5月22日俳優座劇場で、シドニー・キングスレー作「探偵物語」を見た(俳優座劇場公演、演出:石山雄大)。
正義感に飲み込まれた孤高の刑事の生涯を描いた不朽の名作がここに甦る!
ニューヨーク21分署の刑事部屋を舞台に犯罪者と名も無き市民等が複雑に行き交う中で、
犯罪を絶対に許さない非情な刑事が、ある捜査の過程で奈落の底に落ちていく・・・(チラシより)。
舞台中央に机が2つ。電話も2つ。上手にソファ。その奥の高いところにも椅子。
その右にドア。
中央奥に、左に降りる階段。これは出入口に向かうようだ。
奥の右はトイレ。
刑事たちが忙しくしている。新聞記者も一人いる。
デパートでハンドバッグを盗んだ若い女が取り調べを受けている。
年齢、体重、身長を聞かれ、指紋を取られる。
妹の夫が弁護士なので、電話して来てもらうことにする。
そこに一人の女が叫びながら入って来る。
部屋に見知らぬ2人の男がいた、と。
連行されて来た2人は前科者らしい。
ルイスは半年前に出所したばかりで、明らかに相棒のチャーリーにだまされている。
さらに、若い男アーサーが、会社の金を盗んで連行されて来る。
腕に「ジョイ」という入れ墨があるので問い詰められる。
彼は答えようとしないが、どうも好きな女性の名前らしい。
こんな風に、この部屋ではいくつもの事件の取り調べが同時進行する。
刑事ジム・マクラウドは署長に、容疑者の取り調べ方について注意されるが、反抗的で、まともに聞こうともしない。
「なんだその態度は!」と署長は彼の態度を咎め、「自分を神だとでも思ってるのか!?」。
「ハイハイわかりましたよ」とジム。
アーサーの逮捕を知って、ジョイの妹スーザンが駆けつける。
彼女は彼の犯罪を信じることができず、彼は海軍で4回も表彰されたんです、と彼の弁護をするが、
アーサーは彼女のことを「まだ子供なんです」と言って、帰るように言う。
刑事は、ジョイにも連絡する、と言う。
アーサーは第2次大戦のため大学を中退して海軍に入った。
歴史専攻で、歴史の教師になりたかったという。
弁護士登場。
彼の依頼人で医師のシュナイダーは、今は農場をやっているが、かつて闇で堕胎手術をして大金を稼いでいた。
今もやっているに違いない、とジムは疑っている。
弁護士はシュナイダーに、名前と住所だけ答えるように、と忠告して去る。
二人が問答していると、途中で、先日彼が手術をした少女が死んだ、という知らせが入る。
これで、彼の犯罪の証人がいなくなったということなのか。
ジムは、運のいい奴だ、と怒りのあまりシュナイダーを殴りつけ、腹をやられた男は倒れる。
署長は、さっき注意したばかりなのに、とあわてて救急車を呼ぶ。
シュナイダーは苦しみつつ、或る男の名前を口走る。
ジムは「全部お芝居ですよ」と平然としている。
<休憩>
ジムの父親は犯罪者だった。
彼は言う。
犯罪者は匂いでわかるんだ。
犯罪者に育てられたからな。
おふくろは親父のせいで精神を病んで死んだ。
新米の頃、2人の少年が盗みで連行されて来た。まだ少年だからと許して帰したら、2日後、奴らは強盗殺人で逮捕された。
こうした経験から、彼は犯罪者を激しく憎み、異常に厳しく追求するようになったらしい。
チャーリーは嘘八百を並べ立て、相方ルイスの方がワルだと説明する。
自分はニューヨークに出て来たばかりで・・と。
だが指紋を取ると、前科が山のようにあった。
相方が正直に住所を告げたので、刑事たちが行ってみると、貴金属など盗品がどっさりあった。
スーザンは姉ジョイに電話したが、姉は「自分の身に降りかかるかどうかばっかり気にしてた。姉さんが嫌いになったわ!」。
スーザンは明らかにアーサーのことを愛しているようだ。
アーサーの雇い主が来る。
どうしてこんなことをしたんだ?
