彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国の司法(法治)、人権について思うこと❸—范冰冰の長期拘束問題③、孟宏偉氏の拘束

2018-12-19 15:08:01 | 滞在記

 10月5日に、范冰冰(ファン・ビンビン)さんに関する取り調べ容疑内容とその判決に関する報道が解禁されて、このことに関する中国国内外での報道が数多く行われた。日本でのテレビ報道を閲覧すると、「—相次ぐ"謎の失跡"今、中国で何が—」というテーマで、報道特集されているものもあった。

 10月6日ころ、ヨーロッパにその本部がある「国際刑事警察機構(ICPO)」の前総裁:孟宏偉氏(中国公安省次官)が、中国に出張で行った際に中国国内で拘束されたことや范さんのことに関する内容だった。「世界の警察トップの拘束がなぜ?‥‥。」ヨーロッパに住む猛氏の家族は、10日間前からまったく連絡がとれなくなっていたことで、国際的な捜索を世間に公にもしていたようだった。この拘束に対してICPO側は、中国政府に対して「抗議声明」を出した。孟氏の容疑は収賄などの容疑なのだろうか?容疑内容は明らかにしていなかった。

 この報道番組の日本のテレビ局は、猛氏拘束などに関する街頭インタビュー(中国)を行っていた。街頭インタビューに応じた中国国民の人たちは、「反腐敗はとてもいいよ。私たちと関りのないことだけど。」「拘束は突然じゃないよ。国はとっくに証拠を把握していたし、いいタイミングだ。」と、拘束を支持する人の声。「この話は言いづらいね。こんな偉い人のことについて我々は口をだせない。」「拘束の事実について、早く人々に知らせるようにしてほしいです。隠してはいけません。」と微妙な思いを言葉にする声も。

 猛氏は、2012年まで中国共産党最高幹部メンバー(チャイナ・ナイン9)の一人だった周永康氏(江沢民・元国家主席とのつながりが深い)が重用し、中国の公安関係のNO2まで登りつめ、中国政府の後押しで世界警察のトップにもなった人物だ。習近平氏の政敵の一人とされ、「ハエも虎も叩く」という習近平氏の最大の標的の「虎」となった人が周氏だった。一連の王岐山氏と共同した「反腐敗闘争」で、収賄などの罪で2014年に拘束逮捕され、2015年には「無期懲役」の判決が出され、現在は北京郊外の政治犯が多く収容される刑務所に収監されている。これにより、習近平氏は江沢民氏に対して、大きなダメージを与えることができたとされる。(※中国共産党内部では、チャイナ9になった人は、退任後は、嫌疑があっても罪に問わないという不文律がそれまではあった。)

 2012年当時は、黒々と染めていた頭髪も、2015年の裁判所での姿は白髪となっていた。中国では、白髪というのは政治家として「終わった」というイメージのようだ。周氏の裁判の様子は全国のテレビ局報道で放映された。みんなの前で恥をさらさせるということで、江沢民氏や周永康氏に連なる影響力を徹底排除というのが狙いの報道だった。今回の孟氏の拘束もその一連の最後の仕上げ的な政治的要素が濃厚な拘束・逮捕のようだった。

 上記の日本のテレビ報道では、さらに「謎の失跡—中国当局の狙いは」「脱税146億円の追徴金—ファン・ビンビンさん」「1つは脅し—連絡をつかせないことで、本人や家族に、より恐怖感を与える効果を狙う」「ファン・ビンビンさんはどうしたのだろうということについて、国民に小出しに情報を出していき、"謎の失跡"という 国民への威嚇効果を狙う」「ちゃんと彼女も反省し、謝罪、そして追徴金を払ったのだから、他の芸能人も払いなさいよと威嚇し、国民的にも周知させる効果」「情報を完全コントロール➡恐怖・体制強化を図る」となどと報道がなされていた。

 それにしても、何カ月間もというか、4カ月間も、「拘束の事実」を国民に一切知らせない、家族にも知らせないという情報統制。それによる恐怖感、恐ろしさを国民にも醸成させ、本人にも、国民にも醸成・体感させる操作政治の凄さというか、巧妙さというか。それは、私が中国に赴任し、2年間ほどが経った2015年頃より、日々 強く感じるようになったことでもあった。

