tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

柴子(2)

2007-07-01 20:00:23 | 日記

「あのオヤジ、よくねー?」
駅から降りてくるオヤジを物色していた仲間が言う。メンバーは3人。ダチとツレ、それからオレ。ツレの方ははじめて会う。どこにでもいるようなヤンキー女だ。
「なんでもいいよ。さっさとやろうぜ」
駅前のロータリーを抜けて、ジャスコの角を曲がれば、マンションがいくつか建っている一角の途中に公園がある。街灯がついてはいるが、深夜を過ぎれば人通りが途絶える。数年前にオヤジ狩りが流行っていた頃は、会社帰りのオヤジどもが数人でまとまって帰宅してたりした。警察のパトロールが強化されたこともあり下火になった今は、性懲りもなく千鳥足で公園の路地を一人で歩いていくオヤジどもがまた現れていた。

前をフラフラ行く頭のてっぺんがハゲたオヤジを追い越しざま、オレはそいつの顔を殴りつけた。酔っ払っていたそのオヤジは、たわいもなくふっとんで道端にブザマに倒れた。オレはそのオヤジにつかつか近寄ると、思いっきり腹を蹴り上げた。鼻血で真っ赤になった鼻先を押さえていたそのオヤジは、ゲホという異様な声を発して腹をかかえてうめき出した。みぞおちにうまく足が入ったのかもしれない。オヤジはもう、抵抗する気力など失くして、ただ、ひたすら呻いている。
「てめえ、金を出せよ」
オレは足先で、呻いているオヤジの腹を蹴飛ばしながら、凄みを利かせて言った。
ダチとそのツレは、倒れているハゲのオヤジを楽しそうに笑いながら見ていた。
こういうものは、最初のタッチが大切だ。最初の一発をおもいきり相手の鼻柱に叩き込んで鼻血を出させることで大勢が決する。相手の抵抗力を奪いつつ、仲間の興奮を鎮めることができるのだ。ヘタして最初の打撃に失敗すると、相手の必死の抵抗があるのはもちろん、そのうちに仲間が興奮しだして、なにをやらかすか分からなくなる。相手がハデに鼻血をだせば、ほとんどの場合に仲間内の攻撃性を抑えられるのだった。
そのハゲオヤジの上着の胸ポケットを探ると、分厚い2つ折の財布が出てきた。中を見ると、たくさんのカードと万札が数枚入っている。オレは現金だけを抜き取ると、あとの財布は倒れているハゲの腹の上に放り投げた。そして周りを見渡して、通行人のだれも見ていなかったことを確かめた。さらに、そいつの上着のポケットに入っていたケータイを取り出すと、開いてまっぷたつにへし折った。ヒンジのところから2つになったそれは、もう使う事ができない。警察への通報は、しばらくは無理ってことだ。
「さっさとズラかろうぜ」
金をとったら、長居は無用だ。いつ、通行人に目撃されないとも限らない。オレはダチとそのツレを急き立てて駅前のロータリーに引き返した。駅前のロータリーまで戻ったオレ達は、停めていたそれぞれの原付バイクに乗ってファミレスにいき、一晩中遊んでいた。ハゲオヤジから盗った金は3人で公平に分けた。