MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

シャドーイング再考のために

2008年05月18日 | 通訳研究

今期は「通訳教育方法論」という講義を一つだけ受け持っているが、やり方が難しい。結局、様々な通訳教育の方法を語学教育との関連を視野に入れながら紹介し、かつ批判するというようなことになっている。これまでは導入のための訓練法(たとえばdecalageなど)と逐次通訳訓練法をやったが、そろそろシャドーイングに入る。シャドーイングは今や通訳訓練法にとどまらず、英語教育や日本語教育などの語学教育に取り入れられているが、拙速にすぎるのではないかと思うこともある。理論的な練り上げが今ひとつ掛けているのではないかという感覚を禁じ得ないからだ。
 日本ではシャドーイングに関する議論のほとんどは玉井さんの作動記憶の枠組みを使った研究を参照している。これは当然のことだ。しかし、作動記憶を使ったこの理論でまだ説明されていない部分が残っている。シャドーイングした発声はどこへ行くのかという問題だ。それはGupta & MacWhinney (1993)が言うように、再び音声ループの聴覚受容システムに戻ってくる。つまり音声処理にはinput-output connectivityがあるということだ。シャドーイングは(同時通訳と同様に)同時発声concurrent articulationであり、構音リソースの枯渇を生じる。簡単に言えば「干渉」が生じる。ここを理論的にどう説明するかだ。(ただしGupta & MacWhinney の実験は直後系列想起の際に実験群にthe, the, the...と構音させ、対照群はタッピングをさせるというもので、シャドーイングや同時通訳のような同時発声ではない。)
 たまたま月本洋(2008)『日本人の脳に主語はいらない』(講談社選書メチエ410)を眺めていたら、「脳内の発声系と聴覚系が神経でつながっていて、発声をするときの聴覚野の活動が抑制され、耳からの音声による反応が低減されることが知られている」(p.188)という記述があった。そこで挙げられていた論文、Houde, J. F. et al. (2002). Modulation of the Auditory Cortex during Speech: An MEG Study. Journal of Cognitive Neuroscience, 14:8 を読んでみると、なぜそのような抑制が起きるのかについてspeculationをしている。それは(1)自分の発声を外部ソースからの発声と区別するため、(2)スピーチのコントロールのための聴覚フィードバックを調整するため、(3)あるいはその両方、というものだ。自分の発声が外部発声に比べてレベルが低減するのならば、干渉もある程度押さえられるかも知れない。しかしBaddeleyのモデルでは説明が面倒になりそうだ。シャドーイングのような同時発声が外部音声の聴取にどの程度干渉するのかについての実験はいまだにない


Gupta, P. and MacWhinney, B. (1993) Is the Phonological Loop Articulatory or Auditory? In Proceedings of the Eifteenth Annual Conference of the Cognitive Science Society, Lawrence Erlbaum, Hillsdale, NJ.


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