私の人を見る目が間違っていたのか。
だがアーサーはなかなか訳を話そうとしない。
それでも雇い主は、彼のことを気に入っているらしく、被害届を取り下げる、と言う。
だがジムは、取り下げを認めない。
シュナイダーの入院している病院から時々電話が来る。
幸い内臓にも異状はなかった。
署長はシュナイダーが口走った名前の男を呼び出す。
個人的な関係があるのかも知れない、と疑って、ジムの妻メアリーも呼ぶ。
男とメアリーは知り合いだった。
メアリーはシュナイダーという名前を言われても、知らない、としらを切るが、男が署長にすべてを話す。
7年前二人は付き合っていて、子供ができたが、彼女が勝手におろしてしまったという。
そして彼の前から消えた。
「理由はわからない」と男。
彼はむしろ子供が欲しかった。
だから、「その医者のところに行って殴ってやった」。
医者の名前はシュナイダー、だと言う。
署長がメアリーに、すべてを聞いたと言うと、彼女は泣き伏す。
署長はジムを呼び、メアリーと男と対面させる。
メアリーはジムに告白する。
シュナイダーに一度だけ会わなくちゃならなかったの。
ジムは愕然とする。
男が「あんたの気持ちはわかる」とジムの肩に手を置くと、ジムは怒って殴りかかり、署長が止める。
男は怒って去る。
ジムはメアリーと二人きりになると彼女を問い詰める。
どうして何も言ってくれなかったんだ。
言ったら嫌われると思ったの。
純粋で無垢な女だと思っていた。
あいつと寝て、子供を殺した。殺人まで犯したのか。
この淫売婦!
淫売婦・・・そう・・。
ひどい言葉を投げかけられたメアリーは出て行く。
同僚たちが来てジムを諭す。
メアリーと結婚する前のお前がどんなだったか覚えてるか?
ああ。
彼女のお陰でお前は幸せになったんだ・・・
ジムは彼らに言われて一度は思い直すが・・。
弁護士がメアリーの過去を知っていたとわかったためか、ジムは再び怒りに駆られ、
いったん戻って来たメアリーに、またしても辛く当たる。
メアリーは家の鍵を置いて、今度こそ本当に去っていく。
ジムはがっくりうなだれてソファに沈み込む。
呆然として、死人のようだ。
同僚らが「どうして?!」と尋ねると、「わからない・・」と答えるのだった。
その時、一瞬の隙をついてチャーリーが刑事の銃を奪い、皆に銃を向ける。
皆、動けなくなるが、一人ジムだけが、静かに起き上がり、ゆっくりとチャーリーに近づく。
チャーリーはジムを撃ち、すぐに取り押さえられる。
皆がジムに駆け寄るが、彼は胸をやられていた。
苦しみつつも彼は、最後にいいことをしたいと思ったのか、アーサーの調書を破いてくれ、と言う。
アーサーは、もう二度とあんなことはしません、と誓い、スーザンと手を取り合う。
死ぬ間際、ジムが祈りを捧げると、署長が、聖職者の代わりのように祈りの言葉を口にし、
居合わせた皆が十字を切る。幕
~~~ ~~~ ~~~
目まぐるしいが、非常に面白い群像劇だった。
ただ、ツッコミどころもたくさんある。
まず第一に、翻訳の日本語が時々おかしい。
前半に3箇所、たとえば「きれいさっぱり集める」などという違和感を覚える不可思議な表現があった。
極めつけは後半の重要なワード、「いんばいふ(淫売婦)」。
これは聞き慣れない言葉だ。
こんな日本語ないでしょう。
原語は whore だろうか。
それなら淫売、淫売女、娼婦、売春婦、売女などが日本語としてふさわしいんじゃないか。
この戯曲中、最も重要なワードで、主役ジムの悲劇的な運命を決定づけてしまった言葉がこれだから、
もう、あちゃ~と言うしかありません。
そして、アーサーの犯罪の動機が不明。
片思いの相手が裕福だから、とか説明していたが、よくわからない。
また、被害者である雇い主が被害届を取り下げると言っているのに、刑事がそれを認めないなんてことがあるだろうか。
そして、署長がジムの妻を呼んだのはなぜか?
彼はどうして、彼女がシュナイダーと接点があると気づいたのだろうか。
あまりに都合が良すぎないか?ご都合春菊?
シュナイダーが腹を殴られた後、かつて自分を殴った男の名前をフルネームで口走るのも不思議だ。
署長にヒントを与えてジムの妻との関係を明らかにしてほしかったのか?
