goo

SFマガジン2014年4月号


SFマガジン2014年4月号 №697
                   早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 イシカリ平原        谷甲州
2位 ウナティ、毛玉の怪物と闘う ローレン・ビュークス 鈴木潤訳
3位 環刑錮           酉島伝法
4位 スピアボーイ        草上仁
5位 否定            クリストファー・プリースト 古沢嘉通訳
6位 遊星からの物体Xの回想   ピーター・ワッツ 嶋田洋一訳

連載
エピローグ(プロローグ)    円城塔
椎名誠のニュートラル・コーナー 第42回
我はなぜそのホテルの夜明けがうれしかったのか 椎名誠
エンタメSF・ファンタジーの構造 飯田一史
現代日本演劇のSF的諸相     山崎健太
近代日本奇想小説史(大正・昭和編) 第9回 横田順彌
SFのある文学誌 第28回         長山靖生

 4月号は毎年恒例「SFが読みたい!」の上位作家の特集。と、いうことで「ベストSF2013」上位作家競作という企画。この企画、昨年は及第とはいいかねる。今年は国内1位の酉島伝法、3位の谷甲州、海外1位のクリストファー・プリースト、2位のピーター・ワッツが登場。これに加えて、企画外の読み切り短編として草上仁とローレン・ビュークス。さて、今年はどうだろうか。
「イシカリ平原」甲州のライフワークともいえる「航空宇宙軍史」再開。新シリーズ発進。今の日本SF界で本格的な宇宙SFを書くのは/書けるのは、谷甲州だけだろう。小惑星観測基地に女性科学者がやって来る。彼女はどうも科学者というよりも軍人っぽい。時を同じくして不可解なデブリが接近する。
 小生がSFを読み始めたころは、光瀬龍の宇宙SFを愛読した。特に年号のついた短編は、宇宙に生きる男たちの哀歓を描いたSFだった、考えてみれば谷甲州は光瀬龍の後継者ではないだろうか。
「ウナティ、毛玉の怪物と闘う」渋谷の町にゴジラぐらいでっかい毛玉の怪物出現。サイコー戦隊のウナティ曹長が戦うも戦隊員全滅。少女ウナティだけが生き残る。そんなウナティの前に奇っ怪んな作家ハルキが。南アフリカの作家が東京を舞台に描く怪作。おかしげなポップカルチャーで彩られた戦闘少女もん。
「環刑錮」赳志は父を殺した。終身刑。巨大なイモムシのようなモノになった。異様なセンスと言葉使いで描かれる摩訶不思議なお話。独特の言語感覚。この作品、原稿を書いた時は、さぞかし変換作業が大変だっただろうな。
「スピアボーイ」惑星スタンウィックは重力が小さく大気は濃厚。その星の空中生物スピアはジェット推進で空を飛ぶ。家畜スピアを多数飼育する牧場。スピアを馬のごとく乗り回すスピアボーイ。経験豊富なベテランスピアボーイのマドックは血気盛んな若手スピアボーイのハンと対決する。爽快なSFウエスタン。
「否定」ディックは国境警備につく若い兵士。ディックは文学青年。ディックにとって作家モイリータ・ケインの小説「肯定」は人生で最も大切な一冊。そのケインが従軍作家としてディックの任地に来る。特権市民なる特権階級が出てくるし、上官は威張ってて暴力をふるうし、この国はロクな国ではない。そのロクでもない国では作家と文学を愛する人は・・・。
「遊星からの物体Xの回想」わたしはブレアだ。コッパーにもなっている。チャイルズでもある。わたしは吹雪の中一人だった。タイトルから判るように、映画「遊星からの物体X」のお話をXの視点から書いた。なるほど。あの映画はこう見ることもできるのか。ジョン・カーペンターの映画を見ていないとよく判らないかも。
「SFのある文学誌」で、中島梓が、現代の日本SFは、昭和初期、大正、明治、さらには江戸期の、横田順彌やこの連載の筆者長山靖生たちが扱う、いわゆる「古典SF」とはつながりはない。黄金時代を経た英米SFが1960年代に来て、まだ幼児の日本SFは大人に囲まれていた。といっていたそうな。中島梓はこんなことをいうからよそ者なのだ
 この中島の言に対して長山は「古典SF」と日本の「現代SF」のつながりを、直線的ではないが連続性はあるが、「日本の現代SF」には三つの始まりがあるといっている。
 小生(雫石)は「日本のSF」には始りなんか無いと思う。「日本のSF」は実は大昔からあった。竹取物語の時代から日本にはSFはあったのだ。ただそれをSFとはいってなかっただけだ。
 今月号は満腹した。6編の短編はいずれも面白く、バラエティに富んでいて、読みごたえがあった。今月号は、「ごちそうさま」である。
     
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )