10月13日(月)休日:
久しぶりに、録画してあった高倉健の映画を観た。若い時から健さんの映画には、強い憧れと尊敬を持っていた。俺にとって、健さんは特別に神聖な存在だった。健さんとはいえ、やはり老いは隠しきれない。しかし、最後まで観て満足を得た。やはり健さんは健さんである。きちんと自分の出るべき作品を選んでいる。それを監督はじめ、選び抜かれた一流の俳優陣が支えている。佳品だけど、それでは終わらない作品になっていた。daijinakotoha iwanaidehyougennsurunogayoi!
富山県で定年を過ぎた嘱託の技術指導刑務官(高倉健)が、晩婚で結ばれ15年を過ごした慰問童謡歌手だった妻(田中裕子)の死(53歳:悪性のリンパ腫)後、NPOから2通の遺書を示され、一通はその場で長崎の平戸に郵送される。「故郷の平戸の海に散骨してほしい」という妻の遺書を読み、もう一通の遺書を受け取り、散骨をするために老刑務官はワンボックスカーを小じんまりしたキャンピング仕様に木工技術で改造して、平戸へ旅立つ。
途中、妻との日々を思い出し、妻の思いを推し量る1200kmの旅である。途中、全国の物産展を回る北海道のイカ飯実演販売員2人に出会う。11年目の主任(草なぎ剛)と4年目の社員(佐藤浩一)の年齢が明らかに逆転していて訳ありである。
同じく妻に先立たれてキャンピングカーで旅をする元国語教師の男(北野武)から「放浪」と「旅」の違いを「目的があるかないか」「帰るところがあるかどうか」「山頭火は放浪、芭蕉は旅」と教えられる。二度目に会ったとき、その男は車上荒らしの容疑で逮捕されるが、山頭火の句集を刑務官に残す。
多少厚かましかったり、押し付けがましかったり、わけありの感じがする旅人との出会いもあり、京都、大阪、竹田城、下関、門司を経て、平戸に着く。
妻の故郷平戸での散骨は、漁港で強く忌避され、折からの台風の接近もあってなかなか実現しない。小さな食堂の母娘(余貴美子・綾瀬はるか)の懇意で散骨ができる運びになるが、結婚をひかえた娘の父は7年前に海で遭難して行方不明になっていた。「海難事故では、死体が見つからなくても3カ月で死亡認定が出る」。保険金で借金を返し、小さな食堂を開いた。
鄙びた平戸の町を歩きながら、朽ちかけたような写真館に飾られた古い写真に演壇で歌う子供の時の妻の写真を発見する。思わず「ありがとう」の言葉が口をつく。食堂の母が、娘の結婚写真を持って、「一緒に海に流して欲しい」と頼みに来る。刑務官は、あることを察する。散骨を引き受けてくれた偏屈な老漁師(大滝秀治)は、よき風格を滲ませていた。
散骨を終えたあと、富山に戻る刑務官は途中で実演販売の2人と再会する。気真面目な老刑務官は、融通が利かない役人ではなく、自分には厳しいが、他人の哀しみに優しい人間だった。
このみちや いくたりゆきし われはけふゆく 種田山頭火
長塚京三、原田美枝子、浅野忠信ほか、本当に贅沢な脇役陣だった。