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「手塚治虫マンガ音楽館」は音楽につながりを感じさせる作品を3楽章にまとめている

2019年04月30日 | 斜読

book489 手塚治虫マンガ音楽館 ちくま文庫 2002   (斜読・日本の作家一覧)
ポーランドを舞台にした本を探して「手塚治虫マンガ音楽館」を見つけた。
 手塚治虫は昭和3年1928年生-平成元年1989年没、まさに昭和の大漫画家で、子どものころにも読んだがブラックジャックや火の鳥を読んだのは大学のころだったかも知れない。

 手塚氏が医学を学び医学博士だったことはブラックジャックに反映されているが、音楽にも長けていた。編者解説の中野晴行氏は、P369音楽を聴くだけでなく楽器演奏も大好きで、学園祭でピアノ演奏し、銀座のバーにピアノがあれば腕を披露し、漫画家の集まりではアコーディオンを演奏したそうだ。

 この本は、マンガ音楽館からも想像できるように、音楽に深いつながりを感じさせる作品をセレクトし、3楽章の協奏曲風に構成している。第1楽章は音楽家をめぐる伝記的な作品、第2楽章はさまざまなジャンルの音楽をテーマにした作品、第3楽章には楽器にまつわる作品と音楽エッセイが収録されている。

第1楽章  には2編が収められている。
虹のプレリュード  ワルシャワが舞台で、ワルシャワをP5ジェヌドドゥリワルシャワ とりすましたウィスラ川のみやこ・・メランコリーの町・・と紹介している。

 フレデリック・フランソワ・ショパン(1810-1849)が登場し、ロシア帝国軍への抵抗とショパンのパリ行きが挿入されているから、1830年のポーランドにおける11月蜂起を背景にしているようだ。
 主人公はルネ・コルドックという男装した若い女性で、ワルシャワ音楽院に入学するところから始まる。ルネはショパンに次ぐピアノの腕を披露するが、抵抗組織の仲間を助けようとして殺される。
 パリに移ったショパンはワルシャワ陥落を知り、革命のエチュードを作曲して、幕となる。  ロシア帝国軍の横暴とワルシャワ市民の抵抗、ショパンの苦悩が盛り込まれている。

雨のコンダクター  1973年1月19日、ケネディセンターホールでのニクソン(1913-1994)大統領就任記念大演奏会でチャイコフスキー(1840-1893)作曲「1812年」が演奏される同時刻、ワシントン大聖堂でレナード・バーンスタイン(1918-1990)指揮によるハイドン(1732-1809)「戦時ミサ曲」が演奏された。
 大雨だったが、ワシントン大聖堂には12000人以上が集まり、大聖堂に入れない人のためスピーカーを20台セットして、演奏が始まった。泥沼化したベトナム戦争に抗議する人々の祈りが大合唱となる・・世の罪をのぞきたもう主の子羊 われらに平安を・・。
 ・・のちに、ニクソン大統領はベトナム戦争を終結させるが、ウォーターゲート事件で辞任する。

第2楽章
0次元の丘  ベトナム・リエンタ村でベトコン狩りにあった親子5人が殺された。それから9年、ジャン・シベリウス(1865-1957)作曲「トゥオネラの白鳥」の演奏を聴くと涙を流す5人が世界各地に現れた。リエンタ村に集まった5人は再会を喜び合った。殺された5人の家族が生まれ変わったという展開に、戦争の悲惨を訴えている。

白くじゃくの歌  ニューギニアに出兵した陸軍大尉は白くじゃくを助け、それから白くじゃくがなついていたが戦死する。遺品の鉄かぶとともに白くじゃくを受け取った娘のユリは白くじゃくと仲良しになった。白くじゃくはユリのピアノにあわせ踊り出し、テレビや劇場に出演し人気になった。白くじゃくは宝石を狙う悪者に殺されてしまうが、大尉の戦友の世話でピアニストになり、「白くじゃくの歌」を作曲する。戦争の悲惨とともに、人間の欲望も描いている。

うたえペニーよ  田舎の農場で暮らすペニーは歌手をめざしてニューヨークで音楽を学ぶが、ニューヨークの暮らしのさびしさに気づき、農場に戻る。幸せは足元にあるということであろう。

以下、ヒノキの精が宿った太鼓を親子3代が打ち鳴らすてんてけマーチ、大名の圧政を踊で訴えるおけさのひょう六 、機動隊の兄と反戦の弟の衝突をテーマにしたがらくたの詩が続く。

第3楽章には手塚漫画から、バイオリンが登場するミッドナイト/四月一日、ラッパが登場するロップくん/催眠ラッパ、 手塚治虫のエッセー3話、「フィガロの結婚」と私、ぼくとチャイコフスキー、二つのバッハ、 最後に手塚漫画2話、鳥人大系/トゥルドス・メルサ・サピエンス(ブラック・バード)、ブラック・ジャック/ストラディバリウスが収められている。

 手塚治虫のシリーズ漫画を読んでいるとその漫画のテーマに注意が向き、音楽に造詣の深かった手塚治虫のさりげない描写に気づかなかったことが多かった。手塚治虫の漫画から音楽に着目して漫画を集め再編成すると、音楽を通して手塚治虫が訴えようとしていることが伝わってくる。
 久方ぶりに手塚治虫の世界に浸った。本を読むのが苦手な世代にお勧めである。(
2019.4)

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