ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「デカローグ 6 ある愛に関する物語」

2024-06-01 10:42:03 | 芝居
前回の続き。演出:上村聡史。



向かいのアパートに住む魅力的な女性の部屋を
望遠鏡で覗く青年の何も求めない愛とは?

友人の母親と暮らす19歳の孤児トメクは、地元の郵便局に勤めている。
彼は向かいに住む30代の魅力的な女性マグダの生活を日々望遠鏡で覗き見ていた。
マグダと鉢合わせしたトメクは、彼女に愛を告白するが、自分に何を求めているのかと
マグダに問われてもトメクは答えられない。
その後デートをした二人、マグダはトメクを部屋に招き入れるが・・・(チラシより)。
ネタバレあります。注意!

郵便局の窓口に赤いドレスの女(仙名彩世)が来て、為替が届いたという通知を渡すが、窓口の男(田中亨)は届いていないと言う。
男はノートを調べるふりをしながら、彼女をじろじろ見る。
女は諦めて去る。
男=トメクは帰宅。中年女性(名越志保)が出迎える。彼はこの「おばさん」に対して敬語で話している。
友人の母親と暮らしているのだ。
望遠鏡が届いたので、早速組み立てて向かいの棟を見る。
彼の机の目覚まし時計が鳴る。
向かいの棟の女が帰宅。
トメクは携帯電話で、女の部屋に電話する。
無言電話。しかも2度も。
女の部屋に男A が来る。
ニューヨークから帰ったばかりらしい。
「ゆっくりできるの?」
「妻には明日帰るって言ってある」
「またいたずら電話が」
「こうすりゃいい」と男は受話器をはずして置く。
女はカーテンを閉める。
彼女は絵描きらしい。
彼女の部屋は服と同様、赤だらけ。真っ赤なカーテンにクッションも赤。
壁には自作のものらしい赤い絵がかかっている。

朝、女は牛乳配達の男に話しかける。
「最近1日おきにしか配達されないんだけど」
「配達する人が足りなくてねえ」と相手にしてもらえない。
それを聞いていたトメクは、副業することを決める。
すぐに行って、「配達したいんですけど」
配達員は年寄りばっかりだったので驚かれる。
彼は、翌日から女の部屋にも配達することになった。

ある日、男 B が女の部屋に来る。
A と全然違う格好なので、別人だとわかる。
細身で黒ジャン。
2人がカーテンを閉めると、トメクは消防署に電話し、ガス臭いんです、と通報。
女の住所を言ったので、すぐに係員が駆けつけ、ガス漏れを調べる。
2人はいいところを邪魔される。
係員が帰ると、女は気が変わり、「もう帰って」。

トメクはまた為替通知を偽造して女の部屋の郵便受けに入れ、そのために騒動が起こる。
女が「上の人を呼んで」と言うと、局長が来るが、彼女が事情を説明し、書類を見せると、
局長は係員に尋ね、その男は、私が書いたものではありません、と答える。
女が警察に行く、と言うと、局長は、驚いたことに通知の書類を破いてしまう!
さらに女の顔を指して「皆さん、これが詐欺師の顔ですよ!」と路上の人々に言い放つ!

ある日、おばさんはトメクが帰宅すると、何かの記事を読んで聞かせる。
 ここに「あなたの社交性を診断する心理テスト」ってのが載ってるわよ。
 質問1:あなたは・・・しますか?
質問は10まで続くが、トメクの答えは「ノー」ばかり。
 0点よ。
 0点から5点の人。あなたは・・・人生にはこれからよいこともたくさん起こるでしょう・・・
この総評を口にする時、彼女はもう読んではいない。
わりと長い文章を、トメクの背中に向かって言う。
どうもこれは、最初から彼に言おうと考えていたことらしい。

ある日、男 C がアパートの前で女を引き止め、他の男とつき合わないでくれ、と言うが、女はきかない。
押し問答の挙句、男は女をひっぱたいて去る。
女は自分の部屋に帰り、牛乳を飲もうとして落とし、床に大量にこぼしてしまう。
背後のスクリーンに白い液体が広がる。
女はしゃがんで泣き出す。
トメクはその一部始終を見ていた。

翌日、トメクは路上で女を呼び止め、あれ(為替通知)は僕が書いたんです、と告白。
どうして?!と聞かれると、「あなたに会いたかったから」。
 ひょっとして電話も?
うなづくトメク。
呆れる女。
 昨日泣いていたでしょう。
 どうして知ってるの?!覗いてたの?!
うなづくトメク。
 どうして覗いたりしたの?
 あなたのことが好きだから。
女は呆れて去る。

その日、男 B が来ると、女はすぐに服を脱がせ、自分も脱ごうとするので
「どうした、今日はやる気満々じゃねえか」
女は男の耳元で囁く。
すると男はいきなり外に出て大声で怒鳴る。
「出てこい!覗き見野郎!郵便局員!」
トメクはあわてて望遠鏡をしまい、外に出る。
男はトメクを見ると、殴りかかる。暗転

