉強を決してバカにしてはいけない。 :総理大臣と出身大学問題/自分の未来をマネジメントする/イスラエル軍需企業の逆転の発想/AI原理の教育はエリートの重要課題/宇宙で向き合う米中露/サンデル「トロッコ問題」の背景にあるもの/ロックフェラー家の二つの家訓/ロシアを支えたエリートの力/エリートにしかできないこと
3 AIと正しく付き合うために 2018年4月5日
君たちは「常識」に疑問を持たねばならない。 :国会質疑のごとく/メディアの目的は営利の追求/教育改革の目的はどこにあるか/AIは人間の知性を超えない/国体の動揺を抑えるために/少数派の宿命
森友問題は、能力がなくてやる気のある政治家と、能力があって倫理観の欠如した官僚によって起きた案件なんだ。 :鈍感力も実力のうち/佐川局長の思考回路/悪い政治家と、うんと悪い政治家/北朝鮮の「強さ」の理由/米朝を結んだ韓国のチャンネル/大統領になりたくなかったトランプ/日本が犯した重大な勘違い
外務官僚はいま、安倍内閣のために一生懸命仕事をしないんだよ。 :役人が我慢できること、できないこと/人口のトレンドにも注目せよ/国際関係はニュートン力学/中間層市民の不安がポピュリズムを生む/国家社会主義の源流へ/社会福祉とファシズムの分かちがたい仲/ヨーロッパとアメリカのリベラル
受験勉強は総合マネジメント能力の勝負だから、君たちは十代の時点で社会の上層部に残ることがほぼ確定しています。 :灘高生の人生設計/メディアは公私の交わる場所で生まれた/情報空間は三層化する/受験勉強は総合マネジメント能力勝負/「入学歴社会」にも対応すること/「ラッセルのパラドックスってなんですか」
この国では天皇の名の下にさまざまなものが結び付くのが特徴です。 :国体を考える/今上天皇退位がもたらす大きな変化/外務省の終戦工作は「英文和訳力」で/国体が埋め込まれた国際基督教大学/外部の視点から天皇を見れば/トランプのモチベーション/アメリカのエリートは国連が嫌い
懸命に這い上がってくる人たちの気持ちを理解するには、ぜひ小説を読んでください。 :ベーシックインカムは有効か/「幸せ」ってなんだろう/自分と違うタイプの人を理解するために/官僚を目指す人へ推奨する道/予防接種としての神話教育を/通俗化の力を再評価しよう
あとがき
本書に登場した書籍一覧+α

【内容紹介】世界の行方も日本の未来も、決めるのは僕たちだ! 世界的に広がる格差をなくすには? 資本主義の終焉はいつ訪れる? 後悔しない大学の選び方は? 社会のリーダーに必要な教養とは? 切実でイキのいい問いを遠慮会釈なくぶつける高校生たちに、自らの知識と経験を惜しみなく語り伝える名講義完全採録。

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