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つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

久方ぶりの松本清張、「黄色い風土」は新婚を偽装した夫の真鶴岬での溺死が事件の始まり

2017年06月03日 | 斜読

book442 黄色い風土 松本清張 光文社 1962
2017年5月に車で山梨県の忍野八海に出かけた。東富士五湖道路を走っているとき陸上自衛隊の車列とすれ違った。帰宅後、富士山周辺を舞台にした本を探していて、この本を見つけた。
 松本清張(1909-1992)は久しぶりである。1960年~、北海道新聞に「黒い風土」を連載し、その後「黄色い風土」として単行本化されたそうだ。読み終わって、黒い風土の方が内容にふさわしいと思ったが、最後に登場する東富士演習場での炸裂は黄色く見えるのかも知れないとも思えた。それにしても図書館で借りた「黄色い風土」は年季が入っていた。よほど大勢に読まれたらしい。

 主人公は、都心にある新聞社の週刊誌編集に携わる若宮である。若宮が婦人問題研究家の島内に取材するため熱海に出かけるとき、東京駅で見送り人のいない新婚旅行の二人に気づく・・その当時、新婚旅行のメッカが熱海だった・・。
 若宮は熱海の蒼海ホテルに滞在している島内を訪ねるが、フロントの春田は素っ気なく外出しているという。待つことにして若宮がロビーに行くと、新婚旅行の二人がいたが、新婚らしく見えない。
 島内から帰れないと電話が入り、取材は明朝になった。若宮は蒼海ホテルに泊まることになり481号室に行くと、見知らぬ人(倉田=横尾)が洋服を届けに来る。どうやら431号室と間違えたらしい。
 翌朝、島内の取材を終えたあと、431号室は東京駅で見かけた新婚夫婦の部屋で、夫=寺田錦ヶ浦で自殺をし、妻が消えたことを知る。しかも、二人の住所は実在せず、名前も偽装だった。若宮の直感が動くが、皆目見当がつかない。

 社に戻り、編集長から投身自殺の裏を特集する許可をもらったあと、近くの喫茶店で馴染みの女給・・女給とはずいぶん古い表現、半世紀も昔のことだから松本清張も古典文学になりそう・・に会い、知り合いの女給・由美が近々金が入ると言ったまま消えてしまったことを聞く。
 由美は両親を早く亡くし、叔父の長谷川が面倒を見ていたが、長谷川はギャンブル好きで金に困っていたらしい。若宮の勘が動き、翌日、東京・大森の長谷川の家を訪ねるが、長谷川も行方知れずになっていた。何か引っかかるがまだ五里霧中である。

 偽装の新婚旅行の謎を探るため、若宮は熱海通信局員の村田を訪ね、いっしょに蒼海ホテル、錦ヶ浦を回り、自分の推論を村田に話す。村田は、若宮の推論に驚きながらも協力を約束する。
 社に戻った若宮は、小樽沖の溺死体の記事を読み、長谷川だと直感する。長谷川はバー・トリオで飲んだあと、岬から転落したそうだ。編集長の同意を得て札幌に向かうが、飛行機で沈丁花の香水の女と隣り合わせになる。
 小樽に着いてから聞き込みをすると、長谷川は何度かバー・アジサイに来たことがあること、バー・アジサイは3ヶ月前に仲介業者を介して売られ、いまはバー・トリオになっていること、仲介業者も小樽の海岸で溺死したことが分かった。この海岸ではさらに巡査部長溺死していた。謎が深まっていくが、脈絡がつかない。

 新聞で島内が講演するのを知り、札幌のホテルにいる島内に挨拶に行ったとき、沈丁花の香水の女に気づく。島内の部屋に沈丁花の香りが残っていたが、島内は知らないと否定する。

 名古屋市北区の西山旅館で殺人事件が起きる。被害者は、蒼海ホテルの春田、犯人は連れの女らしいが行方がつかめない。若宮は、連れの女は由美と直感する。
 東京に戻った若宮は、さっそく名古屋に出かけ、西山旅館に泊まる。小さなひなびた旅館で夫婦で切り盛りしていた。若宮はきな臭さを感じるが、まだ糸口がつかめない。

 事件はまだまだ続く。真鶴岬殺人事件が起きる。被害者は部屋を間違えて洋服を届けに来た男で、腹巻きに偽造千円札を隠していた。身元は東京在住の倉田と分かるが、彼は元軍人で本名は横尾で、南方で戦死したことになっていた。またも奇々怪々である。
 真鶴で火事が発生する。その一軒は奥田が経営する印刷屋だが、奥田の行き先が分からない。奥田は名古屋駅留めで機材を送っていた。その後、奥田が犬山水死する。
 さらに島内が講演中に即死する。青酸カリのようだが、講演前も講演中も何も口に含んでいない。謎が深まる。
 このように小樽、熱海・真鶴、名古屋を舞台に水死、殺人が連続する。若宮はその謎に迫ろうとするが脈絡がつかめない。しばしば推理小説では犯人や結末がどこかで予測できることが多いが、松本清張は読み手を錯乱させておき、巻末で一気にあちらこちらに仕掛けられた伏線を結びつけ決着させる展開にしている。
 戦中に組織された偽札製造の機関が登場するが、戦後の生活とは馴染みがなく、これが結末の予測を難しくさせたのかも知れない。
 結末にかかわる部分は読んでのお楽しみにしたが、現実離れしているし、あまりにも安易に人が死んでいるから、読むか読まないかはご自分で判断を。

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