お知らせ
■来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。
■『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。
■『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。
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■24日のエントリーで取りあげた通訳者のドキュメンタリー映画、The WhisperersのDVDが届いた。注文がドイツ語のサイトからだったので、わけ分からずにボタンを押したのがエアメールだったようだ。しかし本体が20ユーロで送料が14ユーロだからたいしたことはない。さて着いたのはいいが果たして見られるのか心配だったが、何とリージョン0(どこでもOK)で、PAL方式だったので見ることができた。内容は本編80分、教育用ショートバージョン31分、それにエピソードやAIICのJubileeの様子などが17分入っている。しゃべっているジェニファー・マッキントッシュを初めて見た。字幕は英語、ドイツ語、フランス語が選べる。ただし実際にしゃべっているのはほとんどドイツ語かフランス語(早送りしながら見たので不確かだが)なので、上映会には日本語の同時通訳をつけるか。
■明日は午前中、立教の修士論文発表会にちょっと顔を出して、午後は大東文化大学で行われる通訳教育分科会にも足を延ばす予定。(詳しくはリンク先を参照。)
■Hale, Sandra Beatriz (2007). Community Interpreting. Basingstoke: Palgrave.
RoyやWadensjoの流れにつながるが、それよりも包括的な、コミュニティ通訳の理論研究入門と言っていいだろう。4部構成で、第1部は主要な理論的概念とリサーチイシューを概観、第2部は様々な参与者の「声」に焦点を合わせて、理論と研究の実践的応用を扱う。第3部は具体的なリサーチプロジェクトの例を挙げながら、コミュニティ通訳の研究方法をガイドする。第4部は役に立つ資料や情報源をまとめている。コミュニティ通訳はこれまでの通訳研究では周辺的存在だったが、最近ではCritical Linkなどの積極的な活動に見られるように、通訳研究には欠かせない存在になっている。考えてみればコミュニティ通訳(対話通訳、リエゾン通訳)の方が通訳の原初的な形なのであり、会議通訳などは歴史的に特殊な通訳形態にすぎない。こういう研究が出てくるのは当然とも言える。むしろ今後は会議通訳の研究が後景に退く可能性もある。以下に目次を挙げておく。
General Editor's Preface
Acknowledgements
PART 1: KEY CONCEPTS AND RESEARCH ISSUES
Overview of the Field of Interpreting and Main Theoretical Concepts
Interdisciplinarity: Community Interpreting in the Medical Context
Interdisciplinarity: Community Interpreting in the Legal Context
PART 2: PRACTICAL APPLICATIONS
Analysing the Interpreters' Code of Ethics
The Practitioners' Voices: Views, Perceptions and Expectations from Legal, Medical and Interpreting Practitioners
Community Interpreting Training
PART 3: RESEARCH INTO COMMUNITY INTERPRETING
Main Traditions and Approaches in Community Interpreting Research Conducting Research in Community Interpreting
PART 4: FURTHER RESOURCES IN COMMUNITY INTERPRETING
Key Resources
References
Index
HaleはIATIS Yearbook 2005に'The Interpreters' Identity Crisis'を書いていた人で、オーストラリアのUniversity of Western Sydneyの研究者。Linguistica Antverpiencia Vol.5 (2006) にも法廷通訳研究の方法論について書いている。ちなみに同じ号に水野真木子さんがThe history of community interpreting studies in Japanという論考を寄せている。
■Routledgeのサイトによると第2版は6月発行のようです。初版と第2版の章立ては次のように少し変わっています。
<初版>
1. Main issues of translation studies
2. Translation theory before the twentieth century
3. Equivalence and equivalent effect
4. The translation shift approach
5. Functional theories of translation
6. Discourse and register analysis approaches
7. Systems theories
8. Varieties of cultural studies
9. Translating the foreign: the (in)visibility of translation
10. Philosophical theories of translation
11. Translation studies as an interdiscipline
<第2版>
1. The Discipline or Interdiscipline of Translation Studies
2. Translation Theory Before the Twentieth Century
3. Equivalence and Equivalent Effect
4. Studying the Translation Process: Translation Shifts, Contrastive Linguistics, and Cognitive Theories
5. Functional Theories of Translation
6. Discourse and Register Analysis Approaches
7. Systems Theories
8. Translation as Rewriting
9. Translation and Globalization
10. Translating the Foreign: The (in)Visibility of Translation
11. Philosophical Theories of Translation
12. Audiovisual Translation Studies
Conclusion: The Future of the Discipline.
