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とつぜん対談 第114回 古時計との対談

 カンカン照りの陽射しは木の葉がさえぎってくれるから、暑さはマシだが、なんせヤブ蚊が多い。あ、かゆい。また刺された。身体のあちこちがかゆくてたまりません。あ、見えてきました。林を抜けた先に古い洋館が建ってます。
 今回の対談相手は、この洋館の中におられます。ギギギギー。古びた扉を開けて中に入ります。うわっ。クモの巣だらけだ。あ、おられました。あのつき当たりにおられます。古時計さんです。


雫石
 こんにちは。

古時計
 ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。

雫石
 あの。古時計さん。こんにちは。

古時計
 ボーン。ボーン。

雫石
 あのう。ボーンだけじゃわからないんですが。

古時計
 ボーン。ボーン。

雫石
 あのう。

古時計
 わかっておる。トシは取ったが耳はちゃんと聞こえておる。今は午前9時じゃろ。九つボーンを鳴らさなきゃならんのじゃ。ワシの大事な仕事じゃ。

雫石
 へー、まだ現役なんですね。

古時計
 あたりまえだ。ワシはまだまだ元気じゃ。

雫石
 この家の人は?

古時計
 みんな亡くなった。

雫石
 するとこのお屋敷は廃屋なんですね。

古時計
 おこるぞ。ここは廃屋じゃない。こうしてワシがこの屋敷を守っておる。

雫石 
 守ってるとおっしゃいましたが、具体的にはなにしてるんですか。

古時計
 この屋敷の時の流れはワシが司ってるんじゃ。

雫石
 こんなだれもいないお屋敷で。

古時計
 たしかに、今はだれもいないが、いつ、だれが、この屋敷の主人になってもいいように、ワシが時間だけを動かしているのじゃ。

雫石
 このお屋敷の時間はあなたが動かしてるんですか。

古時計
 そうじゃ。ワシがこうして時間を動かしているから、この屋敷がこうして21世紀の今の世にあるんじゃ。

雫石
 このお屋敷はもともとどなたのお屋敷だったのですか。いつ建てられたのですか。

古時計
 建てられたのは明治41年。清野兵太郎公爵の別邸として建てられたのじゃ。

雫石
 では、その清野公爵がずっとお住いで。

古時計
 そうじゃ。公爵は一昨年亡くなられた。138歳じゃった。

雫石
 138歳!そんな人がおられたんですか。

古時計
 そうじゃ。ワシはこの屋敷ができた時にここに掛けられた。この屋敷で行われたことはすべて見て来た。

雫石
 このお屋敷でそんなにいろんなことがあったのですか。

古時計
 清野兵太郎公爵は一般には知られていない人物だが、明治以降の日本の真のフィクサーともいうべき人物じゃ。

雫石
 清野兵太郎公爵。私も知りません。

古時計
 明治、大正、昭和、平成と4代を生き、この日本を影から動かしてきたお方じゃ。

雫石
 へー。

古時計
 日本の大きな決めごとはすべて、この屋敷で決められてきたのじゃ。

雫石
 そんなお屋敷の時間を司っていたのですね。あなたは。

古時計
 そうじゃ。例えば、先の第二次世界大戦の日本の無条件降伏は昭和二十年の御前会議で決まったとされているが、本当は、その前年、清野公爵が時の東条内閣の閣僚全員をこの屋敷に呼んで決めたのじゃ。

雫石
 へー。そうですか。

古時計
 1972年。田中角栄がこの屋敷に来た。日中国交回復を清野公爵に相談するためじゃ。

雫石
 このお屋敷は日本を動かしていたんですね。

古時計
 そうじゃ。そして屋敷の時間を動かしていたのはワシじゃ。

雫石
 あなたが止まるとどうなります。

古時計
 ワシはもうすぐ止まる。見ておれ。

雫石
 あ、どうしたんですか。ああ、振り子が止まった。うわっ、天井からホコリが落ちてきた。壁にひびが。あぶない逃げよう。

雫石
 ああ、お屋敷が崩れ落ちた。うん。なんだこの揺れは。うわっ大きな地震だ。

 南海トラフ大地震、富士山大噴火。そして鬼島カルデラの大噴火が同時に起こった。日本の時間が止まった。
 
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