もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

3 098 山本博文「歴史をつかむ技法」(新潮新書;2013) 感想4⇒5

2014年05月05日 16時20分38秒 | 一日一冊読書開始
5月5日(月):

255ページ  所要時間 7:50  アマゾン589円(332円+送料257円)

著者56歳(1957生まれ)。東京大学史料編纂所教授。

昨年秋書店で立ち読みして以来、恋焦がれていた本である。アマゾンで古本の値下がりを日々指折り数えて待っていた。しかし、送料を含めた実質値段は、遅々として下がらない。図書館で予約しても、気が遠くなる順番待ち状態である。本屋の店先で何度手にしただろう。結局半年で我慢し切れず、4月下旬に発作的にアマゾンに発注した。そして、待望の読書となったはず…。

不幸な出会いだった。読み始めたときの印象が、「いまいちしょうもない。恋焦がれていたのに、肩透かしやなあ。言いたい放題の割には言葉足らずで、あまりにも疎漏な話の進め方だ。特に通史がひどい、これじゃあ偉い学者先生の無責任な鼻歌を聞かせられてるようなもんだ。実証主義的史料批判を掲げる割には、自説を語るときは、説明が足りなくても、一言コメントをする(当然か…)。誤字「班田収制」「東アジア艦隊司令長官ペリー」も気になる。

特に、自説を語るときの自分への甘さが気になった。
・邪馬台国論争は所詮『魏志倭人伝』のみによるのだからよほどの発見がなければ決着しない。って、ほんとかよ。高地性集落、年輪年代法による古墳時代の前倒し、纏向遺跡の種々の大発見などどうして無視して偉そうに断言できるんだ。
・足利義満が、天皇になろうとしていたという議論は、今や研究者のほとんどが否定している。って、やっぱり変だろう。義満を太政天皇と観る当時の公家政界のあり方を永原慶二さんをはじめ、多くの研究者が指摘してきただろう。どうしてそれを、たった一言で否定できるんだ。東大の先生はそんなえらいんか。
・信長と朝廷の蜜月関係は、本能寺の変が起こらなくても続いていた。って、それこの前読んだ「3 086 本郷和人「戦いの日本史 武士の時代を読み直す」(角川選書;2012)」で、「信長は天皇を必要としなかった。信長があと5年生きていたならば、日本の天皇は深刻な危機を迎えたのではないか。220ページ 」って書いてあって、俺自身は疑義を持ったが、本郷先生も東大の先生で中世史の専門家だ。著者は、一言コメントで済ましたのは、やはり疎漏の責めを負うだろう。

全体に、歴史概論を少しでも面白く語ろうとする著者の思いが、本書を待ち焦がれて手にした俺の思いから見て、完全に空振りに見えてしまったのだ。ハードルを上げ過ぎていたので、出会いの印象が最悪になってしまった。正直「この程度の内容なのかよ…」って思いになってしまい、追い打ちをかけて誤字まで発見して、「何なんだよ、高い金払ってんだぞ!」となって、感想3になっていた。

しかし、付箋をして、線を引きながら(自分の本だから!)長い時間かけて読み終わってから、もう一度40分ほどかけて見直すと、まあそれなりのレベルであることは間違いない。正統派の学者先生なので当然だが、熱さには欠けるが、それなりに受けも狙って良心的に書かれた<良識の書>である。待ちかねた期待感が大き過ぎたために、その落差に苦しんだが、「それなりの良い内容の本である」ことは間違いない。ここは冷静になって、感想4とした。まあ高い身銭を切って買ったことも後悔はない。その程度の値打ちはある。しかし、それ以上でもない。ぼちぼちの買い物だったということで、チャンチャン。ウーン…、でもなあ…冷静になれば、やっぱり感想5を付けたい気持ちもちょっと出てきたなあ…。まあ文句言いながらも、いろいろ考えさせてくれて、楽しめたしなあ…。やっぱ感想5に引き上げます!

