もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

3 081 やなせたかし「わたしが正義について語るなら」(ポプラ新書;2013/11) 感想 3

2014年03月26日 00時35分24秒 | 一日一冊読書開始
3月25日(火):

158ページ  所要時間 1:25    図書館

児童向け「未来のおとなへ語る わたしが正義について語るなら」(ポプラ社;2009)の新書版。著者の亡くなった翌月刊行。

著者90歳(1919~2013;94歳)。

1919年生まれ。高知県出身。5歳で父が亡くなり、母に捨てられ、二つ下の弟と一緒に医者の伯父夫婦に養育される。東京芸大と京都工繊大に落ちて、東京高等工芸学校・図案科(現千葉大)に進む。卒業後すぐ、1941年兵隊にとられる。1945年終戦は中国で迎え、27歳で帰国。勉強のできた弟は京都大学を卒業後、海軍特攻隊を志願して戦死していた。

高知の新聞社に1年勤め、上京、日本橋三越の宣伝部で働く。1953年(34歳)、自分を追い込むつもりで三越を退社、無名の不流行マンガ家となる。ランクでいえばABCDのDクラス。頼まれれば何でもする下積み生活で、宮城まり子と出会い、ステージの構成、司会、巡業手伝いなどをする。師を一人あげれば宮城である。「手のひらに太陽を」を作詞し、宮城まり子に提供。NHK「漫画学校」の先生役で出演。強力無比な影響力に驚く。

1969年、50歳、手塚治虫の依頼で長編アニメ「千夜一夜物語」に参加、美術監督とキャラクターデザインを務める。手塚は、恩人の一人である。当初、アンパンマンは、あんパンを配るおじさんだった。54歳の1973年、絵本「あんぱんまん」で自分の顔を食べさせる話しにするが、大変な悪評・酷評を受け、著者も全く自信がなかった。約5年後、変化は幼稚園・保育園での人気となって表われた。3歳から5歳の幼児に人気が出た。

1976年(57歳)、ばいきんまんを生み出し、ストーリーに芯ができた。基本的なキャラクター設定には映画「風と共に去りぬ」の影響があった。

スカーレット・オハラはドキンちゃん、おとなしいメラニーはバタコさん、しょくぱんまんはアシュレー、レッド・バトラーは「アンパンマンとばいきんまんを足して二で割る」。ホンマかいな?!他に、「フランケンシュタイン」(メアリー・シェリー著)も影響している。「ユニークで魅力のあるキャラクターができれば、それで七〇パーセントは決定です。作者は、キャラクターの後を追いかけていくだけでいい。103ページ」

1988年(69歳)、「それいけ!アンパンマン」の放映が開始されると、爆発的な人気を得、現在に至る。本当に遅咲きのマンガ家である。2013年10月死去。

アンパンマンのストーリーの背景には、「正義」と「善悪の共生」に対する著者の明確な哲学が存在する。本当に遅咲きの著者は、

「マンガ家なのに、コミック雑誌には一度も描いたことがない、漫画の単行本もない、絵本が約500冊、詩集50数冊、画集、エッセー、自伝、メルヘン集ととりとめもなく、整理したこともありません。「詩とメルヘン」の編集長もして、ばくが育てたのはイラストレーターですから、これでマンガ家といえるのかどうかあやしい。略。けれども人生はお金がすべてじゃありません。/人生の楽しみの中で最大最高のものは、やはり人を喜ばせることでしょう。すべての芸術、すべての文化は人を喜ばせたいということが原点で、喜ばせごっこをしながら原則的には愛別離苦、さよならだけの寂しげな人生を誤魔化しながら生きているんですね。/略。人生なんて夢だけど、夢の中にも夢はある148~149ぺーじ」

と述べる。著者は、優れた詩人なのだと思う。また、著者の反戦の精神の根っこには、<飢餓の記憶>があるこれは、「はだしのゲン」にも通底する<戦争の記憶>だ。

目次: はじめに
第1章 正義の味方って本当にかっこいい?
正義の味方について考えてみよう/食べ物がないのは耐えられない/どっちが正義でどっちが悪?/正義のヒーローはいつもみんなの人気者なのか?/悪を見破るのって難しい/  ばいきんまんは良い人に弱いんだ/悪い人にも正義感はある/悪人は優しい心も持っている
第2章 どうして正義をこう考えるようになったのか
自然が溢れていた生まれ故郷の高知/ぼくと、そして弟と――伯父の家で住み始める/母の再婚。孤独を感じていた頃/東京高等工芸学校に合格して、東京へ/二十代・三十代は自分の将来を悩み続けていました/自分を励ますために書いた歌、「手のひらを太陽に」/キャラクターがなければ存在しないのと同じ/やってみると面白い――天才、手塚治虫と必死に取り組んだ仕事/誰にでも分かってもらえる絵を描いていきたい/絵本『あんぱんまん』が生まれた日/ステージの反応でばいきんまんが誕生/キャラクターが良ければ物語は面白くなる/「面白い」には怖さも必要だ/花火は消えるから美しい?
第3章 正義の戦い方
相手を殺してしまってはいけない/正義でいばってるやつは嘘くさい/自分なりに戦えばいい/とにかくやり続ける/好きなもの以外の武器を持て
第4章 ぼくが考える未来のこと
身近な人の幸せを願う
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