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11/22/63


スティーヴン・キング  白石朗訳  文藝春秋

 読了後の感想。長かった。ともかく長かった。宮部みゆきの「ソロモンの偽証」も長大な作品だったが長さは感じなかった。ところがこの作品は長いと感じた。さすがにキングはうまく、読んでいるときはすらすら読めて、それなりに面白かったが、全体としてはくだくだとムダに長い。宮部みゆきの失敗作といったところか。
 時間旅行、歴史改変小説だから、カテゴリーで分類すればSFに分類してもいいと思うが、SF的な興趣は少ない。時を旅する、歴史を変える、そのことの面白さよりも、こういうSFの文脈はテーマに直結せず、作者のキングの興味は別のところにあると思うのだが。
 タイトルの数字は1963年11月22日のこと。アメリカのケネディ大統領が暗殺された日。主人公ジェイク・エピングは高校の教師。友だちのアルから奇妙な頼みごとをされる。「ウチの食品庫に『兎の穴』がある。その穴を通ると過去の世界へ行ける。俺はガンでもうすぐ死ぬ。君は俺の代わりに過去へ行ってくれ」ジェイクがアルから頼まれたこと。それはケネディ暗殺の阻止。ケネディが死んだことによってベトナム戦争が激化。その悲劇を防ぎたい。ジェイクは「兎の穴」を通って過去へ行った。
 つっこみどころはいろいろある。まずベトナムの悲劇といいつつも死者の数をアメリカ人の死者しか計算に入れていないようだ。それよりももっと多いベトナム人の死者は数に入ってないのではないか。それにケネディが生きててもベトナム戦争はひどくなっただろう。だいたいが北爆を始めたのは、ケネディの副大統領だったジョンソンではないのか。ま、それはそれとして。
 時間旅行ものは時間旅行にどういう制約を課すかが作家の腕の見せ所。それによって親殺しに代表されるパラドックスの扱いが違ってくる。この作品の場合タイム・パラドックスはあまり関係ない。で、この作品の時間旅行の制約は。
 「兎の穴」しかタイムトラベルができない。
 1958年9月9日にしか行けない。
 2011年に戻って来ても2分しか経ってない。
 1958年で何かしても、2011年に戻るとすべてリセットされる。
 この1958年にしか行けないというのがこの作品のキモ。ケネディ暗殺は1963年だから、直前に暗殺を阻止しようとすると、過去の世界で6年間生活しなければならない。作者キングは、この1950年代終わりから1960年代初めにかけての、20世紀のアメリカの生活を描きたかったのではないか。
 この過去の世界で、主人公ジェイクは、別名ジョージ・アンバースンと名乗り、高校教師として職を得、人望も得て、元校長、現校長にかわいがられ、演劇部の顧問として生徒たちに慕われ、そして図書館司書のセイディーと恋仲となる。実はこの作品、SFではなく純愛小説だったのだ。
 
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