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とつぜん対談 第105回 胃カメラとの対談

 ここはとある病院の地下室。奥の方に物置があります。使われなくなった古い医療器具が保管されています。その方はナースキャップの棚の隣におられるはずです。ナースキャップ。昔は「白衣の天使」看護婦さんの象徴でしたが、今はナースキャップをかぶった看護師さんは少ないです。
 あ、おられました。細長い身体を横たえて休んでおられます。長い年月にわたって多くの患者の診察にたずさわってこられた疲れをいやされておられます。きょうの対談相手は胃カメラさんです。

雫石
 お休みのところ、もうしわけありません。胃カメラさん。

胃カメラ
 いいよ。私みたいな引退した医療器具になんの用だ。

雫石
 わたし、ついこの前も胃カメラを受けたばかりなんです。実は、わたし、胃潰瘍持ちでして、胃カメラさんにはさんざん世話になりました。

胃カメラ
 私の後輩たちだろう。私はかなり古い胃カメラだ。

雫石
 わたしは若いころも胃潰瘍で、ずいぶん昔から胃カメラは受けてましたよ。あなたのお世話になったかも知れません。

胃カメラ
 そうかも知れないな。ずいぶんたくさんの患者さんを診てきたからな。私も。

雫石
 あなたは人の胃を見る人生?だったわけですね。一番うれしかったことはなんですか。

胃カメラ
 そりゃ、胃が苦しくて不安いっぱいで来た患者さんを診て、心配ないと医師からいわれて、ホッとして安心して帰って行かれる患者さんがおられるのが一番の楽しみだね。

雫石
 ほんとですか。そんなたてまえではなく、本音をいってくださいよ。

胃カメラ
 私は人の胃の中をのぞくのが楽しみで胃カメラになったんだ。

雫石
 はい。

胃カメラ
 それでな。患者の胃の中に入る前はワクワクするんだ。

雫石
 ほう。人の胃を診るのがよほど好きなんですね。

胃カメラ
 そうなんだ。さあて、この人の胃の中はどうなっているんだろうと思うと、うれしくて楽しくて。

雫石
 で、どうなんです。その胃が健康な胃だったら。

胃カメラ
 ほんとのこというと、がっかりだな。なんにもないと。

雫石
 患者さんが喜べばうれしんじゃないですか?

胃カメラ
 うれしいよ。しかし、なんにもないとがっかりするのも正直なところだ。

雫石
 でっかい癌でもあれば満足なんですか。

胃カメラ
 そういうわけではないけど。ところで、最近の私の後輩たちの仕事は。患者にとってはかなり楽になったろ。

雫石
 都合が悪くなって話題を変えましたね。そうですね。最近は鼻から入れる胃カメラだからほとんど苦痛はありませんね。

胃カメラ
 そうだろう。私は口から入れるタイプの胃カメラだから、だいぶん患者をゲーゲーいわしたもんだ。

雫石 
 わたしも胃潰瘍持ちだから口から入れる胃カメラの経験は豊富ですよ。

胃カメラ
 ゲーゲーいったろ。

雫石
 使う医師によりますね。下手な医師だとゲーゲーいいます。

胃カメラ
 ところが、きみは私のことを胃カメラといってるが、正式には上部消化管内視鏡というんだ。

雫石
 そうですか。でも胃カメラの方がいいやすいから胃カメラと呼んでいいですか。

胃カメラ
 べつにかまわんが。いまでこそ私たちがいるから胃の診断も楽になったが、昔はすごかったんだぞ。

雫石
 へー、どんなんだったんです。

胃カメラ
 胃カメラの原型といわれてるのが、患者の口から真っ直ぐ金属の棒を突っこんで患者の胃をのぞくというモノなんだ。

雫石
 へー、それじゃ、拷問ですね。

胃カメラ
 きみは、X線、CT,MRI、エコー、内視鏡、身体の中を見られるのはみんな経験したと自慢してたな。どうだ、胃カメラの先祖の胃のぞき棒を経験してみるか。

雫石
 うへー。ごかんべん。



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