MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

Facebookはこちらです。

『ことばをつくる』

2008年06月29日 | 
マイケル・トマセロ(辻幸夫・野村益寛・出原健一・菅井三実・鍋島弘治朗・森吉直子訳)『ことばをつくる-言語習得の認知言語学的アプローチ』(慶應義塾大学出版会)をいただいた。トマセロのこの本は知っている人は知っていると思うが、用法基盤モデルに基づいて子どもの言語習得プロセスを説明するもので、生得的言語モジュールを仮定する生成文法とは対立する。帯にあるように、「ことばは本能ではない!」というスタンスである。すでに邦訳されているにもかかわらず、ほとんど話題にもならないディーコン(『ヒトはいかにして人となったか-言語と脳の共進化』)と通じるものがある。少し大きい本だが、広く言葉に関心のある人にお奨めだ。あるいはピンカーって何か変じゃない?トンデモじゃないの?と思う人には特に推奨する。個人的には「用法基盤的なアプローチでは、言語構文(linguistic constructions)それ自体を意味のある言語記号として考える。なぜならば、(たとえば、受動構文はあるものに何かが起こるということについて伝達する場合に使われるというように)構文(constructions)とは意味のある言語記号がコミュニケーションの場において使用されるパターンにほかならないからである」(p.6)というくだりに勇気づけられたのであった。

大東文化大学大学院通訳論専攻コースの新ウェブサイト

2008年06月18日 | 大学院
大東文化大学大学院経済学研究科の通訳論専門コースの新しいウェブサイトができた。こちらを参照。このコースは日本の大学院における通訳教育・研究のパイオニアで、すでに多くの会議通訳者や翻訳者を輩出している。当初は「経済通訳論」というコース名だったが、「経済」が取れて「通訳論専門コース」になった。英語名はM.A. Program of Interpreteing Studies, Graduate Shchool of Economics, Daito Bunka University。新しいサイトには通常の入試情報や設備の説明などの他に、修了生からのメッセージも多数紹介されている。

明日は例会

2008年06月14日 | 催し

明日は例会です。お忘れなきよう。詳しい内容はこちら。一般の方も参加できますので興味のある方はどうぞ。

国際交流基金が出している『をちこち』23号の特集は「翻訳がつくる日本語」。目次はこちら76ページの薄い雑誌である。中身も薄い。

Baddeley, Alan (2007). Working Memory, Thought, and Action (Oxford University Press). Baddeley単独の著作である。Baddeleyの現在の作動記憶モデルは、中央実行系にvisuospatial sketchpad, phonological loop, そしてEpisodic Bufferという第4のコンポーネントを組み込んだものになっているが、この4コンポーネントモデルを知るためには好適の書だろう。Episodic Bufferを追加したのは、散文の大きなチャンクの記憶と複雑なスパンタスクのデータを説明するためだが、このモデル、他のモデルと比べてもあまり説明力があるとも思えないのだ。


パソコンを壊す

2008年06月10日 | 雑想
しばらく前から通電はするが立ち上がらない症状が出始めたのでデータをすべて外部のHDに移し、メモリやHDDコードの抜き差し、果ては電源コードの抜き差しなどをやっていたら、とうとうクリーンインストールもできない状態になってしまった。たぶんHDが逝ってしまったものと思われる。DellのDimension 4600cなのだが、これまでもヒートシンクが落ちてマザーボードを交換するなど、もともと怪しい機械だったのだ。今度は大きい筐体のInspironにした。ただしDellはこれを最後とする。(Dimension 4600cのヒートシンク脱落はかなりの数が報告されていて、製造不良の疑いが濃厚だ。だいたいあんな重要な部品を針金で引っかけておくだけというのはいかがなものか。)
InspironはCore2 Duoだが体感的にはどうということはない。ただ頼みもしないのにデュアルディスプレイができる仕様になっていたので、本体の22インチワイドと今まで使っていた17インチワイドが1画面として使える。これも2,3日使うと慣れてしまってなんということもないのであった。OSはXP。Word 2007は改悪されていてやってられないので、Word 2003のオールドスタイルメニューを組み込んだ(ちょっと手間はかかるが、2007で苦労している人にはこれがおすすめ)。もちろんIMEはATOK。ディスク容量は外部HDを加えるとついに
テラの単位になった。
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調べてみたら初めて買った98 Multi Can Be(Qハチ君)はHDが850MB、ユーザーズメモリはなんと16MBだった。Windowsは3.1。それでもWordぐらいは何とか動いていた。

