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神戸に雪が降る

 改札を抜けて駅を出る。ほほにひんやりと冷たいものがふれた。空を見上げる。駅舎の明かりが、空中の小さな白い綿ぼこりに反射した。薄い雲を通して、月の輪郭だけが見える。
 北の方に黒く六甲山が見える。雪が降ってきた。神戸に雪が降るのは年に数度。久しぶりの雪だ。
 雪をふくんだ風が、酔ってほてった身体に心地よい。駅の明かりが消えた。明日の朝までこの駅には電車はこない。
 数人が最終電車から降りた。私と同じ方向に行くのは二人だけ。私と、もう一人は中年の女性。私と同じぐらいの年齢の婦人だ。黒いコートを着ている。
 少し離れて、できるだけ歩調を合わさないように歩いた。深夜、後ろから知らない男性が、同じ歩調でついてくれば、ご婦人としては不気味に思うだろう。私も、あらぬ疑いはかけられたくない。
 女性が歩みを遅くした。私に用があるのか。私の知人でこんな女性は知らない。
 並んだ。ちらりとこちらを向いた。降りしきる雪を通して一瞬、顔が見えた。三〇年前を想い出した。その時も雪が降っていた。

 前日からの雪は、今朝になっても降り続いている。積もった。こんなに雪が積もるのは神戸では珍しい。地獄坂はけっこう傾斜が強い。その坂に雪が積もっている。元気な高校生でも歩くのに苦労する。もちろんぼくも苦労しながら坂を登っていた。何回かこけそうになった。ぼくの高校は神戸の六甲山の中腹あった。阪急の駅をおりて坂道を登ったところにある。その坂は勾配が急で地獄坂と呼ばれている。
 その子だけ歩き方が違っていた。慣れている。危なげない足取りで雪の坂道を歩いていた。知らない女の子だ。ぼくと同じ二年生らしい。
 朝のホームルームの時間。担任の先生が女の子を連れてきた。あの知らない子だった。北海道から引っ越してきたとか。雪国の子なのだ。
 ぼくの隣に座った。ぼくと視線があった。彼女はかるく会釈して前を向いた。黒目が大きく色の白い女の子だった。あまり神戸にはいないタイプの子だった。神戸生まれ神戸育ちのぼくは、強くその子にひかれた。
 次の日の朝も雪だった。その子とは地獄坂で会った。雪道を歩くのも昨日よりは慣れた。その子の前で転びたくない。
 その次の朝は気温があがり雪が消えた。天気予報によれば、それから暖かくなるとのことだった。
 今朝も出会えればいいのにな。ところが雪の消えたその日、その子は学校を休んだ。次の日も休んだ。
 先生がホームルームの時間にいった。
 お父さんの仕事の都合で神戸に越してきたけれど、急に仕事の都合が変わった。その子は北海道に戻った。神戸に雪が積もった二日間だけ、その子はぼくの隣にいた。

 私の人生であの時ほどがっかりしたことはなかった。その女性が会釈した。顔を上げた。私と同じぐらいの歳。色白で大きな黒目。間違いない。三〇年前のあの女の子。二日間だけクラスメートだった子。思いきって声をかける。
「あの、二日間だけK高校におられましたね」
「はい」
 次の日も、その女性と駅を出た所で出会った。親しくなるのに時間は多く必要ではなかった。私の彼女に対する気持ちは、三〇年前と同じだった。三十年間くすぶっていた火が燃えた。
 私は離婚した。神戸には、その後ずっと雪が降り続いている。
 
 
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チェン相手にホームランなしで7点とったぞ

 快勝や。投打の歯車が噛みあったとはこういうことをいう。まず苦手チェンを粉砕。フォッサム来日初勝利。2軍スタートで先発失格とまでゆわれてきたけど、前回の巨人戦で好投。あれがまぐれでないことを今日の好投で証明した。ただしもうちょっとコントロールようしよな。観ててひやひやした。
 あとを継いだピッチャーも良かった。西村相変わらずええ。新戦力のスタンリッジ、川崎合格。最後は渡辺。追加点を許さなかった。
 打つほうはホームランなしで、ツナギで7点。城島こないだの対広島はタコやったけど、今日は逆転タイムリー。新井、これぞ4番という仕事。
 きょうはうまい酒が飲める。
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