雫石鉄也の
とつぜんブログ
8月27日(月) さらば西村寿行さん
西村寿行さんが亡くなった。享年76歳。死因は肝不全。二日に一本アーリータイムを開けるという酒豪だったとか。
西村寿行はSFファンの小生が大藪春彦とともに愛読した作家。それまで少年の読み物とされていた冒険小説を、大人のエンタティメントとして確立した最大の功労者は西村寿行だろう。それまで生島治朗という先駆者はいたが「君よ憤怒の河を渉れ」で日本の冒険小説を開花させたのは西村だ。
アリステア・マクリーン、ギャビン・ライアル、ジャック・ヒギンズなどの英国製冒険小説で飢えをしのいでいた日本の冒険小説ファンが、国産の冒険小説を読めるようになったのは西村寿行のおかげだろう。それ以後、田中光二、船戸与一、谷甲州など、優れた冒険小説作家が出てわが国の冒険小説ファンも飢えなくてすむようになった。
西村の小説のパターンに復讐物語がある。愛する人を奪われた主人公が、奪った犯人を追いかけて復讐を果たす物語。追跡の途中で主人公はたびたび敵方に捕まり拷問を受ける。それが尋常な拷問ではない。酸鼻を極める拷問。でも、なんと逃げ出し復讐行を続ける。それも平坦な道中ではない。臥薪嘗胆、艱難辛苦、難行苦行。そこまでしなくてもいいのでは。それだけやればあの世の故人も許してくれる。もうやめたら。と、読んでいて思うが主人公は絶対あきらめない。寿行さん、もう堪忍してやれよ、と、読者が作者にお願いしたいぐらい。西村寿行の復讐譚はそれほど濃密ですさまじい。
ともかく西村寿行の小説は濃く熱い。すさまじい暴力と人間の持つ執念情念を極限まで描きながら、ある種詩情を感じ、また時にはユーモアさえも感じる。そして西村作品の底の方に仏教的な思想をかいま見えることもある。
西村寿行の作品で印象に残ったものを思い出してみよう。
「君よ憤怒の河を渉れ」
この作品で日本の冒険小説は花開いた。
「往きてまた帰らず」
狂気のテロリスト僧都保行。秀逸な悪役キャラ。いま考えると地下鉄サリン事件を予言しているような作品といえる。
「化石の荒野」
初期のハードアクションの傑作。
「滅びの笛」
日本のパニック小説№1と小生は思う。
「蒼茫の大地、滅ぶ」
寿行の作品を一つだけ選べといわれたらこれ。飛蝗の大群が東北6県を襲う。非情な中央に対し6県は日本から独立を目指す。
「牙城を撃て」
暴力、情念、執念、陵辱、再起、追跡、復讐。
「地獄」
西村寿行本人と出版各社の担当編集者が死んで地獄に。地獄でドタバタ。寿行作品で最もユーモラスな作品。西村寿行バージョンの「地獄八景亡者戯」
つつしんで西村寿行さんのご冥福をお祈りします。熱い作品をどうもありがとうございました。
西村寿行はSFファンの小生が大藪春彦とともに愛読した作家。それまで少年の読み物とされていた冒険小説を、大人のエンタティメントとして確立した最大の功労者は西村寿行だろう。それまで生島治朗という先駆者はいたが「君よ憤怒の河を渉れ」で日本の冒険小説を開花させたのは西村だ。
アリステア・マクリーン、ギャビン・ライアル、ジャック・ヒギンズなどの英国製冒険小説で飢えをしのいでいた日本の冒険小説ファンが、国産の冒険小説を読めるようになったのは西村寿行のおかげだろう。それ以後、田中光二、船戸与一、谷甲州など、優れた冒険小説作家が出てわが国の冒険小説ファンも飢えなくてすむようになった。
西村の小説のパターンに復讐物語がある。愛する人を奪われた主人公が、奪った犯人を追いかけて復讐を果たす物語。追跡の途中で主人公はたびたび敵方に捕まり拷問を受ける。それが尋常な拷問ではない。酸鼻を極める拷問。でも、なんと逃げ出し復讐行を続ける。それも平坦な道中ではない。臥薪嘗胆、艱難辛苦、難行苦行。そこまでしなくてもいいのでは。それだけやればあの世の故人も許してくれる。もうやめたら。と、読んでいて思うが主人公は絶対あきらめない。寿行さん、もう堪忍してやれよ、と、読者が作者にお願いしたいぐらい。西村寿行の復讐譚はそれほど濃密ですさまじい。
ともかく西村寿行の小説は濃く熱い。すさまじい暴力と人間の持つ執念情念を極限まで描きながら、ある種詩情を感じ、また時にはユーモアさえも感じる。そして西村作品の底の方に仏教的な思想をかいま見えることもある。