新訳誤訳論争

2008年06月09日 | 翻訳研究
光文社の古典新訳文庫の『赤と黒』(野崎歓訳)の翻訳をめぐってちょっとした騒動が起きていて、某巨大掲示板に何本もスレッドが立つ事態になっている。直接のきっかけは6月8日付けの産経新聞のこの記事。下川茂氏の書評が載っている「スタンダール研究会会報」はここから入ってNo.18で読める。ただここまで事態が拡大したのは光文社の編集者のコメントのせいもあるだろう。このほかにも、亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』が問題視されている(検証サイトはこちら)。原語がフランス語とロシア語なので中身に立ち入ることはできないが、語学的な議論の中にも翻訳規範の対立を垣間見ることができるという点では大変興味深い。誤訳は翻訳に携わる者につきまとう問題で、その意味では他人事ではないのだが、翻訳研究者としては語学的な誤りをクリアしたレベルで翻訳を問題にしたいという思いがある。

通訳付き講演会のお知らせ

2008年06月05日 | 催し

東京外国語大学の通訳実習として行う講演会2件をご案内します。

1.「CFA(Chartered Financial Analyst)の世界」

日時:2008年6月6日(金)16:30~18:00
場所:東京外国語大学 府中キャンパス(府中市朝日町3-11-1)研究講義棟 226
スピーカー:有江慎一郎氏(ソシエテジェネラルアセットマネジメント債券運用部長)

*当日は東京外国語大学大学院国際コミュニケーション・通訳専修コース2年生による英日同時通訳が付きます。

2.Insights Into Effective Communication(効果的なコミュニケーションのための「インサイツ」)

日時:2008年6月20日(金)18:00~20:00
場所:東京外国語大学マルチメディアホール(研究講義棟1階 101号室)
ファシリテーター:エリザベス・ハンドオーバー(インサイツ・ジャパン代表、インサイツ・ラーニング・アンド・ディベロップメント
社役員)

「インサイツ」ワークショップに参加して自分のパーソナリティを発見してみませんか。パーソナリティの探求は、組織におけるチーム・ダイナミクスに大いに役立ちます。また、国際的なコミュニケーションの場で遭遇する課題に対する解決策も見つかるでしょう。
インサイツ・ラーニング・アンド・ディベロップメント社(本社:スコットランド)は、近年重要度の増している個人のコミュニケーションスキル、チーム・ダイナミクス、そして組織効率の向上のための画期的なソリューションを提供しています。中でも「インサイツ・ディスカバリー・パーソナル・プロフィール」は、世界中のクライアントから、もっとも正確でダイナミックなツールであると評価されています。

*当日は東京外国語大学大学院国際コミュニケーション・通訳専修コース1年生による英日逐次通訳が付きます。


MacizoとBajoの新論文

2008年06月01日 | 翻訳研究
When Translation Makes the Difference: Sentence Processing in Reading and Translation (Psicológica, 25, 2004)を書いたPedro Macizo and M. Teresa Bajoが、またReading for Repetition and reading for translation: do they involve the same processes? (Cognition, 99, 2006)という、似たような論文を書いている。似たような、というのは、いずれも翻訳(ないし通訳)にhorizontal viewとvertical viewの2種類を想定して、実験によっていずれが妥当するかを見ているからだ。horizontal viewとは「翻訳はオンラインで2言語の間のマッチを探索する」というもので、典型的にはDavid Gerverが挙げられている。これに対してvertical viewの方は「読みの間にオンラインのreformulationは行われず、翻訳とは理解の後に抽出した意味に語彙表現を付与することである」というもので、Seleskovitchによって代表される。2004年の論文ではスペイン語と英語の間で(1)読んでリピートする、(2)翻訳するという2つの作業をプロの翻訳者に課しており、翻訳の方向と語用論的情報の影響も見ている。2006年の論文の方は、読んでリピートと翻訳という課題は同じだが、今度は被験者に翻訳者とバイリンガルを使い、語彙的曖昧性と同語源語cognateの影響を見ているところが違っている。しかし、どちらもパラメータは読みの時間と全体的理解である。いずれの論文でも、結論はhorizontal viewを支持し、従ってvertical viewは否定されている。すなわち翻訳は、翻訳のための理解の段階で目標言語の語彙的エントリーも同時に活性化させる。それは同一言語での読みよりもより大きな負荷を作動記憶に課す。これはバイリンガルもプロの翻訳者も同じである、というものだ。
  MacizoやBajoは翻訳研究の中でもやや影が薄くなっている原理論的な関心を保持している点で評価できる研究者だと思う。翻訳研究の分野の研究者だけでなく、翻訳に言及する他分野の研究者のほとんどが捕らわれる「意味」の罠、あるいは意味表示の問題を回避して、「理解と目標言語産出はparallelかserialか」というように問題を設定することは、あるいはスマートなやり方かもしれない。しかし、本当にそれ(だけ)でいいのかという疑問は残る。翻訳や通訳における意味あるいは意味表示の問題にはやはり正面から対峙すべきではないのか