4月22日(土):
まさに”今”読むべき本です!
208ページ 所要時間5:30 古本93円+税
著者48歳(1967生まれ)。読売新聞記者、一橋大学社会学部卒。ブリュッセル支局員、エルサレム支局長、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員などを経て、2011~15年パリ支局長。
本書は、情報の新しさが命である。
欧州諸国(特に仏英)とイスラム教の葛藤の今を活写してくれる現代欧州理解のテキスト(必読書)と言える。昨日の夕刊一面に出ていたパリのテロ事件も本書を読めば、背景が手に取るように分かった。
読書としては、付箋に線まで引き始めて、なかなか前に進まなくてイライラする失敗読書だった。だが、手にした情報、新しい世界観の量も多かったので、感想は5+となる。
まもなく世界の3人に1人がムスリムになる。2070年には、キリスト教を追い抜いて信者数でイスラム教が最大の宗教になる。中近東はともかく、人口の大きいトルコ、パキスタン、バングラデシュ、インド、マレーシア、インドネシアなどのムスリムのイメージは俺の中ではけっこうゆるかった。まあ、エジプト、アラビア半島、パレスチナ、シリア、イラク、イラン、アフガンなどの中近東諸国はちょっと(戒律に)厳しそうだよな。
最近、ヨーロッパでムスリムの若者たちがテロを起こしてるようだが、それも旧宗主国として植民地支配していたイスラム世界からの移民の一世ではなく、二世・三世の欧州生まれのムスリム青年たちの貧困と疎外感が、アルカイダやISなどのイスラム過激組織に利用されてしまってるのだろうな。根本の問題は、宗教対立ではなく、移民二世・三世の貧困と疎外感が問題だし、そのうちヨーロッパだったらうまく解決するだろうな。
何と言っても、
イスラム教がどんな異なる文明とも組むことができる普遍的性格を持つ世界宗教であることは、「世界史」の基礎知識としてよく知られている。きっともう少しすれば何とかなって収まるさ。ただキリスト教もイスラム教も融通が利かない”一神教””ドグマ”なのがいけないんだよなあ。これが、俺のイスラム教に対する基本的認識だった。そして、百年・二百年単位の歴史の流れで観ればこの理解は恐らく間違っていないはずだ。
しかし、本書を読んで、「一番の問題はまさに”今”だ。直近の五十年前後で見通した場合、下手をすれば世界は大変な混乱を経験することになる。最悪”十字軍”というとんでもないことも世界史では起っているのだ」ということを、すべて具体的な事実を取り上げて、かつ直接間接に関わっている当事者の肉声を本書では知らせてくれる。著者は、読売新聞の2011~15年パリ支局長を務め、まさにシャルリーエブドのテロにパリで直に出合っている。しかも、著者は女性だ。ヨーロッパキリスト教のイスラム批判・偏見の重要項目に”女性蔑視の宗教”という視点がある。現在のヨーロッパの現実・現況について語ることのできる最適格者と言える。
本書で一番感じたのは、ヨーロッパは何もしていないのではない。無責任、無関心で知らぬ顔をきめ込んでいる日本に比べれば、ヨーロッパのムスリムの人口比率ははるかに高く、かつ精一杯ムスリムの移民・難民をヨーロッパ社会は受け入れてきたし、その人々がヨーロッパ社会に溶け込めるように精一杯の努力をしてきている。勿論、政教分離の世俗主義を徹底しすぎるフランスのような失敗もあるが、一方で多文化主義でかえってロンドニスタンを増やしてしまうイギリス、戦略的にシリア難民を積極的に受け入れるドイツ、「高負担、高福祉」と経済成長を両立しながら移民受け入れをしたものの行き詰まった北欧などさまざまではあるが、ヨーロッパは努力してきた。だが、その努力が限界になりつつあるのに、移民の二世・三世は、欧州社会で疎外感を解消できない現実をムスリムとしての自覚を再認識することに求めようとしてしまい、そこをイスラム過激組織に簡単に利用されてしまい、普通の青年が突然ホームグロウン・テロリストに切り替わってしまうのだ。