このように、ツッコミどころは満載だったが、米国の刑事たちの様態が面白かった。
正義感に飲み込まれた孤高の刑事の生涯を描いた不朽の名作がここに甦る!
ニューヨーク21分署の刑事部屋を舞台に犯罪者と名も無き市民等が複雑に行き交う中で、
犯罪を絶対に許さない非情な刑事が、ある捜査の過程で奈落の底に落ちていく・・・(チラシより)。
舞台中央に机が2つ。電話も2つ。上手にソファ。その奥の高いところにも椅子。
その右にドア。
中央奥に、左に降りる階段。これは出入口に向かうようだ。
奥の右はトイレ。
刑事たちが忙しくしている。新聞記者も一人いる。
デパートでハンドバッグを盗んだ若い女が取り調べを受けている。
年齢、体重、身長を聞かれ、指紋を取られる。
妹の夫が弁護士なので、電話して来てもらうことにする。
そこに一人の女が叫びながら入って来る。
部屋に見知らぬ2人の男がいた、と。
連行されて来た2人は前科者らしい。
ルイスは半年前に出所したばかりで、明らかに相棒のチャーリーにだまされている。
さらに、若い男アーサーが、会社の金を盗んで連行されて来る。
腕に「ジョイ」という入れ墨があるので問い詰められる。
彼は答えようとしないが、どうも好きな女性の名前らしい。
こんな風に、この部屋ではいくつもの事件の取り調べが同時進行する。
刑事ジム・マクラウドは署長に、容疑者の取り調べ方について注意されるが、反抗的で、まともに聞こうともしない。
「なんだその態度は!」と署長は彼の態度を咎め、「自分を神だとでも思ってるのか!?」。
「ハイハイわかりましたよ」とジム。
アーサーの逮捕を知って、ジョイの妹スーザンが駆けつける。
彼女は彼の犯罪を信じることができず、彼は海軍で4回も表彰されたんです、と彼の弁護をするが、
アーサーは彼女のことを「まだ子供なんです」と言って、帰るように言う。
刑事は、ジョイにも連絡する、と言う。
アーサーは第2次大戦のため大学を中退して海軍に入った。
歴史専攻で、歴史の教師になりたかったという。
弁護士登場。
彼の依頼人で医師のシュナイダーは、今は農場をやっているが、かつて闇で堕胎手術をして大金を稼いでいた。
今もやっているに違いない、とジムは疑っている。
弁護士はシュナイダーに、名前と住所だけ答えるように、と忠告して去る。
二人が問答していると、途中で、先日彼が手術をした少女が死んだ、という知らせが入る。
これで、彼の犯罪の証人がいなくなったということなのか。
ジムは、運のいい奴だ、と怒りのあまりシュナイダーを殴りつけ、腹をやられた男は倒れる。
署長は、さっき注意したばかりなのに、とあわてて救急車を呼ぶ。
シュナイダーは苦しみつつ、或る男の名前を口走る。
ジムは「全部お芝居ですよ」と平然としている。
<休憩>
ジムの父親は犯罪者だった。
彼は言う。
犯罪者は匂いでわかるんだ。
犯罪者に育てられたからな。
おふくろは親父のせいで精神を病んで死んだ。
新米の頃、2人の少年が盗みで連行されて来た。まだ少年だからと許して帰したら、2日後、奴らは強盗殺人で逮捕された。
こうした経験から、彼は犯罪者を激しく憎み、異常に厳しく追求するようになったらしい。
チャーリーは嘘八百を並べ立て、相方ルイスの方がワルだと説明する。
自分はニューヨークに出て来たばかりで・・と。
だが指紋を取ると、前科が山のようにあった。
相方が正直に住所を告げたので、刑事たちが行ってみると、貴金属など盗品がどっさりあった。
スーザンは姉ジョイに電話したが、姉は「自分の身に降りかかるかどうかばっかり気にしてた。姉さんが嫌いになったわ!」。
スーザンは明らかにアーサーのことを愛しているようだ。
アーサーの雇い主が来る。
どうしてこんなことをしたんだ?
