彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国の司法(法治)、人権について思うこと❹—「709事件」300人余拘束(中国"法治"社会の現実)

2018-12-22 06:53:33 | 滞在記

 2015年7月9日を中心に、中国国内のさまざまな国民階層、とりわけ弱い立場にある人たちの弁護活動をしていた人権派弁護士といわれる人たち約300人余りが一斉に拘束される事件がおき、世界に衝撃を広げた。この300人の中には、政治の民主化を求める発言が「転覆国家政権罪(国家転覆罪)」という名目で罪を問われた人もかなりあった。拘束は長期にわたり、「食事を与えられず、動くことを許されず、殴られる」という拘置中の状況も伝えられた。2018年4月上旬、日本の報道番組で、「まだ拘束中で生死状況さえわからない夫」の釈放を求めて、北京から天津まで歩きながら妻たちの姿が報じられた。

 2018年8月上旬、日本のNHK報道局の「NHKスペシャル」で、「消えた弁護士—709事件—中国"法治"社会の現実」が報道された。いまだ拘束中の弁護士とその家族、釈放されたが弁護士資格をさまざまな方法で取り消される人の現状などを伝えていた。いまだ拘束中の弁護士の一人が「王全璋」(42才)さん。彼は、法輪功信者(中国では邪教として厳しく取り締まられ、多くの逮捕者を出している)の弁護活動をしたりもしていたようだ。国家主席は複数の候補者から選出されるべきだという発言もしたようで、この発言が「国家政権転覆罪」にあたる重罪として今も拘束中かと思う。王さんの妻は、「夫が生きているかどうかすら、分からないんです」と、安否を憂いながら、日々を過ごしている。面会を求めて裁判所などに抗議活動なとも繰り返してきているが、中国式法治の壁はぶ厚い。

 2015年に拘束された300余人のうち、長期間の拘束を経て釈放に至った人も多い。釈放に至る前に、本人への報道関係者を集めての記者会見が行われる。当局は、事前に記者からの質問内容を準備しており(当局が決めた質問内容)、拘束されていた女性弁護士の一人は、「記者からの質問は20問ほどありましたが、その答えも全て当局から暗記させられました。」と告白していた。「私が悪うございました。反省をしています。」と言わされるこれらの会見は国内外に発信され、国民の目にさらされる。そして、中国式法治の正当性を国民に印象付ける。こうして釈放された弁護士たちは、さまざまな方法でじわりじわりと「弁護士資格の取り消し」に追い込まれ、廃業せざるを得ないでいることも、NHKスペシャルでは報道されていた。

 王さんの妻が住むアパートの部屋には、公安部の警察や国内安全保衛部門(国保)の男たちが時折訪れる。そして、釈放に向けた活動を止めるように圧力を日々かける。「黙れ、あばずれ!まともな言葉も喋れないのか!」などの罵詈雑言を大きな声で叫び威嚇する。

 王さんの妻を支援する数名の女性たちが、王さんを励ますために彼女が住むアパート前に来ると、同じアパートに住む人たちや近隣の住民たち(その多くは女性)や公安・国保関係者が、「売国奴、売国奴のくそばばあ!」との言葉を投げつける。支援者や王さんの妻を嘲笑する近所の女たちの姿。(この人たちは、当局から組織されているのだろうと思う)    部屋のドアの前にもおそらく公安・国保関係者が詰めているのだろう、外に出ることができない状況におかれた王さんの妻は、自室の窓を開けて、ベランダ越しに支援者たちに叫ぶ様子が‥‥。

 この拘束状況に関して、香港や海外メディアが、「王弁護士は1000日以上拘束、何の情報もないが」と 公式会見の場で中国法治関係者に問いかけるが、答えは返ってこない。

 2018年8月上旬に放映された「NHKスペシャル―消えた弁護士」の内容は、以上のようなものだった。

 「冬至」を翌々日に控えた2018年12月20日、日本の報道番組を見ていたら、王さんの妻たちの近況が報道されていた。「女性4人が頭を丸める 夫は拘束中」「髪を切る妻」「中国で妻が頭剃り上げ抗議」「最高人民法廷に抗議も」のテレップが流れていた。

 中国"法治"社会の現実の一面は、中国に暮らす私にとっても「他山の石」ではない。このブログ記事を書くのにも、今年の8月以降「書くべきかどうか」悩みながらも‥‥。中国式「法治」の現実に、やはり私にも恐怖心が起きるのである。