ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「建築家とアッシリア皇帝」

2022-12-07 23:24:32 | 芝居
12月6日、世田谷パブリックシアターで、フェルナンド・アラバール作「建築家とアッシリア皇帝」を見た(上演台本・演出:生田みゆき)。




絶海の孤島に墜落した飛行機から現れた男は自らを皇帝(岡本健一)と名乗り、島に先住する一人の男を建築家(成河)と名付けて、
近代文明の洗礼と教育を施そうとする。お互いの存在を求め合いながらも、ぶつかりあう二人。そのうち二人は、いろいろな人物の役を
演じはじめ、心の底にある欲望、愛憎、そして罪の意識をあからさまに語り出す。その行為はやがて衝撃的な結末を生みだすきっかけになっていく・・・(チラシより)。

ネタバレあります!注意!
休憩をはさんで2時間50分という長さ。
会場には立ち見客が!こんなの見たのは何年ぶりか。SNSで評判が広まったのだろう。

冒頭、成河が島にいると、雷が落ち、飛行機が墜落する轟音が響く。舞台には段ボールがいくつもあり、彼はその一つを頭にかぶる。
岡本健一が来て、「助けてください!私はたった一人の生存者です!」と言うと、成河が箱から顔を出し、何やら未開人風の言葉を発し、逃げるので、
岡本は彼を追いかけ回す。暗転。
明るくなると、そこは2年後。岡本は成河に言葉を教えたので二人は会話できるようになっている。
岡本は世界のことを話す。自分がアッシリアの皇帝で、等々。
彼は成河に文明社会のことを教えてやった。SNS にコカ・コーラに SDGs ・・・(笑)。
二人はさまざまな人物に扮して芝居をするようになる。岡本の母、女奴隷たち・・。
成河は驚くべき力を備えている。何やら呪文をとなえて昼を夜に変えたり、鳥に頼んで水を持って来させたり、蛇に頼んで子豚の丸焼きを持って来てもらったり。
遠くの島を動かすこともできる。
岡本の母は彼を憎んでいた。いや実際のところ彼の方が母親を憎んでいたと言うべきか。
彼には妻がいたが、その結婚も、妻によれば、彼が母親を困らせるためにしたことだという。
岡本は裸になり、小屋にこもる。成河が「出て来いよ」と言っても出て来ない。
彼を小屋から出そうとして、成河は「女が来た」と言い、その女といい感じになってるとこを一人芝居して岡本の気を引こうとする(それがメチャおかしい)。
だが岡本は出て来ない・・。

ある日、成河はカヌーを作って別の島へと出て行く。岡本が止めるが、聞かない。
一人になった岡本は、自分の服を棒に着せ、裸になり、女の黒い下着をつけ始める。
そうして、かつてやったルーレットのことを皇帝陛下に向かって話すのだった。
それは、彼が勝利したら神が存在することの証明になるという奇妙な賭け事だった・・。

岡本はふと、成河は一体いくつなんだろう、と思い、彼が年に一度、髪を切っていたことを思い出す。
成河が切った髪を入れた紙包みを岡本が数えてみると、千個以上あるので呆然となる。
その時、上空に成河がヘルメットをかぶって登場。
「お前、何歳なんだ?」「わかんないよ。1500か2000かな」(!)
そこでカルミナ・ブラーナの運命の曲が響き渡って幕。

  休憩中、何と成河が舞台上に散らばった紙を黒いゴミ袋に入れて片づけ出した。お客も気がついて笑い出す。

<2幕>
岡本と母親との関係が次第に明らかになる。
彼の母は、ある時から行方不明になっていた。
成河は裁判官の仮面をつけ、岡本を母親殺しの容疑で裁く裁判を始める。
岡本の妻、弟、母の友人、偶然通りかかった酔っ払い・・が次々と証人として発言する、と言っても、彼らはみな岡本自身が扮するのだった。
弟によると、岡本は15歳の時、10歳だった弟を風呂場で性的虐待したという。
彼の母親は「いつか息子に殺される」と言っていた、と彼女の友人は証言する。
そして実際その通りになったらしい。
岡本は成河に、死刑にしてくれ、と言う。
成河は、もう裁判のお芝居はやめよう、と言うが、岡本は聞かない。
そして「ハンマーで俺の頭を打って殺してほしい、その後、俺の体を食べてほしい」と言い出す。
成河は戸惑いつつも、言われた通りにする。
メモが小屋にあり、「俺を食べる時は母の服を着てくれ」とあるので、成河はあわてて岡本の荷物の中から母の服を取り出し、
コルセットと赤い胸当てをつける。(岡本を打ち殺すシーンはない)
ナイフとフォークを持ち、まず足を切ろうとするが、硬くて切れない。のこぎりでもダメ、斧でやっと切れる。
こうして足を食べ始め、次に頭に穴を開け、脳みそをストローでチューチュー吸う。
こうして成河は岡本の脳を自分のものにしたが、その後、自分の話し方が岡本のようになったのに気づく。
と同時に、動物や自然を操ることができなくなっていた。(命令口調になっちゃったし)
成河は死体を置いた台の向こう側に死体を落とし、自分もそちら側に行く。
しばらくすると、同じ服を着た岡本が登場!
さらにしばらくすると、雷が鳴り、飛行機が墜落する爆音が。
岡本が段ボールを頭にかぶると・・・冒頭の岡本の服装をした成河が登場!
「助けてください。私はたった一人の生存者です」
すると岡本は何やら未開人ぽい言葉を発して逃げ、成河が彼を追い回すのだった・・・(!)

奇妙な味わいのおとぎ話のような作品だが、二人の名優の熱演のお陰ですこぶる楽しいひと時だった。
何と言ってもキャスティングが素晴らしい。
まるで二人に宛て書きされたかのようだ。
演出も面白い。
上演台本もいい。絶海の孤島に一人住む男にSDGs を教えるって一体・・・実におかしい。
小鳥に水を持って来て、と頼むと、鳥がペットボトルの水をくわえて来たり、学芸会のような楽しさがある。
ただ、途中で波の上に戦車が見えたのは何だったのか。

音楽は名曲のオンパレード。カルミナ・ブラーナ、ヘンデルのオペラ、モーツアルトのレクイエム、ヴェルディのレクイエム・・・。

少し冗長なところは削ってもよかったかも。
チラシによると、作者はスペインに生まれ、フランスに移住した人で、これはフランス語で書いた代表作で衝撃的な問題作とのこと。
「1967年のパリ初演から55年を経た今でも色褪せない、残酷で倒錯的な世界・・」とあるので少々怖気づいたが、
実際に見てみたら心配したようなことはなかった。
たぶん、死体を食べるシーンがあるのが「残酷」ということなのだろう。

開場前にロビーで松岡和子さんを発見!
こんなに近くで拝見するのは初めてで、いささか興奮した。






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