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とつぜん対談 第23回 ガス炊飯器との対談

 きょうはガス炊飯器さんが来てくださいました。ガス炊飯器さんは長年、この家でご飯を炊いてこられましたが、このたび引退されます。女性ながら、台所のリーダーとして、家族の食生活を支えてこられました。


雫石
 よく来てくださいました。

ガス炊飯器
 いえ。


雫石
 引継ぎで忙しいのではないですか。


ガス炊飯器
 引継ぎなんかないです。


雫石
 後任は電気炊飯器さんですか。


ガス炊飯器
 はい。


雫石
 何年働きました。


ガス炊飯器
 15年ご奉公しました。


雫石
 あなたの前は、だれがご飯を炊いていました。前のガス炊飯器さんですか。


ガス炊飯器
 いえいえ、おくどはんがご飯を炊いてました。


雫石
 おくどはん!へっつい、かまどのことですね。


ガス炊飯器
 そうです。若い人には判りませんね。この家は、ごらんのように古い家ですから、つい最近まで台所も土間で、お風呂も五右衛門風呂でしたのよ。


雫石
 ご飯の炊き方は、おくどさんから教わったのですか。


ガス炊飯器
 はい。きびしいおばあさんでした。


雫石
 明治生まれですか。


ガス炊飯器
 いえいえ、江戸時代です。慶応年間にこの家に来たそうです。


雫石
 15年前に、あなたに代わるまでずっと、そのおくどさんがご飯炊きを。


ガス炊飯器
 はい。


雫石
 すごいですね。100年以上ご飯炊きをやっていたのですね。


ガス炊飯器
 超ベテランですから、経験がすごいです。「はじめちょろちょろ、中パッパ、赤子泣いてもフタとるな」をたたきこまれました。


雫石
 できましたか。


ガス炊飯器
 わたしもメーカーで設定されて、この家に来てますから、それなりのことはできますが、おくどはんから見ると違うらしいんです。ずいぶん叱られました。


雫石
 でも、おいしくご飯が炊ければいいんでしょう。


ガス炊飯器
 家の人は、おくどはんの方がおいしいって。うううっ。


雫石
 わっ、泣きだした。泣かないでください。だったらなぜ、ご飯炊きがあなたになったのですか。


ガス炊飯器
 マキ集めが大変で、それに今の奥様はおくどはんなんか使えないし。わたし、今の奥様の嫁入り道具の1つだったんです。


雫石
 おくどさんはどうなりました。


ガス炊飯器
 町の資料館に展示されてます。


雫石
 あなたは。


ガス炊飯器
 わたしなんか粗大ゴミですよ。


雫石
 ・・・・。

ガス炊飯器
 わたしも100年がんばったら資料館なんですが、そんなにがんばれません。


雫石
 後任の電気炊飯器さんには、あなたがご飯炊きを教えるのですか。


ガス炊飯器
 いいえ。こんど来る子は、「かまど炊き」とかいって、おくどはんと同じように炊けるんですって。わたしが余計なことを教えたらダメだそうです。


雫石
 きょうはどうもありがとうございました。お元気で。



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