・私は、歴史的思考力とは、現代に起こる事象を孤立したものとしてではなく、「歴史的な視野の中で考えていく」ということだと考えています。251ページ
・歴史を学べば、視野が飛躍的に広がることになり、物の見方が豊かになります。略。歴史的思考力とは、人生を豊かにする教養になるのだと思います。歴史を学ぶ最大の効用は、まさにそこにあるのではないでしょうか。252ページ

目次:はじめに
序章 歴史を学んだ実感がない?
なぜ歴史本ブームなのか/なぜ歴史を学びたいのか/なぜ歴史がつかめなかったのか/歴史用語が混乱を誘うのか/教科書は信じてよいのか/いかにして学べば良いのか
第一章 歴史のとらえ方
1 歴史用語の基礎知識:鎌倉時代に「幕府」はあったか/天皇号のいろいろ/「日本」はいつ成立したか/用語確定の難しさ/「鎖国」の由来
2 歴史学の考え方:歴史は科学である/裁判に例えて考える/歴史研究者のスキル/否定された「桶狭間」奇襲説/時代の観念/時代の正義
3 歴史イメージと歴史小説:時代小説が描くもの/時代考証を楽しむ/時代小説と歴史小説の違い/史実と司馬作品/小説家の歴史家化/歴史小説と歴史学との違い/研究と小説の共存
第二章 歴史の法則と時代区分
1 歴史に法則はあるのか:「歩み」と「進歩」の違い/進歩史観に対する懐疑/人類史と自然法則
2 「時代」とは何か――日本史の場合:時代区分の意味/大きな時代区分/政権所在地による時代区分
3 文化史の時代区分:古代の文化/中世の文化/近世の文化/近代の文化
第三章 日本史を動かした「血筋」
1 ヤマト朝廷とは:邪馬台国論争/出土した鉄剣の意義/「直系」と血筋のルール/聖徳太子はなぜ天皇になれなかったのか/中央集権化と血筋の争い/壬申の乱の決め手
2 仏教と政争の奈良時代:律令制と遣唐使/「日本史」の始まり/政争と天皇の意向/歴史を動かした執念/泣くよ坊さん、平安遷都
3 摂関政治と院政:摂政・関白と令外官/藤原氏の陰謀なのか/天皇親政と皇国史観/関白にならなかった藤原道長/院政はなぜ始まったのか/私兵としての武士と平氏政権
第四章 日本の変貌と三つの武家政権
1 鎌倉幕府と天皇:平氏の滅亡と幕府の成立/鎌倉幕府の政治機構/源氏将軍の断絶と承久の乱/北条氏の権力掌握/二つに割れた天皇家/鎌倉幕府の滅亡
2 弱体だった室町幕府:建武の新政と三つ巴の戦乱/室町時代の始まり/室町幕府の政治機構/応仁・文明の乱と下克上/戦国大名と朝廷
3 織豊政権の天下統一:大航海時代と日本/東アジアの国際情勢/鉄炮とキリスト教の伝来/将軍義昭と信長包囲網/近世はいつ始まったか/信長と朝廷の良好な関係/朝廷が頼りにした秀吉/関白政権の特色/秀吉の「唐入り」構想
4 江戸幕府と徳川の平和:家康の覇権/江戸幕府の政治機構/上層武士と官位制度/「委任論」という両刃の剣/ペリー来航と幕府の倒壊
5 明治維新と日本の近代:廃藩置県と身分制度の撤廃/土地制度と士族の反乱/戦争が相次いだ近代日本
終章 歴史はどう考えられてきたか
1 世界史と日本史の理論:歴史理論の変遷/アナール学派の歴史学/「網野史学」の誕生/中世社会史ブーム
2 「司馬史観」と「自由主義史観」:「司馬史観」とは何か/的外れな批判
3 歴史を学ぶ意味:歴史から教訓を得る/「if」はなぜ禁物なのか/歴史に求められているもの/一番大事なのは歴史的思考力
おわりに
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