10月5日に、范冰冰(ファン・ビンビン)さんに関する取り調べ容疑内容とその判決に関する報道が解禁されて、このことに関する中国国内外での報道が数多く行われた。日本でのテレビ報道を閲覧すると、「—相次ぐ"謎の失跡"今、中国で何が—」というテーマで、報道特集されているものもあった。
10月6日ころ、ヨーロッパにその本部がある「国際刑事警察機構(ICPO)」の前総裁:孟宏偉氏(中国公安省次官)が、中国に出張で行った際に中国国内で拘束されたことや范さんのことに関する内容だった。「世界の警察トップの拘束がなぜ?‥‥。」ヨーロッパに住む猛氏の家族は、10日間前からまったく連絡がとれなくなっていたことで、国際的な捜索を世間に公にもしていたようだった。この拘束に対してICPO側は、中国政府に対して「抗議声明」を出した。孟氏の容疑は収賄などの容疑なのだろうか?容疑内容は明らかにしていなかった。
この報道番組の日本のテレビ局は、猛氏拘束などに関する街頭インタビュー(中国)を行っていた。街頭インタビューに応じた中国国民の人たちは、「反腐敗はとてもいいよ。私たちと関りのないことだけど。」「拘束は突然じゃないよ。国はとっくに証拠を把握していたし、いいタイミングだ。」と、拘束を支持する人の声。「この話は言いづらいね。こんな偉い人のことについて我々は口をだせない。」「拘束の事実について、早く人々に知らせるようにしてほしいです。隠してはいけません。」と微妙な思いを言葉にする声も。
猛氏は、2012年まで中国共産党最高幹部メンバー(チャイナ・ナイン9)の一人だった周永康氏(江沢民・元国家主席とのつながりが深い)が重用し、中国の公安関係のNO2まで登りつめ、中国政府の後押しで世界警察のトップにもなった人物だ。習近平氏の政敵の一人とされ、「ハエも虎も叩く」という習近平氏の最大の標的の「虎」となった人が周氏だった。一連の王岐山氏と共同した「反腐敗闘争」で、収賄などの罪で2014年に拘束逮捕され、2015年には「無期懲役」の判決が出され、現在は北京郊外の政治犯が多く収容される刑務所に収監されている。これにより、習近平氏は江沢民氏に対して、大きなダメージを与えることができたとされる。(※中国共産党内部では、チャイナ9になった人は、退任後は、嫌疑があっても罪に問わないという不文律がそれまではあった。)
2012年当時は、黒々と染めていた頭髪も、2015年の裁判所での姿は白髪となっていた。中国では、白髪というのは政治家として「終わった」というイメージのようだ。周氏の裁判の様子は全国のテレビ局報道で放映された。みんなの前で恥をさらさせるということで、江沢民氏や周永康氏に連なる影響力を徹底排除というのが狙いの報道だった。今回の孟氏の拘束もその一連の最後の仕上げ的な政治的要素が濃厚な拘束・逮捕のようだった。
上記の日本のテレビ報道では、さらに「謎の失跡—中国当局の狙いは」「脱税146億円の追徴金—ファン・ビンビンさん」「1つは脅し—連絡をつかせないことで、本人や家族に、より恐怖感を与える効果を狙う」「ファン・ビンビンさんはどうしたのだろうということについて、国民に小出しに情報を出していき、"謎の失跡"という 国民への威嚇効果を狙う」「ちゃんと彼女も反省し、謝罪、そして追徴金を払ったのだから、他の芸能人も払いなさいよと威嚇し、国民的にも周知させる効果」「情報を完全コントロール➡恐怖・体制強化を図る」となどと報道がなされていた。
それにしても、何カ月間もというか、4カ月間も、「拘束の事実」を国民に一切知らせない、家族にも知らせないという情報統制。それによる恐怖感、恐ろしさを国民にも醸成させ、本人にも、国民にも醸成・体感させる操作政治の凄さというか、巧妙さというか。それは、私が中国に赴任し、2年間ほどが経った2015年頃より、日々 強く感じるようになったことでもあった。
ちなみに、世間に晒しものにされた范冰冰さんだが、12月に入り一応の復活はしてきている。先日行われた、「第18回上海国際映画祭」の開幕式に出演したり、婚約者と談笑する写真などが中国のインターネットに掲載されたりもしている。この范さんは、江沢民氏に連なる勢力などとのつながりも深いとされ、そのコネや人脈により2007年頃より、中国のスターダムに急速に上り詰めて来た人物でもあるとの報道もあった。
今回、4カ月にわたる拘束・取り調べ、そして「追徴金146億円の支払い」「国民に向けての謝罪」という形にし、禁固実刑判決を伴う裁判起訴は行われなかった。さまざまな政治的な思惑のもとで、中国政府は「このような形での決着」を判断したのだろう。この事件によって、范さんが年間に50億円も稼ぐ「銭ゲバ」との印象を国民にもたれ、かつ脱税までしていたということを認めさせられ謝罪をした。(裁判が行われていないのでその脱税の真偽はわからない) これにより、今までの彼女のイメージは大きく損なわれはしただろうと思われる。国民的に最も人気のある女優は、すでにほかの女優に移りつつある。
(続く)