お知らせ
■来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。
■『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。
■『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。
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■『招待2』の編集作業もいよいよ大詰めである。ここに来てMS Wordの使い方がよくわからないケースが出てきた。前回はルビを振った場合に行間が広がる問題について勉強できたが、今回最大の難問は文末注の場合の罫線と文中の罫線を変更する方法だった。一つは「罫線」から「線種とページ罫線の網掛けの設定」から「段落」を選んで消す。二つめは「表示」から「下書き表示」→「文末脚注の境界線」で消す。もう一つ、これは独自に発見したのだが、「表示」を「ウェブ表示」にして消す方法だ。ところがこのいずれの方法でも消せない罫線が1本残った。(もちろん図の中の罫線ではないく、やはり注に関連した罫線らしいのだ。)これだけはそのページの必要箇所を別にコピーしておいて、ページを削除し、新たなページをくっつけるという、荒技で対処した。他の方法を知っている方がいたら教えて下さい。
■キングソフトというところにOfficeというMS Office互換をうたった、MS Officeにうり二つの無料ソフトがあるので使ってみた。結論、使えない。WriterというWordの互換ソフトはファイルが十数ページになると動きが鈍重になってしまう。また図を保存して持ち帰り、Wordで変換すると「塗りつぶしなし」のはずが一部塗りつぶしになったりする。MSがなにか悪さをしているのではないかと勘ぐりたくなるんですが、どうなんでしょうか。
■今日は日本通訳学会会員の著作を2点紹介。どちらも寄贈を受けたものです。どうもありがとうございます。
■藤濤文子(2007)『翻訳行為と異文化間コミュニケーション-機能主義的翻訳理論の諸相』(松籟社)。2007になっているが、ちょうど今頃書店に並んでいるはず。Amazon.jpはまだ予約受付中なので「版元ドットコム」にもリンクしておく。機能主義的翻訳理論-この場合はライスのテキストタイプ理論とフェルメーアのスコポス理論が中心-にもとづく本格的な通訳研究の書だ。全8章の構成で、全体の意図を述べた序章に続き、第2章はライスやフェルメーアなどの機能主義的翻訳理論を概説し、ダウリングの『シンデレラ・コンプレックス』の2種の邦訳を使って例証する。第3章ではグリム童話を例に、固有名詞の翻訳を扱い、第4章では翻訳におよぼす言語差という義務的要因を『ノルウェイの森』の独訳と英訳で検証、第5章は吉本ばななの『キッチン』のやはり独訳と英訳を素材に文化差の要因を取りあげている。第6章はコミュニケーション状況(たとえば受け手や翻訳モード)が翻訳に与える影響を映画字幕と吹き替えを比較して論じている。第7章ではスコポス理論の翻訳評価への応用を試み、翻訳評価方法を提案している。第8章は「自由と束縛」という概念でまとめた結論の章である。
おそらくこれまで日本語で読む機会がなかった機能主義的翻訳理論を簡潔に紹介し、ほとんどすべての章が機能主義的翻訳理論の視点から主要な翻訳上の問題を例証によって説明しており、大変わかりやい、親切な構成になっている。個人的には2つの『シンデレラ・コンプレックス』の邦訳の実例を見せられて、なるほどそういうことだったのかと長年の疑問が氷解し、『キッチン』の文化的要素の独訳と英訳の比較では、どちらかというと起点言語寄りで「ミドルブラウ」な翻訳として評価されたBackusの英訳が、独訳に比べるとまだまだ目標言語寄りであることを知り、複数言語の翻訳比較の重要性を認識できたのも収穫だった。ここからはまた新しい関心も生まれた。それは同じ文学作品の文化的要素がなぜこんなにも違って翻訳されるのかという問題だ。スコポスの視点から言えば、ドイツとアメリカでは翻訳者と受け手(読者)と出版社(エージェント含む)の位置付けと力関係が違うのかどうか。それともこれは翻訳者と出版社のネゴシエーションのあり方が違ったためなのか、などである。