 ちなみに、世間に晒しものにされた范冰冰さんだが、12月に入り一応の復活はしてきている。先日行われた、「第18回上海国際映画祭」の開幕式に出演したり、婚約者と談笑する写真などが中国のインターネットに掲載されたりもしている。この范さんは、江沢民氏に連なる勢力などとのつながりも深いとされ、そのコネや人脈により2007年頃より、中国のスターダムに急速に上り詰めて来た人物でもあるとの報道もあった。

 今回、4カ月にわたる拘束・取り調べ、そして「追徴金146億円の支払い」「国民に向けての謝罪」という形にし、禁固実刑判決を伴う裁判起訴は行われなかった。さまざまな政治的な思惑のもとで、中国政府は「このような形での決着」を判断したのだろう。この事件によって、范さんが年間に50億円も稼ぐ「銭ゲバ」との印象を国民にもたれ、かつ脱税までしていたということを認めさせられ謝罪をした。(裁判が行われていないのでその脱税の真偽はわからない) これにより、今までの彼女のイメージは大きく損なわれはしただろうと思われる。国民的に最も人気のある女優は、すでにほかの女優に移りつつある。

(続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


中国の司法(法治)、人権について思うこと❷—范冰冰(ファン・ビンビン)長期行方不明、拘束問題②

2018-12-19 09:37:00 | 滞在記

 今年の9月14日頃の日本の報道番組を紹介するインターネット記事を中国で(報道ニュースの動画)見て、范冰冰(ファン・ビンビン)に関する事件を初めて知った。この動画記事のテレップには、「当局が拘束の可能性も―人気女優ファン・ビンビンさん37才が消息不明」「今年5月にファンさんの脱税を指摘するインターネット書き込みが」「税務局に身柄拘束され、調査を受けている可能性がある」「ファンさんのウェイボー、今年6月2日を最後に更新されず」「日本でもコマーシャルに起用されるなど国内外で有名」「9月14日、中国外交部の記者会見の席上、記者が"ファン・ビンビンさんが消息不明になっています。彼女はどこにいますか?"との質問に、報道官は、"そんなこと、外交の問題と何の関係があるのか!"と一言で軽蔑した口調で一蹴。」

 続いて、9月20日頃、日本のテレビ報道番組のニュースの一つとして、范冰冰の消息に関することが伝えられていた。テレビ画面のテレップには、「年収49億円 トップ女優"軟禁"?」「約4カ月間行方不明」「失跡と同じころ、中国で異変が‥‥。俳優・女優などの芸能人への税制というか、税務の管理がすごく厳しくなっている感じがします。中国の芸能人への課税率が、8月1日より"6.7%から42%へと6倍以上に引き上げられた」

 「范冰冰の脱税疑惑を告発した中国国営テレビ元キャスター 崔永元」    (街頭インタビュー)「Q:"ファンさんの失跡の報道について知っていますか? A1:"知っています。ネットで知りました。"   A2:"テレビや新聞や雑誌でも見たことがありません。"」 范さんの弟(18才)がコンサートの中で、「本当に君たちや自分の家族を守れる力が欲しい!とファンに語りかけた。」 范の弟は、姉が長期拘束されて行方不明になっている状況を、彼のファンの前で、間接的な表現「家族を守れる力が欲しい!」を使って伝えていたのだった。

◆これらの范冰冰の消息報道に関しては、中国のインターネット情報の検索を熱心にする一部の中国人には知られていたようだった。だが、一般人にはほとんど知られることはなく、テレビでも新聞でも一切報道されることもなく、報道統制が完全になされてもいたようだった。これが中国での9月下旬までのことだったが‥‥。

 10月3日・4日・5日に私が中国の南京に行っていた最終日の5日、南京市街のバス停近くの「新聞掲示板」に、「范冰冰 道歉了(范ビンビンが 謝罪した)」という見出しの記事が、「南京日報」や「金陵晩報」などの新聞の一面に報道されていた。これは、中国での范ビンビン失跡に関する6月以降に初めて見る范ビンビンの消息に関する国内報道だった。その内容は、「脱税に関しての謝罪の言葉、そして罰金として150億円ちかいお金を支払います」という内容だった。その翌日からは、中国のテレビやインターネット記事でも、このことが多く、全国的に報道されてきた。

