yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

「麒麟の翼」斜め読み1/2

2024年05月09日 | 斜読

斜読・日本の作家一覧>  book564 麒麟の翼 東野圭吾 講談社文庫 2014

 歴史に登場する人物を主人公にした本を続けて読んだので、趣向の異なる本を読みたくなった。読書は料理のように、同じ趣向が続くと変化が欲しくなる。図書館からいくつか本を借りたが、好みに合わなかったので途中で読むのを止めた。読書は料理よりも好みに左右されるようだ。
 図書館でうろうろしていて東野氏の本を見つけた。人気作家なのでいつも貸し出し中が多いが、「麒麟の翼」が書棚にあった。
 表紙の麒麟像は日本橋に飾られていて、日本橋を通るたびに目にする(HP「2017.9日本橋クルーズ」参照)。裏表紙によれば「七福神巡り」が鍵になるらしい。2017年1月に日本橋の七福神めぐりをした(HP「2017.1日本橋七福神を歩く」参照)。麒麟像、七福神を思い出しながら、読み始めた。

 目次は無く、1節から36節へと節ごとに舞台と登場人物が変わっていく。登場する被害者、被害者の家族、容疑者、容疑者の恋人、警察は接点を持ちながらも別々に動いているので、映像なら多チャンネルでいくつもの舞台を同時進行させられるが、小説では節ごとに舞台と登場人物を変えなければ複数の舞台の同時進行が難しい。東野氏は「麒麟の翼」で複数の登場人物に焦点を合わせた多焦点の展開を選んでいる。
 
 日本橋の麒麟像の台座で男(建築部品メーカー・本社は新宿のカネセキ金属製造本部長・青柳武明55歳)が、長さ18cmの折り畳み式ナイフで胸を刺され、命を落とす場面から物語が始まる。
 犯行現場は血痕跡から首都高速道路江戸橋入口手前の長さ10mほど、幅3mほどの地下道で、犯行時刻は午後9時少し前と推定された。ナイフの指紋は拭き取られていて、財布はなかった。
 被害者は、犯行現場から日本橋まで胸を刺されたまま、途中の日本橋交番を通り過ぎ、日本橋麒麟像まで10分ほど歩いたことになる・・疑問=なぜ被害者は日本橋麒麟像まで歩いたのか?。

 殺人事件で緊急配備が敷かれ、パトロールの警官が日本橋人形町の浜町緑道で不審人物を見つけるが、男(八島冬樹26歳)は逃げ出し新大橋通りを渡ろうとしてトラックに接触、昏倒し、病院に運ばれる。八島が被害者青柳の財布を所持していたので殺人の容疑者になったが、意識不明の重態である・・疑問=八島はあらかじめ物取りをしようとナイフを用意し、被害者を刺したのか?・・。

 八島冬樹と同居している中原香織は、失業中の冬樹から雇ってくれそうな人と会うとのメールを見るがその後の連絡が無く、午後11時過ぎに冬樹から「えらいことやっちまった」の電話が来てすぐ切れ、リダイヤルを繰り返したところ警察が出て冬樹は交通事故で京橋の救急病院に搬送されたという。
 冬樹と香織は福島県の出身で、2人とも家族はいない。高卒後、香織は介護の仕事につき、冬樹は工務店で働いていたが倒産し、5年前、2人はわずかな貯金を手に上京したが、いくら働いても生活は苦しかった。
 冬樹は国立の工場で働いていたが契約を打ち切られたうえ、体調を崩す。そんなときの交通事故だった・・八島が金に困って財布を盗んだと思ってしまうが、東野氏は予想外の展開を用意している・・。

 警察からの連絡で青柳武明の妻・史子、長男悠人、長女遙香が病院に着き、遺体と対面する。3人は刑事から武明の身辺、知人などを聞かれるが答えられず、武明についてほとんど無関心だったことに気づく。
 刑事の示したデジカメ、布製の眼鏡ケースも分からないと答える・・デジカメ、眼鏡ケースは伏線、東野氏はあちらこちらに伏線を張り巡らすのが上手い・・。

 日本橋警察署での捜査会議後、加賀恭一郎(日本橋署警部補)と松宮脩平(警視庁捜査1課)は小林主任のグループで八島冬樹と被害者青柳武明の関係を洗うことになった・・加賀は松宮と従兄弟で、加賀恭一郎シリーズの主役であり、「祈りの幕が下りる時」(book487参照)に2人が協力して事件解決にあたっていて、小林も登場していた・・。
 加賀と松宮は病院での香織からの聞き取りやその後の調べで、容疑者八島冬樹は半年前にカネセキ金属国立工場の派遣社員を辞めさせられたことを聞く・・八島は契約打ち切りを恨んで製造本部長である青柳武明を刺した、と考えれば筋は通りそうだが、東野氏の仕掛けには奥がある・・。

