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2009埼玉設監協主催「卒業設計コンクール」最優秀賞はベルリンの壁をモチーフにした国境博物館

2017年05月29日 | studywork

 2000年に埼玉建築設計監理協会のT氏から埼玉県内の大学生を対象とする卒業設計コンクールの相談を受けた。何回か意見を重ね、2001年4月、第1回卒業設計コンクール実施にこぎ着けた。回を重ねるに従い応募作品も増え、2009年に第9回を迎えた。この間、審査委員長を務めてきたが、準備から10年経ったので、10年一区切り、今回をもって委員長を辞任させて頂いた。皆さんのご協力に心より感謝申し上げるとともに、新しい審査委員長のもと、あふれるばかりの情熱を傾けた、審査員の度肝を抜き、新しい時代のうねりとなる提案を期待したい。

2009「第9回埼玉卒業設計コンクール」埼玉建築設計監理協会主催 
 埼玉建築設計監理協会(以下、設監協)主催・卒業設計コンクール第9回の審査会が2009年4月、埼玉会館で開かれた。10大学、26作品が寄せられ、展示された。審査までのあいだにも建築系の学生や建築事務所に勤める専門家、一般の方々が見に来られていたが、審査当日は審査の先生方と応募者の質疑応答が公開され、入賞候補者のプレゼンテーションもあることから、後輩の学生や報道関係を含め、大勢の参会者で賑わった。
 本設計コンクールは設監協主催により2001年度から始められた。主旨は「都市や建築デザインにもIT革命時代にふさわしい斬新な発想が求められている。そのような中、新しい世紀の第一線で活躍が期待される建築系学生の能力向上、育成を図る目的で、次代を先取りした意欲ある作品を広く募集し、若い学生達の考えた創造価値と熱意を奨励し、また一般の方々にアピールを行う」であり、主旨に賛同を得て、日本建築学会埼玉支所、日本建築家協会JIA埼玉、埼玉県建設業協会、埼玉住宅検査センター、総合資格学院の協賛、埼玉県、さいたま市、テレビ埼玉の後援を受けている。
 ・・略・・ 当日の審査会の様子はテレビ埼玉の取材を受けていて、20日にテレビ埼玉で放映されたそうだ。
 応募作品を順不同で列挙する・・略・・
 審査は、・・略・・ 最終選考の結果、最優秀賞は「国境博物館」、優秀賞は「ロヂハ イリグチ」と「100m農業~都心のビジネス農業」、埼玉賞は「マチ、トチ、アケル」が受賞となった。審査員特別賞は「つぼみ~畑のあるマチに住む」、「ちっちゃなアトリエ」、「人の為の森、森の為の建築」が受賞となった。

 「国境博物館」(写真)は西アジア~中近東などで頻発している民族紛争とそれに伴う人道支援ボランティアの拉致に触発され、国境問題の解決こそが平和への確実な一歩となると考えて、国境の象徴であるベルリンの壁をモチーフにした国境博物館を提示している。現在の国家数が203なので壁を203回折り曲げ、その一部を空中に持ち上げ、一部を反転させ、一部を交錯させるなど、国家、国境のあり方を問いかけようとしている。若者らしい純真さがコンセプトにあふれており、各民族、国家の文化を展示する空間構成などのていねいな表現も好評であった。しかし、203回の折り曲げ方は多様であるがなぜこの形にしたか、造形の意味が不明確ではないか、あるいは国境を取り払っても消えることのない民族の拮抗をどう考えるかなどの追究の甘さが指摘された。

 「ロヂハ イリグチ」(写真)は横浜市子安の運河沿いに並ぶ漁師の家を再編成し、新たな交流の場となる集合住宅を提案している。運河に沿った長大な構造体にスリットを挟み込んで透過性を確保するとともにそのスリットを住戸の開かれた庭とし、さらにスリットに連続させて橋をかけ、対岸に計画したギャラリーやカフェなどの公共施設とつないで回遊性を演出している。新たなまちづくりへの提案が評価された。一方、長大な建築体を一つのシステムで制御することによる均一性や単調性などが疑問として提示された。

 「100m農業~都心のビジネス農業」(写真)は食料自給率問題や若者の農業離れを背景に、東京・汐留の高層ビルを農業工場にしようとする提案である。採算性も試算したそうで、このビルが農業ショーウィンドウとなり、農業への親しみをつくり出すことを期待している。食の安全を含め、農業が取りざたされている今日、斬新な発想として評価された。が、都心農業工場では農業問題の根幹は解決されないことや既存ビルへの適用の難しさなどが指摘された。

 これらの作品や埼玉賞、審査員特別賞をはじめ、応募作品には、毎年、学生の卒業制作に懸けるひたむきなエネルギーを感じる。しかし、近年、多くの応募作がおとなし過ぎる、と思う。身近にある課題を見つけ、素直に計画をまとめていて非が少ない。が、それは「」つきの優等生に過ぎない。若者が作品を通して提示してくれる社会の改善はよく理解できるが、その先の日本が見えない。それは翻って、指導し、審査する我々の側の問題かも知れない。確かに指導し、審査するときは、いまの時代をどうとらえたかや立地環境をどうとらえたか、機能性や構築技術はどうか、空間造形の魅力はあるかなどを基準にする。しかし、矛盾するようだが、それを越えて、若者だけに与えられた鋭い感受性で課題を掘り起こし、若者に与えられた特権である奇想天外な発想力で未来を構想し、若者だから許される少々荒削りで不完全であってもほとばしる情熱をたたき込んだ提案を期待しているのである。その情熱が大人を揺り動かし、時代の流れをつくってきたことは、歴史が証明している。

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