◆中国の芸能界では、長年「二重帳簿—何かの番組や映画などの出演料金を、実際に支払われていた額と過少に記載された二重帳簿を作成し、税金申告することが、誰でも行う一般的なこと」として行われていたようだ。では、なぜ、范ビンビンが,狙われて長期間の秘密裏拘束され、取り調べを受け、10月5日での国内報道となったのだろうか。そのことを推測する日本のテレビやインターネット記事も、10月5日以降、多くみられるようになった。

◆次号に続く

 

 


中国の司法(法治)、人権について思うこと❶—范冰冰(ファン・ビンビン)長期行方不明、拘束問題①

2018-12-19 06:54:58 | 滞在記

 2010年頃、日本の「サントリー・烏龍茶(ウーロン茶)」のCMとして日本でテレビで放映されていたのが上記の写真映像(動画)だった。中国の若い女性たちの化粧をしない素朴な美しさ、霧がかかったような少し幻想的な動画画像、そこでペットボトルに入ったサントリー・ウーロン茶を飲む様子。この画像で烏龍茶を飲む一人の美しい女性が范ビンビンさんだと私が知ったのは2015年頃だった。(※紅茶やさまざまな茶、そして、烏龍茶やジャスミン茶の発祥地で、歴史的にも世界最大の生産地が、中国の福建省。ちなみに、烏龍茶の「烏」は「カラス」という意味ではなく「黒」という意味、「龍」は茶葉を乾燥させると一枚の茶葉が小さな龍のような形に見えることからこの茶名が昔から使われている。)

 2014年頃までの中国女性は、長い黒髪を大切にし、ほとんど化粧をしないという素朴さの中の  人間的な美しさがあった。しかし、2015年頃を境として、若い女子学生たちも 「整形的 かつ あまりに人工的 かつ どぎつい 韓国式化粧や髪染め」が韓国ドラマの影響があり爆発的に流行し始め、その素朴な美しさというものが失われつつあるという まあ残念なこととなってきているが‥‥。

 私が初めて2013年9月に中国の大学に赴任をして間もない頃、3回生の授業で 学生たちに「今、中国の女優さんで最も有名な人はだれですか? やっぱり章子怡(チャン・ツイー)さんですかね。彼女のことは日本人で知っている人もけっこう多いですよ。『初恋の来た道』や『SAORI』(舞妓・芸妓の物語)など いろいろな映画に出ていて、そのアジア的美しさ(アジアン・ビューティ)に 私も含めてファンがけっこう多いですからね。」と問いかけた。

 そうしたら、学生たちは異口同音に、「いえいえ!、違いますよ!」と一斉に否定された。「じゃ、誰ですか?」と聞いたら、「それは、范ビンビンですよ!!」との答えが返ってきた。私は初めて聞く名前だった。彼女のことは全然知らなかったので、「へえー、その人のことは 私は知りませんでした」と答えるのが関の山だった。

 その後、范ビンビンについて、知るにつれ、中国の女優の中で最も有名だとということが分かってきた。まあ、「日本で例えれば、NHK大河ドラマの主演女優」に何度も抜擢され、歴史大作映画でも「女帝」や「皇妃」や「貴妃」などの役で主演女優を演じていた女優であった。彼女は、2007年頃から中国の映画界・テレビドラマ界だけでなく、さまざまなCMやCMポスターなどにも多く使われていもいた超有名人だった。2018年現在では、37才となり、独身だが現在は婚約者がいるとも一部インターネット報道もされていた。

 私は個人的には、2010年頃までは別として 范ビンビンの容姿は美しいとは全然思わなかった。「横に真っ直ぐで濃い眉、大きく見せる目、白っぽい肌色、真紅の口紅、整形を疑われる頬の尖りぐあい」など、韓国式美容化粧満載のあまりにも人工的容姿だからだ。しかし、2012年頃からは、中国人はこのような容姿に「一種の未来の容姿への憧れ」があったのだろう。絶大なカリスマ的女優の地位を築いていたのが范ビンビンだったことを知った。「中国で最も有名で影響力がある」というのが2013年~2018年までの彼女であった。

 その彼女が「2018年6月上旬より4カ月間あまり行方不明、中国当局に拘束か?」という情報が流れ始めたのは9月20日頃。日本のテレビ報道やインターネット報道で初めて知ることとなったのだった。