ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

アーサー・ミラー作「るつぼ」

2012-11-11 23:11:22 | 芝居
11月2日新国立劇場小劇場で、アーサー・ミラー作「るつぼ」をみた(演出:宮田慶子)。

1692年アメリカ・マサチューセッツ州セイラム。農夫プロクターは召使いの少女アビゲイルと不倫関係を持ってしまう。
アビゲイルはプロクターを我がものとするため、神の名のもと彼の妻を魔女と告発する。折しも村人たちの悪魔憑きへの恐怖
や常日頃の相互不信と相まって、村には凄まじい魔女狩りの嵐が吹き荒れる。無実の人々が次々と逮捕、処刑されていく中で
アビゲイルらは聖女として扱われていく・・。

1953年にアメリカで初演されたこの作品は、17世紀末に実際に起きた魔女裁判に取材しながら、1950年代当時の米国
内のマッカーシズムを痛烈に批判し社会現象ともなった作品の由。

戯曲のもつ迫力にとにかく圧倒された。無邪気で純粋に見える少女たちによって、体力・知識・経験すべてにおいて勝った男
たちがいともたやすく翻弄され、ついには一つの村が崩壊への道をたどってゆく。それはおぞましい狂気に支配された世界だ。
「集団ヒステリー」という言葉が当時あったなら、そういう概念が人々の間に共有されていたら、あんなことにはならなかった
だろうに。しかし考えてみれば、これはフランス革命より百年位前の話なのだから無理もない。

自分たちが糾弾されないためには別の誰かを糾弾するしかない、というところに追い詰められた少女たちは死にもの狂いで
村の女性たちを誰彼となく告発する。名を挙げられた女性たちは証拠もないのに逮捕され処刑されてゆく。彼女らはいったん
やり始めたからには途中でやめるわけにはいかない・・。
当時の教会の様子が興味深い。新しい牧師の説教が気に入らず礼拝に出なくなったという主役の農夫プロクターのセリフなどを
聞くと、三百年前も今もあまり変わってないなあと妙に感心してしまう。いやひょっとするとこれは1950年代の米国の教会
事情なのかも知れない。

農夫プロクター役の池内博之は、こういう粗野でセクシーな男がよく似合う。しかし相変わらず激するとセリフがよく聞き取り
にくい。
少女アビゲイル役の鈴木杏は、恋人をわがものとするためには手段を選ばぬ気の強い女を熱演するが、如何せん、根が健康的で
常識的な雰囲気なのであまり怖くない。

音楽(音響)のセンスがいい。下手にメロディのある音楽を流されると、劇の内容と合わない恐れが多分にあるが、単なる音響
を適切に最小限に入れたことが効果的だった。

演出は非常にすぐれている。作者の意図への共感と尊敬とが感じられた。

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