主な違いは初版の1章と11章をまとめて1章にし、4章に対照言語学と認知的アプローチを含め、8章はおそらくLefevereやSnell-Hornbyの理論を詳しく書いて、手薄だったcultural turnの記述を増やし、9章Translation and Globalizationと12章Audiovisual Translation Studiesを新設、最後にConclusionを付け加えるというあたりのようです。確かにこうすれば記述のバランスは実際の研究状況をよりよく反映したものになりそうですが、それでも抜け落ちるテーマはあるわけで(語用論的翻訳理論や社会的転回が手薄、ローカリゼーションや翻訳メモリーがないなど)、これ以上は単独執筆では無理。
■昼に『翻訳研究への招待2』が届いた。2月中刊行という約束は果たせたわけだ。執筆者とそれ以外の寄贈先のラベルを打ち出し、封筒に詰める作業が始まる。今回は全ページにヘッダーを入れたので、やや余白が少ない印象になった。(実際は天地、左右それぞれ30mm取っているが、もう少し広くした方がいいかもしれない。)目次は以下の通りです。ご希望の方には1,500円+送料でお送りします。近日中にabstractsがPDFファイルで読めるようにします。
「翻訳研究への招待2」 目次
柳父章氏インタビュー (聞き手:長沼美香子・河原清志・斉藤美野・山田優)
昭和前半の英文学翻訳規範と英文学研究 (佐藤美希)
Source-Based Translation and Foreignization: A Japanese Case (Yukari Fukuchi Meldrum)
中国翻訳史における小説翻訳と近代翻訳者の誕生―後編― (永田小絵)
映画の字幕表現の具体性に関する一考察 (牛江ゆき子・西尾道子)
起点・目標テクスト対応の方法 (齊藤美野)
翻訳における認知的負荷と経験的等価:読者の文理解と作動記憶をめぐって (水野 的)
翻訳規範、ハビトゥス、ローカリゼーション (山田 優)
日本語・中国語間の翻訳テキストにおける文長の傾向―双方向パラレルコーパスを用いた翻訳行為の特徴の分析 ( 敏君)
Comparison of Features of Texts Translated by Professional and Learner Translators (Sachiko Nakamura)
英日翻訳者が直面する問題点―翻訳学習者とプロ翻訳者にみる差異を中心に (井上 泉)
翻訳教育の実践―英日翻訳におけるコロケーションの訳出 (鶴田知佳子 光藤京子 河原清志)
編集後記
■鶴田知佳子・柴田真一(2008)『ダボス会議で聞く世界の英語』(コスモピア)。少し前に紹介した『英語で伝えるオジサン的ビジネス表現』(アルク)と同じコンビによる新著。今回はどちらかというと「聞く」ことに焦点を合わせ、過去5年の世界経済フォーラムから、20ヶ国26人の英語をサンプリングしている。つまり「ワールド・イングリッシュ」がテーマ。序文は1月30日にNHK副会長に就任したばかりの今井義典さんが書いている。短いながら世界各国の英語事情とその国の英語の特徴を説明したコラムがついている。通訳者はもちろん、様々な国の人と英語でコミュニケーションしなければならないビジネスパーソンにとってぜひとも必要な書だろう。欲を言えば、あとはアメリカとイギリス各地の地域訛りや階層、年齢層による違いも欲しいが、それには別の本が必要か。個人的にはメリル・リンチ副会長のウィリアム・マクドナー(「マクドノー」に近いと思ったが)さんの素晴らしい英語が再び聞けるのが嬉しい。
■全国手話通訳問題研究会宮城県支部(企画)・田門浩(監修)(2008)『手話と法律・裁判ハンドブック』(生活書院)。(1)司法関連の用語の意味と手話表現を学ぶ、(2)司法と手話の基本知識を学ぶ、(3)裁判員制度について学ぶ、という3つの目的を持った本。構成も第1部:法律・裁判、手話単語集、第2部:司法と手話通訳、補章:裁判員制度とは何か、に三分されている。第2部には日本通訳学会コミュニティ通訳分科会が作った「司法通訳倫理原則(案)」も収録されている。(その縁で寄贈を受けたもので、正確には学会への寄贈。)来年あたりから裁判員制度が始まるため、一般の人にとっても大変有益な本だと思う。さらに言えば、これは手話通訳者にとっても重要な問題なのだが、「ろう文化を持つストレンジャー」(木村晴美さんの言葉)であるろう者の発話や行動、ふるまいの意味を理解し、誤解を避けられるような説明も欲しかったが、これもまた別に一冊の本が必要か。
■古田拡・高杉一郎・武田孝・松永巌(1980)『源氏物語の英訳の研究(比較文学研究叢書4)』(教育出版センター)。たまたま見つけたもの。ウェィリー訳を主に扱っているが、サイデンステッカー訳も参照している。
■一昨日は雪模様の中を飯田橋まで歩いて『翻訳研究への招待2』の白焼きを見に行ってきた。体裁上の小さな間違い(ページ数の数字の字体に一部違うものが混入しているなど)はあったがOKとする。さっさと出すことが大事。というわけで、今日の連絡によると16日にできあがり、18日(月)に届きます。
■東京大学大学院総合文化研究科・パリ第八大学博士課程在籍の藤田省一さんの訳で、まもなく、アントワーヌ・ベルマンの『他者という試練』(Antoine Berman (1984) L'epreuve de l'etranger: Culture et traduction dans l'Allemagne romantique)の翻訳が出る。すでにみすず書房の近刊案内には載っている。現代の翻訳研究のバランスのとれた鳥瞰図を得るためには不可欠の本(これを抜かすとバランスを欠くという意味)。英訳はあるが、この本がフランス語原典からの日本語訳で読めるようになることの意義は大きい。(MundayのIntroducing Translation Studiesに簡単な紹介がある。またVenuti編のThe Translation Studies Readerにはこれとば別の短い論文が収録されている。)刊行されたらまた紹介文を書きます。
■6月30日と7月1日の両日マンチェスター大学でTranslation Frames: Gateways and Gatekeepingという主に大学院生を対象とした国際会議が開催される。正式名称はThe First International CTIS Postgraduate Conference。(CTISはCentre for Translation and Intercultural Studiesの略)。詳しくはこちら。メディアの翻訳や通訳も含みます。
■他にも頂き物など未紹介のものがありますが、それはまた明日。