もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

8 096 酒井敏「京大的アホがなぜ必要か カオスな世界の生存戦略」(集英社新書:2019)感想4

2019年08月27日 22時38分27秒 | 一日一冊読書開始
8月27日(火):      

248ページ     所要時間1:30      図書館

著者62歳(1957生まれ)。京都大学大学院人間・環境学研究科教授。静岡県生まれ。専門は地球流体力学。「京大変人講座」を開講し、自身も「カオスの闇の八百万の神ー無計画という最適解」をテーマに登壇して学内外に大きな反響を呼んだ。「フラクタル日除け」などのユニークな発明で、京大の自由な学風を地でいく「もっとも京大らしい」京大教授。92年、日本海洋学会岡田賞受賞。

最小限の付箋をしながら、1ページ15秒の眺め読み。俺はこの著者の考え方が好きだ。感想5を付けないのは、こんな雑な読み方で「わかりました」というのは失礼に当たると思うからだ。実際、各ページの細かな理論の紹介や説明はほとんどが十分にはわからないかった。しかし、それでも著者が240ページを超える本書の中で訴えようとしていることは非常にシンプルでわかりやすい真理なのだ。真理というのもはばかられるほどの学問における<かつて(戦後の昭和)の常識>である。

バブル崩壊後、平成不況の中で、「選択と集中」の号令の下、一貫して否定、弾圧されてきた<学問・研究におけるムダ>の復権である。これを著者は<京大的アホ>と呼ぶ。能率や利益ばかりを目指す世の中の風潮が大学という研究機関に入り込んでくる中で、1990年代における2年間の大学教養部の廃止をはじめとして、目的や効用のはっきりしない研究や学問、教養は否定され、消されていった。

学問・研究の発展は99%の失敗の上に1%の成功がある。間口の狭い<専門>ばかりが叫ばれて、99%の失敗を否定して、成功だけを求めるのは一見すると能率的に見えるが、そういった「選択と集中」は学問・研究の滅びの道である。生物学的にも目的の無い「発散と選択」こそが発展への道なのだ、と説く。

では、想定外の変化に備えるにはどうすればいいのか。早い話、生物の真似をしてみればよいのです。それは「選択と集中」ではなく、いわば「発散と選択」です。未来のことはわからないのだと割り切って、公立や短期的な合理性をあまり気にせず、いろいろなことをやってみる。そのなかで、うまくいきそうなものを、「ゆるく」選択する。あまりきつく選択して「集中」してしまうと、次の選択肢がなくなってしまいます。それが「生物的」なスタイルにほかなりません。68ページ

本書の内容は、小泉・竹中の新自由主義の中で脅され、追い立てられて日本社会全体が無理やり走らされて競争させられていく中で植え付けられた能率主義によって忘れられていた<戦後昭和の正気>を思い出させ、「やっぱりあれが正しかったのだよ」と繰り返し繰り返し語りかけるものなのだ。世の中で、そして学問の分野で、<アホなこと>、<ムダなこと>が実は大切なのだ。すそ野を広げる多様性こそが成功への真の近道なのだ。急がば回れ。近道ばかりに気をとられてるとネズミの集団自殺みたいになってしまうぞ。現に今の日本の学問・研究はかつてなく急速に衰退し通あるぞ、と警鐘を鳴らしているのだ。

本書は、逆転の発想(実はそれが正気)で、「真剣に不真面目なアホになる<覚悟>を決めろ」と呼びかけているのだ。俺は、この著者の言葉が正しいと思うし、この著者の考え方が好きだ。

【目次】序章 京大の危機は学術の危機/第1章 予測不能な「カオス」とは何か/第2章 カオスな世界の生存戦略と自然界の秩序/第3章 イノベーションは「ガラクタ」から生まれる/第4章 間違いだらけの大学改革/終章 アホとマジメの共同作業

【内容情報】知の根幹が揺らいでいる。背景には、学問に対する社会の無理解・誤解・偏見があるのではないか…。現代人は何でも予測できると思いたがる。しかしながら、自然界は予定調和ではなく、予測不可能なカオスであり、生き延びるには「非常識なアホ=変人」が必要なのだ。「京大変人講座」が大反響を呼んだ「もっとも京大らしい」京大教授が、カオス理論やスケールフリーネットワークといった最先端の理論から導き出した驚きの哲学と「アホ」の存在意義、「変人」の育て方を披瀝する。

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