私の人を見る目が間違っていたのか。
だがアーサーはなかなか訳を話そうとしない。
それでも雇い主は、彼のことを気に入っているらしく、被害届を取り下げる、と言う。
だがジムは、取り下げを認めない。
シュナイダーの入院している病院から時々電話が来る。
幸い内臓にも異状はなかった。
署長はシュナイダーが口走った名前の男を呼び出す。
個人的な関係があるのかも知れない、と疑って、ジムの妻メアリーも呼ぶ。
男とメアリーは知り合いだった。
メアリーはシュナイダーという名前を言われても、知らない、としらを切るが、男が署長にすべてを話す。
7年前二人は付き合っていて、子供ができたが、彼女が勝手におろしてしまったという。
そして彼の前から消えた。
「理由はわからない」と男。
彼はむしろ子供が欲しかった。
だから、「その医者のところに行って殴ってやった」。
医者の名前はシュナイダー、だと言う。
署長がメアリーに、すべてを聞いたと言うと、彼女は泣き伏す。
署長はジムを呼び、メアリーと男と対面させる。
メアリーはジムに告白する。
シュナイダーに一度だけ会わなくちゃならなかったの。
ジムは愕然とする。
男が「あんたの気持ちはわかる」とジムの肩に手を置くと、ジムは怒って殴りかかり、署長が止める。
男は怒って去る。
ジムはメアリーと二人きりになると彼女を問い詰める。
どうして何も言ってくれなかったんだ。
言ったら嫌われると思ったの。
純粋で無垢な女だと思っていた。
あいつと寝て、子供を殺した。殺人まで犯したのか。
この淫売婦!
淫売婦・・・そう・・。
ひどい言葉を投げかけられたメアリーは出て行く。
同僚たちが来てジムを諭す。
メアリーと結婚する前のお前がどんなだったか覚えてるか?
ああ。
彼女のお陰でお前は幸せになったんだ・・・
ジムは彼らに言われて一度は思い直すが・・。
弁護士がメアリーの過去を知っていたとわかったためか、ジムは再び怒りに駆られ、
いったん戻って来たメアリーに、またしても辛く当たる。
メアリーは家の鍵を置いて、今度こそ本当に去っていく。
ジムはがっくりうなだれてソファに沈み込む。
呆然として、死人のようだ。
同僚らが「どうして?!」と尋ねると、「わからない・・」と答えるのだった。
その時、一瞬の隙をついてチャーリーが刑事の銃を奪い、皆に銃を向ける。
皆、動けなくなるが、一人ジムだけが、静かに起き上がり、ゆっくりとチャーリーに近づく。
チャーリーはジムを撃ち、すぐに取り押さえられる。
皆がジムに駆け寄るが、彼は胸をやられていた。
苦しみつつも彼は、最後にいいことをしたいと思ったのか、アーサーの調書を破いてくれ、と言う。
アーサーは、もう二度とあんなことはしません、と誓い、スーザンと手を取り合う。
死ぬ間際、ジムが祈りを捧げると、署長が、聖職者の代わりのように祈りの言葉を口にし、
居合わせた皆が十字を切る。幕
~~~ ~~~ ~~~
目まぐるしいが、非常に面白い群像劇だった。
ただ、ツッコミどころもたくさんある。
まず第一に、翻訳の日本語が時々おかしい。
前半に3箇所、たとえば「きれいさっぱり集める」などという違和感を覚える不可思議な表現があった。
極めつけは後半の重要なワード、「いんばいふ(淫売婦)」。
これは聞き慣れない言葉だ。
こんな日本語ないでしょう。
原語は whore だろうか。
それなら淫売、淫売女、娼婦、売春婦、売女などが日本語としてふさわしいんじゃないか。
この戯曲中、最も重要なワードで、主役ジムの悲劇的な運命を決定づけてしまった言葉がこれだから、
もう、あちゃ~と言うしかありません。
そして、アーサーの犯罪の動機が不明。
片思いの相手が裕福だから、とか説明していたが、よくわからない。
また、被害者である雇い主が被害届を取り下げると言っているのに、刑事がそれを認めないなんてことがあるだろうか。
そして、署長がジムの妻を呼んだのはなぜか?
彼はどうして、彼女がシュナイダーと接点があると気づいたのだろうか。
あまりに都合が良すぎないか?ご都合春菊?
シュナイダーが腹を殴られた後、かつて自分を殴った男の名前をフルネームで口走るのも不思議だ。
署長にヒントを与えてジムの妻との関係を明らかにしてほしかったのか?
このように、ツッコミどころは満載だったが、米国の刑事たちの様態が面白かった。
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