tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

最低賃金への政府の介入

2007年07月25日 16時44分10秒 | 労働
最低賃金への政府の介入
 格差問題が政府の人気の足をひっぱているからでしょうか。今年の最低賃金の決定に当たって、政府は、何とかして最低賃金をいつもより大幅に引き上げたいようです。
 
 企業は最低賃金より低い賃金では人を雇えませんから、最低賃金を引き上げれば賃金格差が縮小すると考えているのでしょうか。だとすればあまりに安易でずさんな考えで政策を打つことになります。

 従業員が最低賃金に近いところの賃金で働いている企業を考えてみてください。賃金が強制的に引き上げられて、従業員は束の間喜ぶかもしれませんが、利益をはたいて賃金を払えるのならいいかもしれませんが、それほどの利益もない、かといって製品の値上げはとても出来ない、といったところは経営の縮小、従業員の削減ということになるのが普通です。最低賃金は全国で一斉に引き上げられますから、不況地域ほどそうした問題がおきやすくなります。

 もともと賃金というのは、経済、経営学の原論が示すように、付加価値生産性の分け前として支払われるものですから、生産性が上がらないのに賃金だけ上げると企業は立ち行かなくなります。歴史的に見ると、1970年から80年代前半にかけての欧米諸国では、労働側寄りの政府が多く、生産性が上がらないのに賃金が上がり、雇用が減り失業が増えました。政府は労働時間を短縮して、多くの人が働けるようにしようと考え、労働時間の短縮政策をとりました。しかし賃金を据え置いて労働時間明け短縮しましたから、一層賃金コストが上がって、当時「イギリス病」「フランス病」「ドイツ病」など言われたスタグフレーションによる長期不況になってしまいました。

 今になって、「労働時間を短縮するなら賃金も減ります」というオランダモデルが成功し、ドイツやフランスも労働時間を短くしすぎたと反省しているようですが、こうした歴史の経験は、「生産性が上がる前にコスト(賃金)を上げてはいけません」という「企業経営の鉄則」を、長い時間と大きな犠牲を払ってわれわれに教えてくれたものといえましょう。

 今、日本政府は、何とか人気を取り戻そうとして、生産性向上はそっちのけで、格差是正を最低賃金の引き上げでやろうとしています。本来なら、中小企業の生産性を引き上げるような政策が先に来るべきなのです。このままでは結果的には、中小企業の労使を困らせることにしかならないでしょう。

 こうした政府の誤った政策には、日本の労使は共にはっきりと、その誤りを指摘して政策を正していくべきではないでしょうか。