ふくろたか

札幌と福岡に思いを馳せるジム一家の東京暮らし

東京ミステリ25年/エリア編

2021年08月18日 | 東京ミステリ25年
夏の甲子園:大阪桐蔭7対4東海大菅生(8回途中降雨コールド)
東西強豪校対決に無情の雨。試合開始の判断に非難の雨も降り注いだ。

さて本日は「東京人」東京ミステリ特集の読み比べ企画。
96年版と21年版がチョイスした都内のエリアの差異を語る。
まず96年版のエリアと作品。
  • 新宿(文・川本三郎)大沢在昌「新宿鮫」シリーズ
  • 浅草(文・高橋康雄)江戸川乱歩「押絵と旅する男」「一寸法師」
  • 銀座(文・阿刀田高)松本清張「彩り河」ほか
  • 深川・飛鳥山・両国(文・西上心太)
宮部みゆき「パーフェクト・ブルー」「夢にも思わない」
島田荘司「展望塔の殺人」小杉健治「土俵を走る殺意」
  • 東京駅(文・香山二三郎)
松本清張「点と線」西村京太郎「東京駅殺人事件」ほか

続いて21年版のエリアと作品。
  • 銀座(文・松坂健)
久生十蘭「魔都」広瀬正「マイナス・ゼロ」
戸板康二「車引殺人事件」日影丈吉「女の家」ほか
  • 浅草(文・松坂健)
中井英夫「虚無への供物」
都筑道夫「泡姫シルビア」「ホテル・ディック」各シリーズ
  • 西東京(文・新保博久)
若竹七海「さよならの手口」岡崎琢磨「下北沢インディーズ」
北森鴻「花の下にて春死なむ」東川篤哉「謎解きはディナーのあとで」
  • 新宿・中野・池袋(文・新保博久)
都筑道夫「やぶにらみの時計」佐々木譲「新宿のありふれた夜」
大藪春彦「野獣死すべし」京極夏彦「姑獲鳥の夏」ほか
  • 神田・神保町(文・松坂健)
紀田順一郎「古本屋探偵の事件簿」
逢坂剛「クリヴィツキー症候群」「おれたちの街」
  • 東京下町(文・新保博久)
東野圭吾「新参者」宮部みゆき「東京殺人暮色」
小杉健治「灰の男」半村良「下町探偵局」ほか

各エリアへの双方のアプローチは大きく異なる。
端的に言えば、96年版は「直球」(悪く言えばベタ)。
21年版はかなりの「変化球」にチャレンジしている。

それが顕著なのが「浅草」だろう。
「浅草=乱歩」の視点は96年の時点で
松山巌の名著「乱歩と東京」(84年初版)や
島田荘司の評論「江戸人乱歩の解読」(89年初出)が世に出ていた。
前世紀末の時点で「切っても切り離せぬ」とされた視点とも言える。
対して21年版は吉原(千束)を絡めてまでも乱歩の「ら」も出していない。

この「~を絡めて」という手法は21年版の特色だ。
中野・池袋を絡めた「新宿」以外にも、
「銀座」には歌舞伎座がある東銀座の界隈を、
「下町」には宮部みゆきのホームグラウンドである深川のほかに
人形町などを絡めて、エリアに広がりを持たせている。
96年版になかった西東京(吉祥寺・下北沢・三軒茶屋・国立など)や
「東京人」の読者を意識した神保町を盛り込んだこともその現れだろう。
この四半世紀の作品の舞台の広がりを示すとともに、
前回も言及したが、より広いエリアを読者に歩いてもらう意図を感じる。
「点」に過ぎない東京駅を21年版でスルーしたこともその意図の現れか。

ただ、96年版は96年版で捨て難い味がそこかしこにある。
街の古本屋でこの号を見つけた乱歩好きには絶対に入手してほしい。
上に記した「浅草」の項の挿絵が石原豪人なのだ
乱歩の著書以外にも学習雑誌からゲイ雑誌の挿絵までこなした
この怪人画家は98年に亡くなった。
この号に寄せた3ページの総天然色の挿絵
晩年の作品とは思えないほどに奇妙なエネルギーにあふれている。

次回は後回しにしていた96年版と21年版の総論の差異を語る。

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