それはともかく、本書は一方の有力な翻訳理論である機能主義的翻訳理論の紹介として、また独自の翻訳研究として、日本の翻訳研究の中でも重要な意義を持つ一冊だ。翻訳研究分野の研究者必携…というか、みんな買うように。
■鶴田知佳子・柴田真一(2007)『英語で伝えるオジサン的ビジネス表現』(アルク)。
これは日本のオジサンたちのビジネス表現をコミュニカティブに英語にする方法を対話形式も交えて解説した本。通訳者が日英通訳で難儀する表現がよくまとめられている。こういう本は70年代からいろいろ出ているが、絶版なのか単に出版社の力量のせいで流通しないのか、ロングセラーはあまりないような気がする。この本、すでにアマゾンでは高評価のレビューがついているので贅言はしないが、異文化ビジネスの場にいる人、特に社内で通訳をやる人にお薦め。
■去年の11月11日に近刊案内で紹介したJeremy Munday (Ed.) (2008) Translation and Intervention (Continuum)が到着した。目次はすでに紹介済みです。基本は翻訳者や翻訳プロセスに関わる人間がどの程度、そしてどんなふうに、翻訳するディスコースに介入するのかという視点。いわば翻訳の政治学を翻訳研究の側から見ている。実はEdwin GentzlerのTranslation and Identity in the Americas: New Directions in Translation Theory (Routledge)がまもなく刊行されるのだが、これも翻訳の政治学と言っていいような内容だ。しかしこちらは翻訳を、文化と文化の間に起きることではなく、文化そのものを形成する主要な手段と見ている。構文が面白いので残しておこう。Translation in the Americas is less something that happens between separate and distinct cultures and more something that is capable of establishing those very cultures.翻訳研究、比較文学、カルチャル・スタディーズの研究者向けとなっていて、何だかこの3者の区別があいまいになってきているような気がする。翻訳(通訳)研究はもちろんinterdisciplineでいいと思うし、そうでないと活力を失ってしまうと思うが、比較文学とカルスタは何か翻訳研究にとっては迷惑な気がするな。
■三が日は『翻訳研究への招待』2号に寄せられた原稿をチェックしていた。ようやく半分ほど終了。投稿者の皆さん、近日中にいったん赤字を入れたものを戻しますのでよろしくお願いします。あと少なくとも3本が入稿予定。僕の論文は大胆にカットしたので何とか15-6ページにおさまりそうです。
■修士論文の提出期限が近づいていて最後の仕上げとチェックの段階だと思うが、みんな順調だろうか。無事に提出してほしいと思う。
■新年の挨拶は失礼させていただきますが、今朝はくっきりと山並みが見え、空には飛行船が浮かぶという、なかなかいいお正月の風景でした。
さて、今度の論文に中野好夫訳『闇の奥』(岩波文庫)の訳文をちょっと引用した。別に誤訳とかそういう文脈ではないが、原文と比較してみてひでえなと思った。(文庫のあとがきに「誰か改訳してくれ」などと書いてあるのにもあきれたが。)他に訳が出ていないか調べてみたら徳永茂さんという方の訳が2006年に出ている。(他にも電子ブックにあるようだ。)徳永さんはブログもやっていて、改訳の動機について書いている。いろいろあるようだが、その一つは中野訳が「語学的に疎漏」ではないかというものだった。岩波文庫の編集者の話も出てきて、その権威主義には驚かされる。中野は河盛好蔵 編『翻訳文學』(角川書店)にもまったくいただけない「翻訳論ノート」を書いていて、一体これは何だろうと思っていたが、Wikipediaによると東京帝国大学と東京大学で教鞭を執った「英米文学翻訳者の泰斗」らしい。まあ、日本の英文学の問題点と水準については齊藤一『帝国日本の英文学』(人文書院)や宮崎芳三『太平洋戦争と英文学者』(研究社出版)が参考になるので見ておくといいと思う。