次に外でトメクと女が出会うと、彼は言う。
 僕はあなたが好きです。あなたを愛しています!
 ・・私と何をしたいの?キスしたいの?
首を振るトメク。
 セックス?
トメクはまた首を振る。
 何も。
・・だが思いついて言う「あなたを明日カフェに招待します!」
 どこに行けばいい?
 迎えに行きます。

トメクはおばさんに友人のスーツを借りる。
 デート?
 いえ、・・・そうかも。

二人はカフェで赤ワインを飲みながら話す。
彼は孤児院育ちで外国語の勉強が趣味。
そう言えば、家では机に向かってよく辞書を引いていた。
孤児院にブルガリアの子が2人いたので最初にブルガリア語を、それから英語とポルトガル語。
ほめられると「記憶力がいいだけなんです」
彼が1年も前から覗いていると聞いて女=マグダは驚く。
友人が双眼鏡で覗いていて、彼はその後を引き継いだ。
友人は彼女のことを「マドズレ」と呼んでいた。
「窓の外のあばずれ女」の意味。
「その通りだわ」とマグダは笑う。
去年付き合ってた男が外国に行ってしまった話をすると、トメクは何通かの手紙を渡す。
その男からの手紙を盗んでいたのだ。
でもマグダは「もう過去のことよ」と言って怒らない。
トメクの手のひらに銀色のネックレスをのせておまじないをしてやる。
これからいいことがあるように。
 ほら、あそこにカップルがいるでしょう?あのカップルみたいにするのよ。
でもトメクはマグダの手を触ることもできない。
 行きましょ!
 あのバスに間に合ったら私の部屋に来てもいいわ。
 間に合わなかったら、これっきりってことにしましょ。
トメクはマグダの手を取って急ぐ。

二人はマグダの部屋にいる。マグダは彼を誘うが・・・。
下では、おばさんが、ふとトメクの望遠鏡を見て、カバーを取り、覗く・・。
トメクはマグダと別れ、帰宅し、水道のところに行って小さなガラス片?で手首を切る・・。

マグダはトメクの脱いだ上着を持って、おばさんの部屋に来る。
 トメクが忘れていったものです。トメクは?
 しばらく帰りません。
 入院したんです。
 夕べ9時頃救急車の音がしました。トメクだったんですか?
 トメクはどうしたんです?
 大したことありません。数日で退院します。
 夕べ、トメクは私の部屋にいたんです。
 私、彼を傷つけたんじゃないかと思って。
 知ってます。見てましたから、とおばさんは望遠鏡を見せる。
 彼はどうしたんです?
 それを聞いたら、きっとあなたは笑うでしょう。
「悪い女に当たってしまったのね」とおばさんは淡々と言う!
 私ももう年をとりました。でも一人は寂しい。あの子にはいて欲しい。
 あの子には会わないで下さい、とマグダの手を取る。
マグダは帰りかけて「電話も駄目ですか?」
 うちに電話はありません。

マグダは郵便局員が配達するのに出くわし、窓口にいた人は?と尋ねる。
男、あたりを見て小声で「手首を切った。失恋らしい」
彼女はトメクを探す。
やっと彼を見つけると、二人は黙って見つめ合う。
トメク「僕はもう、あなたを覗きません」


長々と書いてしまったが、何しろ構成が素晴らしいから、逐一書かずにはいられない。
そして、トメクがとにかく愛おしい。
この子には幸せになってほしい。
おばさんも個性的。
この人は、ずけずけものを言う人で、孤児のトメクに面と向かって「親に捨てられた」と言ったり、
マグダにも面と向かって「悪い女に当たったのね」と言ったり。
だが彼女も彼女なりにトメクのことを愛し、彼の幸せを願っていることが、「心理テスト」のくだりでよくわかる。
トメクの入院中、彼の代わりに老骨に鞭打つという感じで、よろよろと牛乳配達をするのがおかしい。
そしてマグダだが、彼女はトメクと出会ってこれから変わっていくのかも知れない。

十戒の第6戒は「姦淫してはならない」。

今回、音楽(阿部海太郎)も素晴らしい。
短い場面がいくつも続くが、その都度、最後に胸に沁みる曲が流れる。
すべてピアノソロの曲で、1つはハイドンのソナタらしいが、その他の曲のどれも、ドラマの内容にぴったり合っていて過不足なくてびっくり。
芝居鑑賞中、音楽に関してこんないい思いをしたのは初めてだった。
時々音楽が内容とミスマッチしていて居心地の悪い思いをしたり、音楽が、かえって邪魔だったりということがよくあった。
この人はどういう人なのだろうか。
戯曲の内容を深く理解し、感じ取ることができ、さらにその味わいを上質の音楽で表現できる稀有な作曲家。
今後の活躍が期待できる、と言うか、できることなら、またいつか、この日の曲を聴きたい。










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