要するに、欧州は不作為ではなく、かなり意識的・継続的に努力をしてきても増加するムスリムの二世・三世のテロ問題の悪化を押しとどめられないで、急速にイスラム憎悪感を強めてしまい、「反イスラム」「反移民」「反EU」「反ユーロ」のポピュリズムが席巻するようになってきている、まさに現在、その真っただ中にいるのだ。その臨場感を、今読めば本書からそれを感じ取れる!。
それにしても、「移民受け入れ」に非常に消極的な日本政府の姿勢についてであるが、「だからこそ日本政府の判断は正しいのだ」などとは、著者は決して言ってはいない。先述したようにまもなく3人に1人がムスリムであり、キリスト教を抜いて世界最大の信者を抱えるイスラム教と
日本が無縁でい続けられる訳がない。まもなく来る「隣りのムスリム」の時代に備えて、日本は、ヨーロッパがやってきた様々な試行錯誤と失敗から一日でも早く、少しでも多くのことを学んで来るべきイスラム教徒の人々とより良き「共に生きる社会」をいかにして築くのかを学び、実践に移すべきであると著者は強く提言しているのである。
まことにもって、
本書は現代日本人・日本政府にとって必読のテキストというべきものである。特に、フランスで急速に勢力を伸ばしているポピュリズム政党の「国民戦線」とその党首「マリーヌ・ルペン」や、移民受け入れに戦略的に積極的なドイツのメルケル首相のことについて非常に詳述されているので、本当に役に立つ内容の本になっているので、ぜひ読んでみて下さい。
疲れたので寝ます。
【目次】はじめに
一 過激派志願の若者たち :消えた少女/戦闘員の妻/ネットの罠/サラの家出/豹変する若者/満たされぬ心
二 ホームグロウン・テロリスト :一九九〇年代のハイブリッド/第一号ハリド・ケルカル/ロンドニスタン/第四世代戦争/拡大するテロリズム
三 共存の葛藤 :戦後復興の担い手/ルネサンスの伝道者/ベール論争/学校からの追放/覆面ベール禁止法
四 立ちはだかる壁 :バンリューの移民街/若手議員の奔走/埋まらない格差/著名人たち/暴動発生
五 シャルリー・エブド事件の衝撃 :シャルリーとは何者か/諸刃の剣/テロ発生/犯人たち/過激思想の伝道師/自由を守れ/奪われた生命
六 イスラムと欧州政治 :悪夢ふたたび/移民の時代/人道危機と不安のはざまで/反ユダヤから反イスラムへ/地方への浸透/変わる「北欧の寛容」/オランダの変貌/政治参加の道/欧州流イスラムとは/世界とイスラム
【内容情報】
終わりなき非常事態! 多発するテロ、移民二世・三世の増加、押し寄せる難民――欧州は今まさに「イスラム化」の危機に瀕している。西欧育ちの若者が、なぜ過激派に共鳴するのか。自由の国フランスで、なぜベールの着用が禁止されるのか。戦後復興の担い手は、いかにして厄介者となったのか。そして、欧州の「自由」と「寛容」は、いかに失われつつあるのか――。長年の現地取材に基づき、欧州を覆う苦悩から、世界の明日を読み解く!
追記:激しく流動し苦闘するヨーロッパに比べて、沈滞・沈黙する日本、今でこそ表面は穏やかだが、エネルギーは絶対に消えない。今、愚か者の安倍晋三政権の下で日本社会は深いところで負のエネルギー、負の矛盾がずっしりと確実に溜まってきている。遠くないいつか、激しく混乱を伴なって噴出することだろう。そのとき安倍の愚か者はいない。そして、日本社会に分断と深い亀裂が残るのだろう。