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黒革の手帖


 松本清張   新潮社

 主人公は悪人である。ピカレスク・ロマンである。ピカレスク・ロマンは悪人が悪をつくして、さらなる巨悪をやっつけるというモノだが、本作は主人公もやっつけられるヤツもおんなじような悪人だ。
 主人公の原口元子は元銀行員。銀行の金をババして、その金で銀座にバーを開店してママにおさまる。元子の武器は黒い革の手帳。架空名義の口座やら外聞をはばかる口座のリストを作成黒革の手帖に記録して、支店長と次長をおどしてまんまと7500万をせしめて銀行におさらば。
 上昇志向の強い元子はそれで満足しない。もっと大きな店を手に入入れようと算段する。次のターゲットは大きな産婦人科病院の院長。保険外診療でたんまりもうけてため込んでいる。もちろん脱税もしている。これを黒革の手帖に。その病院の看護婦長を使って院長をおどす。
 こんなことでは元子の欲望は満足しない。次なる犠牲者は医大系予備校の経営者。医者の息子を医大への裏口入学をあっせんして大儲け。現実には文部省の官僚が自分の息子をズルしてたけど。
 原口元子もワルだけど、院長や予備校経営者もどうしようもないワル。この小説、ワルもん図鑑ともいえる。ワル、クズ、バカ、アホがたくさん出てくる。
 この原口元子はいわば男女格差社会の犠牲者といえる。ベテランの銀行員。たいへんに有能だが、女だから出世の見込みはない。若くない。30代半ば。美人でもない。このまま、銀行の白い壁に囲まれて、地味な女性銀行員として一生を過ごすのか。過ごさなかった。元子は飛び出した。白い壁から。黒い革の手帖を持って。ちなみに表紙の写真は武井咲だがぜんぜん原口元子ではない。
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