goo

巨人の星


梶原一騎:原作 川崎のぼる:作画      講談社

 ジョージ・ルーカスのスターウォーズはフォースの暗黒面に囚われた父と、それを救おうとする息子の物語だった。前期3部作は息子ルークが主人公で、父アナキン=ダースベイダーをのり越え、倒し、最終的に父が救われる。後期3部作は父アナキンが主人公で、いかにしてアナキンがフォースの暗黒面に捕らわれていったかを描いている。
 この漫画は日本の代表的な漫画だ。知らない人はいないだろう。だから、どんなお話か説明する必要はないだろう。元野球選手だった父が、自分が果たせぬ夢を息子に託し、息子が艱難辛苦を乗り越えて輝く巨人のエースとなる。ま、こんな話である。阪神ファンの小生からみれば巨人がそんなにエライのかと思うが。
 スターウォーズのアナキン・スカイウォーカーはフォースの暗黒面に落ちて銀河帝国の走狗となり、最後は銀河皇帝を自らの手で殺し、息子ルークに看取られて、暗黒面から解放されつつ死ぬ。
 この「巨人の星」では野球の暗黒面に囚われた父星一徹が、息子星飛雄馬をむりやり野球の暗黒面に取り込み、飛雄馬は暗黒面に苦しみ、三つの大リーグボールなる珍妙な球を開発して、一時は「輝く巨人の星」となるが、最後は腕の筋肉を壊し、いずこともなく去っていって物語は終る。スターウォーズはフォースの暗黒面の父を息子が救う話だが、本作は野球の暗黒面の父が、息子を暗黒面に引きずり込み、息子は左腕の筋肉と引き換えなければ暗黒面から解放されなかった。星一徹はアナキン・スカイウォーカーより強く、星飛雄馬はルーク・スカイウォーカーよりも弱いということだ。「美味しんぼ」の海原雄山が息子山岡士郎と和解したから、星一徹は最強のオヤジかも知れない。
 いまやギャグとなった本作だが、小生は少年マガジン連載時にリアルタイムで読んでいる。あの時は素直に感動し、ワクワクしながら読み、次週が待ちきれなかった。21世紀になって、このたび読み直し、大仰で濃く臭いところも多々あったが、素直に感動する場面もあった。例えば飛雄馬に去られ、明子に去られ、一徹がうらぶれた長屋に一人取り残されるシーンなど涙さえ覚えた。それに次々とページをめくらせる技術はものすごい。梶原一騎、ただの暴力オヤジではなかった。稀代のストーリーテラーである。
 その梶原自身が作中でいっている。飛雄馬のやっていることは邪道である。野球とは本来、思いっきり投げた球を思いっきり打つものだ。その通りだ。大リーグボールはしょせん小手先の手品だ。タネが判れば打たれる。藤川球児の火の玉ストレートはタネが判っていても打てない。飛雄馬は二流投手で球児は一流投手なのだ。
 飛雄馬は小柄という投手としては致命的な欠点を補うため、珍奇な球を開発したのだが、小柄ということは投手としてハンデではない。阪神のみょうばんピッチャー渡辺亮は175cmとプロ野球投手としては小柄だ。ヤクルトの石川雅規なんかは170cmに満たない。それでもこの二人はプロのピッチャーとして充分通用している。
 確かに本作は時代の流れに流されて、作者梶原一騎の意図とは違う価値観で読まれるようにはなったが、いくら時がながれても不変の価値観も有る。そのような価値観が本作の仲にはまだまだ沢山残っている。昭和を代表する名作漫画であることは変わらない。 
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
« 阪神、地味に... 「小松左京に... »
 
コメント
 
 
 
梶原作品 (giants-55)
2012-07-02 15:20:35
書き込み有り難う御座いました。(レスは、当該記事のコメント欄に付けさせて貰いました。)

梶原作品、子供の頃大好きで読み漁りました。今じゃあ「古臭い。」と一笑に付されてしまうのだろうけれど、当時は其の「古臭さ」、即ち「泥臭さ」が堪らなく好きだった。

「巨人の星」や「侍ジャイアンツ」で登場した“魔球”に魅せられ、真剣に投げようとトライした御馬鹿なガキんちょ時代。スポーツ系ヴァラエティー番組の中で、トランポリンを使ってハイジャンプ魔球を投げる等の企画を目にした時は、良い歳をしてグッと来る物が在りましたし。
 
 
 
giants-55さん (雫石鉄也)
2012-07-02 15:49:43
今から考えると、確かに「古臭い」」「泥臭い」ですが、あの当時は、梶原一騎の語る「熱い語り」に熱狂したものです。素直だったんですね。
梶原一騎は確かに時代遅れですが、梶原一騎の「熱さ」を感じる部分がまだ自分にもあるということに気がついてちょっと安心なような気がします。 
 
 
 
印象 (アブダビ)
2016-01-01 11:02:05
梶原作品って、ハッピーエンドとは遠い作品が多いですね。ジョーといい飛竜馬といい、カラテ地獄編や人間凶器といい。
当人が暗黒面に堕ちて終りましたし。
それと巨人の星にせよ、一徹が復員して焼け野原を歩いているシーンが良く印象に残ってるんです。
空手バカ一代も焼け野原から始まりますし。アプレゲールなんでしょうね。
 
 
 
アブダビさん (雫石鉄也)
2016-01-01 15:32:31
梶原一騎はそういえばそうですね。「空手バカ一代」も「巨人の星」も戦後の焼け跡が印象に残ってますね。スポコン漫画といいますが、スポーツにとり殺される話が多いですね。
 
コメントを投稿する
 
現在、コメントを受け取らないよう設定されております。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。