5月6日(土):
488ページ 所要時間5:30 ブックオフ108円
著者72歳(1895~1980:85歳)。1920年(大正9)東京帝国大学法学部政治学科卒業。28年(昭和3)法学部教授。39年(昭和14)河合事件のとき、河合栄治郎氏に従って教授を辞任。その後衆議院議員、憲法調査会委員、お茶の水女子大学学長、国際基督教大学教授・客員教授などを歴任、その間一貫して民主社会主義の研究・普及に努める。お茶の水大学名誉教授。日本学士院会員。80年(昭和55)逝去
最後の約150ページは、著者自体に関心のある人以外は、ほとんど読む意味なし。戦後70年の今を知りたくて、50年前の本書を読めば、著者からまさに同時代的実況中継を聴けるだろうと期待して眺め読みをし始めたが、後半に差し掛かったころから「これはダメだ」、期待が裏目に出たことがわかった。
戦後わずか半年だが”公職追放”を受けている著者は、本書執筆当時1966年勲一等瑞宝章を受章している。功成り名遂げた72歳に「新しい時代の到来」を観る目を期待したのが間違いだったのか?、と思った。しかし、
その他の巻の執筆者たちは、新しい戦後歴史学の息吹きを感じさせてくれる先生たちばかりなのだが…。
1945年から1965年までという、高度経済成長の結果も出ていないし、沖縄復帰、日中国交正常化などのけじめもつかない
非常に中途半端な20年という短期間を500ページ近いページ数で書き下ろさねばならなかったこと自体には大変同情することはできる。しかし、それだけに逆に当時の雰囲気を詳細かつ興味深く描き出して教えてほしかった。
著者にとって致命的だったのは、まさに72歳という高齢と功成り名遂げて歩んできた人生によるのか?分からないが、
世間を観る目線が高過ぎて、当時の庶民・民衆の姿がほとんど出てこないのだ。そうすると、どうしても表現が抽象的で上滑りになる。それでも500ページ書けてしまうのは「すごいですね」と思うが
読んでいて面白くない。役に立たない。
さらに拍車をかけたのが
著者自身が自認する相当強い保守的立場による記述である。愛国心を執拗に強調する半面で、マルクス主義、共産主義、社会主義に対する強い拒否感が出過ぎていて、共産党を異常に敵視し、組合や、社会党、日教組に対する厳しい記述を観ると、著者自身の、あの戦争の惨禍から学ぼうとする姿勢の弱さを感じざるを得ない。
また、著者の履歴に「憲法調査会委員」とあるが、本書での
新憲法や自衛隊に関する記述は、「えっ、それだけですか…」と思えるほど少なかった。戦後20年の新生日本にとって憲法がどれほど大切かを俺は思っていたのだが、何か本書からは当時の空気感が伝わってこなかった。
もちろん俺の読書力不足はあるだろうが、著者の学者(法学部)としての盛りが、ほぼ過ぎた年齢でアンテナが古ぼけていたのも確かだと思う。本来であれば戦後20年足らずと言えども、実は無数に大切なことが書かれるべきだったはずだ。
著者の目線は、見るべきものを見ようとしていない。
そう言えば、本書の中で俺が大嫌いな卑怯者の近衛文麿の自殺は書かれていたが、敗戦の日の40日以上後の9月26日の哲学者三木清の不条理な獄死については全く書かれていなかった。東京裁判も、海外戦地でのBC級戦犯で処刑された人々のことも、在日コリアンのことも…、何にも書かれていなかった。要するに、著者の心証自体が戦犯の側にあったのではないか、と俺は疑っている。中央公論社の権威主義による人選ミスだろう。
通説的、表面的な記述は書かれてますが、本当に大事なことは書かれていない本だと思います。池田勇人以後の150ページ程はほとんど読む意味はありません。知りたければ、
他の「戦後史」の本で読んだ方がいいです。俺もここはページだけめくり、数か所に線と付箋をしただけですが、著者の歴史家としてのゆがみをチェックする印象でした。
中公文庫「日本の歴史」全26巻を持っている俺としては、このシリーズは、戦後日本史シリーズのスタンダードとして今後も読み継ぐつもりですが、
この26巻だけはハズレだ!と言っておきます。既に、存在意義を失った本です。感想を書きながら、少し怒りが込み上げてきてます。これだったら、以前に読んだ
半藤一利の「昭和史」の<戦前編>と<戦後編>の方がずっと良かったです!
【目次】戦争完敗に終わる/占領統治始まる/占領下の民主化過程/占領政策と経済復興のエネルギー/冷戦下の講和独立/保守・革新対立の様相/長期化する保守政権/技術革新と消費革命/大衆社会と大衆運動/自主外交への歩み/安保騒動の一ヵ月/所得倍増計画のゆくえ/国土と国民文化の変貌/近代化に苦悶する政治体制/平和と安全を求めて/よみがえる日本
【内容情報】
米ソ冷戦下に進められた占領政策は保守・革新の激突をもたらし、講和独立・安保問題に至ってついに国論は二分した。しかし険しい戦後史を生きぬいた国民は、ナショナリズムとデモクラシー、連続と断絶の融合の上に国論の一致を求めてゆく。