西村寿行の作品で印象に残ったものを思い出してみよう。
「君よ憤怒の河を渉れ」
この作品で日本の冒険小説は花開いた。
「往きてまた帰らず」
狂気のテロリスト僧都保行。秀逸な悪役キャラ。いま考えると地下鉄サリン事件を予言しているような作品といえる。
「化石の荒野」
初期のハードアクションの傑作。
「滅びの笛」
日本のパニック小説№1と小生は思う。
「蒼茫の大地、滅ぶ」
寿行の作品を一つだけ選べといわれたらこれ。飛蝗の大群が東北6県を襲う。非情な中央に対し6県は日本から独立を目指す。
「牙城を撃て」
暴力、情念、執念、陵辱、再起、追跡、復讐。
「地獄」
西村寿行本人と出版各社の担当編集者が死んで地獄に。地獄でドタバタ。寿行作品で最もユーモラスな作品。西村寿行バージョンの「地獄八景亡者戯」
つつしんで西村寿行さんのご冥福をお祈りします。熱い作品をどうもありがとうございました。
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どろろ
監督 塩田明彦
出演 妻夫木聡 柴咲コウ 中井貴一 中村嘉葎雄 原田美枝子 土屋アンナ
ニュージーランドでロケをしたとか。確かにその効果は出ている。景色が広大で日本ではない感じ。手塚治虫の原作は日本の室町期が舞台だが、映画は日本の過去と思われる架空の時代が舞台。登場人物の名前も日本名だし、どうも戦国時代なのだが少し違う。街の様子も違うし、盛り場でベリーダンスを踊っている。決定的に違うのは城の形。天守を持つ日本の城郭ではない。ジブリのアニメに出てくるような城だ。だから、この映画は時代劇というより異世界ファンタジーとして観た方がいいだろう。
お話は手塚の原作でご存知の方も多いと思う。武将醍醐景光は己の野望実現のため48の魔物と契約をかわす。自分に力を貸せば、生まれてくる自分の子どもの身体をやるとの契約。男の子が生まれる。子供は体の48の部分が欠損した子供だった。
景光は一国一城の主となる。子供は母の手で川に流される。子供は呪術士に拾われ、欠けている部分を人工物で補われ、武術を教わる。
子供は百鬼丸と名乗り、自分の身体を奪った魔物を探す旅に出る。魔物を一体倒すたびに欠損している身体の一部分が戻ってくる。百鬼丸は旅の途中、どろろと名乗る男の格好をした女盗賊と出会い一緒に旅をする。
映画は原作の漫画よりファンタジー色が濃くなっている。例えば百鬼丸の手足は原作は木彫りで作られるが、映画はマッドサイエンティストの実験室のような所で作られる。で、映画の出来はどうかと聞かれれば、難しいところだが上出来とはいいかねる。駄作ではないが、芯を少し外れ球威に押された大きなファウルといったところか。どっちかいえば映画を観る時間があれば手塚の原作を読んだ方がいいだろう。
どろろ役の柴咲コウ。うまい女優さんだがこの映画はいただけない。しゃべりすぎでギャーギャーとうるさい。彼女は黙ってふくれっ面をしているのが一番魅力的。百鬼丸役の妻夫木聡は適役だった。醍醐役の中井貴一もいい。
この映画で一番の見所は百鬼丸と魔物との戦い。実はこの一番の見せ場がこの映画の最もだめな部分。どういう魔物とどういう戦いをするかが腕の見せ所だが完全に失敗している。
戦闘シーンは、さすがに立ち回りはスターウォーズのチャンバラより上手かったが、たいした工夫もされていないし美しくもない。せめてチャン・イーモウの「英雄」の立ち回りぐらいは見せて欲しかった。
決定的にだめなのは魔物。これは原作の漫画の方が圧倒的に良い。SFへの造詣も深い手塚の描くベムは非常に魅力的なものも多い。漫画「どろろ」の魔物も手塚の異生物創造の才能がいかんなく発揮された魔物が多かった。映画の魔物は仮面ライダーのショッカー怪人とたいして変わらない。誤解してもらっては困るが、小生は別にショッカーの怪人を悪くいってはいない。あれは仮面ライダーだからあれでいい。映画「どろろ」は独自の魔物を創ってもらいたかった。
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