 被害者の長男・青柳悠人は、中学~高校の同級生で、中学では同じ水泳部だった杉野達也に「おやじが死んだ」とメールする・・悠人と杉野のメールやりとりをさりげなく挿入しているのも東野氏の仕掛けである・・。
 ワイドショーの行きすぎた報道、被害者家族のいらだちや、青柳武明の直属の部下・小竹が葬儀などを準備する話が挿入される。

 青柳武明の携帯電話の記録から、事件の3日前に武明が修文館中学に電話していたことが分かる・・悠人は高校生なのになぜ青柳は中学の先生に電話したのか。読み手の推理を楽しませようとする東野氏の伏線は多彩である・・。
 被害者は事件直前、現場近くのセルフ式コーヒーショップで飲み物を2つ注文していた・・被害者は八島とコーヒーを飲みながら面談し、話がこじれて別れたあと八島は被害者を追いかけ刺したのか。読み手に八島犯行説を匂わせながら、東野氏は次の手を打つ・・。
 加賀は松宮と人形町・甘酒横丁の手作り工芸の店「ほおづき屋」を訪ねて被害者の眼鏡ケースを見せると、女主人は、時代小紋柄で縫い方に特徴があったので買った青柳の顔を覚えていた。
 甘酒横丁と少し先が容疑者が潜んでいた浜町緑道、浜町緑道から事件現場の江戸橋は遠くない。江戸橋の先に現場になった地下道があり、近くに青柳が飲み物を2つ注文したコーヒーショップがある・・疑問=青柳はなぜ人形町辺あたりにいたのか?、読み手は加賀になったつもりで推理を楽しむ・・。

 松宮はカネセキ金属国立工場で聞き取りをし、青柳はかつて国立工場長で、製造本部長後も定期的に来ていたこと、八島といっしょに働いていた若者から、八島が工場の方針でベルトコンベアを止めずに作業していて事故が起きたが、八島の派遣会社に圧力をかけて労災の届けを出さなかったため治療は自腹となったうえ、八島は契約打ち切りになったことを聞く・・労災事故隠しで八島が恨みを抱いていて、あらかじめナイフを用意し、青柳に再雇用を頼んで断られナイフで刺した、八島犯行説は捨てがたいと読み手を惑わす・・。

 加賀は、青柳が月に一度ぐらいの頻度で来ていた人形町の喫茶店を見つける。加賀と松宮は、人形町で青柳が立ち寄った蕎麦屋を見つける。青柳は近くに小さな神社がある本町の蕎麦屋でも蕎麦を食べていた・・疑問=青柳はなぜ人形町にこだわるのか?・・。
 八島容疑者とカネセキ金属の労災隠しが報道され、小竹工場長は青柳の指示で労災隠しをしたと証言する話が挿入される。
 加賀と松宮は、人形町の定食屋の客が笠間稲荷で熱心にお参りしていた青柳を見たらしいことを聞く。しかし、妻の史子によれば青柳武明は信心深くないという・・疑問=信心深くない青柳が住まいからも勤め先からも離れた笠間稲荷で何をお参りしていたのか・・。

 八島の容態が急変、息を引き取る。病院で、加賀と松宮は香織から八島が面接に出かける前、穴のあいていない靴下を探していたことを聞く・・面接を受けるのにナイフを用意するのはおかしい。八島犯行説が崩れるか・・。
 労災隠しが青柳本部長の指示と報道され、悠人も遙香も学校で阻害される話が挿入される。

 人形町の定食屋で青柳を見た客が聞き取りを了解してくれたので、加賀と松宮は、その客から青柳は笠間稲荷で百羽ぐらいの紫色の折り鶴を賽銭箱において祈っていた、笠間稲荷はついでのお参りと話していたことを聞く・・疑問=笠間稲荷がついでなら本命はどこか?・・。 
 加賀と松宮は日本橋七福神を回って聞き取りをし、水天宮で半年ほど前から百羽の折り鶴と1000円のお焚上げ代が置かれていたこと、折り鶴は10cm角の和紙で、毎回同じ色でそろえてあったことを聞く・・疑問=水天宮は安産祈願で有名な神社である。青柳は誰の安産を祈ったのか?・・。
 加賀と松宮は、青柳が入った日本橋の蕎麦屋の近くの和紙専門店で、青柳が「和紙十色」を10セット買ったことを突き止める。  続く

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