中国全土の地方・都市・市街のどこにでも掲示されている12項目からなる「中国社会主義核心価値観」。これは中国がめざす社会主義社会において「社会的状況における重要な社会通念価値12」のことである。「富強」「自由」「愛国」「民主」「平等」「文明」「法治」「和諧」「」「」「」「」。(「人権」という価値観はこの中にはない) 中国共産党成立から100年目にあたる2022年、そして中華人民共和国成立から100年目にあたる2049年、「中国の夢」というスローガンを前面に押し出し、2049年に向けて、この12の価値観を実現しようと、習近平主席・中国共産党一党支配のもと、さまざまな政策に取り組み世界での存在感を大きくしてきている中国。
「法治」に関していえば、交通ルールーを守ること以外は(特に電動バイクの絶え間ない水の流れのように無茶苦茶な信号無視)中国国内の治安は世界の国々のなかでもかなりいい方ではないかと思う。1年ほど前から、「黒闇社会(地域暴力団組織)」撲滅に向けた中国全土での取り組みなども始まってきている。しかし、「思想・信条」の「自由」や「民主」に関しては、‥‥。
2015年6月に中国の上海で拘束され、スパイ罪で起訴された日本人女性(日本語学校勤務—当時54才)の判決公判は、3年以上の年月が経った2018年12月7日に ようやく上海市第一中級人民法院(※日本の地方裁判所にあたる)で下された。「懲役6年、5万元(日本円で82万円)の没収」という判決内容だった。
続く12月10日、北京第二中級人民法院において、2015年6月に拘束され、翌年にスパイ罪で起訴された北海道在住の日本人男性(元航空会社勤務73才)の判決が下された。「懲役12年、20万元(日本円で330万円)の没収」という判決内容だった。中国では2015年以降、8人の日本人がスパイ行為を疑われ拘束されているが、判決が出されたのは、今回の2人への判決で4人に判決が下されたこととなる。
いずれの公判も、関係者以外完全非公開の中で行われ、どの行為がスパイ罪に当たるのか、起訴内容や判決内容も明らかにされていない。拘束されて行方不明となり、かなりの長期間にわたってその消息がわからなくなることや、起訴内容や判決内容も明らかにされないまま判決が下され、6年も12年もの間の実刑として刑務所に送られる。暗闇の中での、拘束・起訴・判決・刑務所という印象がとても強い。どんな行為がスパイ罪に問われたのかも公開されないので、中国で生活する私たち日本人にとって これは恐怖以外の何物でもない。これも、中国という国の政権の"恐怖心をあおる"狙いでもあるのだろうか。
2018年5月上旬、日本や韓国の「宗教団体」(エホバ)の人たち約30人が中国の遼寧省や寧夏回族自治区で拘束された。この30人は日本人がほとんどだったが、2週間あまりの拘束を経て釈放されている。宗教団体のエホバは中国では「邪教」の一つとされている。アパート近くの福建師範大学倉山校区の正門近くには、「反邪教キャンペーン」の大型看板が掲示されていたが、その中には、邪教と指定された宗教の種類や法廷での判決の様子の写真などもあった。中国の法廷では、被告の法廷での顔写真は新聞やテレビなどで報道されている。(日本では、写真は公開できないので、似顔絵での報道となる。)
2013年の9月に中国に赴任して、中国のテレビ報道を見ていてとても驚いたことの一つに、「刑務所の鉄格子の部屋の中で服役している囚人の顔の映像を暈し(ぼかし)なしで放映している」ことだった。そして、「私はこんな罪を犯してしまい、今はとても後悔しています」と言わせて、これを全国にテレビで報道していることだった。このような報道内容は、年間を通じて多く報道されている。
つまり、中国の「法治」の方法としては、①拘束をして、その後に「拘束の事実」を明らかにするのは、拘束された人の人権という配慮は一切なく、政治的判断で「拘束の事実」を発表する時期を考え判断する。これは、拘束された本人のみならず、周囲の人や国民に恐怖感を与える効果があると考えている。②政治的判断によって、起訴や裁判(公判)時期を判断している。これも当局の匙加減一つだ。③そして、裁判が「公開か」「非公開か」も、政治的判断される。従って、罪状の具体的なことに関してわからない場合もある。これにより、広範な人々に恐怖心を増幅させる効果も狙っている。④服役中の人間に、顔を撮影し、「罪人としての反省」を晒しものにして、国民に「罪を犯す事」の恐ろしさ効果を図る。まさに「当局の匙加減一つ」であり、これは、当局の中心である「中国共産党」に対する、畏怖心を抱かせる効果ととらえているのではないだろうか。
ちなみに、中国は日本のような「三権分立(司法・行政・立法)」は、憲法上もなっていない。「司法」も「行政」も「立法」も、三権は「中国共産党」の政治を助ける(補完する)ものと位置付けられている。「司法(法治)」の独立ではなく、中国共産党の補完機関という位置づけだ。だから、中国の「司法(法治)」の実態は憲法違反とはなっていない。これが 長年の一党支配社会「民主集中制」の実態でもある。
「日産・ルノー」のトップであるカルロス・ゴーンが拘束され、現在 東京拘置所において取り調べが行われている。日本の司法に対する批判も起きている。日本の検察の拘留の実態に関する批判で、それはそれで、批判されるべき面もあると思う。だが、拘束も拘留の事実や容疑内容は ほぼ詳しく社会的に公開されている。被疑者の人権の保障もある。中国の司法(法治)の実態と大きく違うところである。
中国に暮らしていて、「いつわが身に降りかかってくるか」という怖さがある中国社会でもある。