MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

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新刊2冊

2007年03月30日 | 

3月19日の「通訳教育分科会」のエントリーで久保田競 (2006) 『バカはなおせる』(アスキー)のことに触れたが、ふと本棚を見たら…ありました。買ったのを忘れていたんですね。第7部の「こんな著者が書いている脳の本は、読んではいけない」の箇所に、やはり森昭雄、養老孟司批判があった。そればかりか、弟子である川島隆太の「音読や計算が認知症の改善に有効」という主張まで批判している。いずれも穏やかな言い方ながら、内容的には根底的な批判になっている。著者を信用してもいいかどうか迷ったらPubMedを見よなどと、恐ろしい(しかし滅多に指摘されないが当然でもある)ことが書いてあったりする。もちろんすべての分野の専門家ではないので、おかしなところもあり、3,4,5部あたりはいろいろツッコミどころがある。そのあたりについては公衆衛生学の中澤さんが書いている。付け加えれば、この本のワーキングメモリの説明はただの短期記憶だろう。

さて音読と言えば、語学学習になぜ音読が有効かについて書かれた初めての本と言える、門田修平 (2007) 『シャドーイングと音読の科学』(コスモピア)が出た。語学教育に関係する言語心理学や認知科学の知見を分かりやすく解説しており、この方面の勉強をしたい人にとっては格好の入門書になるだろう。と評価した上で、少し書いてみたい。シャドーイングの方はすでに玉井さんの博士論文や玉井+門田の本があるからいいのだが、音読については「只管朗読」の主張が広がっているにもかかわらず、それがなぜ有効なのかについてはこれまで説得的な説明を聞いたことがない。この本ではそのあたりがどうなっているかに注目してみた。結論的に言えば、説得的な説明仮説はない。カギとなるのは「復唱能力の向上」であるが、その前提は音読の練習から生じる「音読の高速化」である。しかし音読とはまず何よりも構音であり、プロダクションである。自らの発声(音読の声)は、再び自らの音韻ループの入力となり、構音抑制articulatory suppression要因となる。一般に構音抑制はsubvocal rehearsalにとっては障害である。ということは、音読は復唱能力にとってマイナス要因となる。そうであるならば、それにもかかわらず音読が有効であることの説明が必要なはずだ。しかし、この本を読む限りは「subvocal rehearsalを顕在化する」 (p.211) ことから生じる矛盾が理論的にどう解かれるのかはっきりしないのである。さらに、音読と構音抑制のない黙読との比較があってしかるべきだが、それはない。音読に対立する概念は黙読なのだから、音読はこういう理由で黙読よりも有効なのだと、はっきりさせる必要があると思う。なお本書にも脳画像法と大脳活性化の話が出てくるが、この部分は川島を元にしており、久保田の批判がそのままあてはまる。また「シャドーイングについては、…脳科学からの成果がほとんど蓄積されていません」(p.181)とあるが、通訳研究の分野ではTommola et. al. (2000/1) Images of shadowing and interpreting. Interpreting, 5:2などはデフォルトになっている。
 そうした問題はあるが、日本では手薄な領域の研究をaccessibleな形でまとめられた功績は大きい。おすすめの一冊です。


訃報続く

2007年03月29日 | 雑想

24日に大学も同じで同期入社のK氏が亡くなった。再発して闘病中ということは知っていたのだが突然のことで驚いた。会社関係だけでも、若くして亡くなる人がずいぶん多いような気がしてならない。知り合いが一人二人といなくなる。これが年を取るということなのか。

植木等さん死去。10年ほど前の紅白歌合戦で真っ白なスーツで登場、ヒット曲メドレーを歌ったときの破壊力は圧倒的で、次に歌う歌手が気の毒なほどだった。社会主義労働運動や解放運動に携わり何度も投獄された父を描いた『夢を食いつづけた男-おやじ徹誠一代記』という著書がある。


立教最後の送別会 「月刊言語」4月号

2007年03月28日 | 大学院

昨日は独立研究科の事務室に研究室の鍵と教員IDカードを返却。そのあと、院生の加藤さん、斉藤さん、冨永さんに送別会をしてもらい、果物とネパール土産、タイ土産をいただいた。少人数でいい雰囲気でした。どうもありがとうございます。4月からはそれぞれの仕事と課題に思い切り取り組んでください。
今まで使っていたデジカメが、23日の修了式の途中で故障したため、今回はビデオカメラの静止画機能を使ってみた。暗いとあまり色合いが出ないみたいです。PCへの取り込みなど、まだマスターしていないので今日は割愛。

そういえば、23日の修了式のことを書いていなかったことに気がついた。34人だったかな、修了おめでとうございます。大学院全体の修了式のあと、研究科毎に記念写真を撮影してから学食で立食パーティ。そのあと近くのフランス料理店で異文化コミュニケーション研究科だけのパーティ。帰りにまた花束と記念品をいただく。

『月刊言語』(大修館書店)4月号は特集が「翻訳新世紀:解釈と越境のダイナミズム」だが、これについてはあまりコメントすることはない。こういう論文が評価される分野もあるのだろうなという感想ぐらいである。むしろ注目はマイケル・シルヴァスティンと山口明穂の「対談 「言語学」をこえて<上>」だ。講演会の通訳をして分からないなりに面白かったシルヴァスティンと、途中からつまらなくなって読むのをやめた山口(『国語の論理』)の、何だか異種格闘技みたいな対談だ。この編集・構成(翻訳、書き起こし、解説など)を小山先生と永井君がやっている。言語関係の院生は買って読むべし。今回は「が」が問題になっているが、常に主格(橋本進吉)は別にして、主語格/対象語格(時枝誠記)であれ、既知(-未知)(大野晋、北原保雄)であれ、その時問題になっている事象をうまく説明できればどっちでもいいと思う。山口の「由来格」のようなとらえ方をしてもあまり意味があるとも思えないのだが。


翻訳研究分科会 論文1つ

2007年03月26日 | 翻訳研究

24日(土)は第4回翻訳研究分科会。21人が参加した。やむをえず参加できなかった人も何人かいたので、関心の高さがうかがえて大変嬉しい。香取さんの発表は基本的には理論的なものだが、同時に翻訳の実務的問題に直結する質の高い内容だった。こういうアプローチはこれまでの日本の翻訳論には見られなかったもので、ぜひ共通の了解事項にしていきたい。
分科会の終わりにサプライズがあり、花束と記念品をいただいた。みなさん、どうもありがとうございます。お心遣いに感謝します。おかげさまで最近は部屋に花の香りが絶えません。

ネット上に「異文化間ビジネスコミュニケーションにおける通訳者の役割」という論文がありましたので紹介しておきます。これは慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の修士論文をもとにしたもの。第二著者は指導教員なのだろうか。


訃報相継ぐ そしてロックの魂

2007年03月22日 | 雑想

鴨ちゃんこと鴨志田穣氏逝去。昨年夏に腎臓の平滑筋肉腫で余命一月から五ヶ月と告知されていたようだ。42歳は若すぎる。

哲学者の古田光氏逝去。大学の教養課程で思想史の授業を受けた。本務校は横浜国立大学だったようだ。土曜日の一限目だったせいか、90分授業の最後の30分になって風呂敷づつみを持って現れ、「いやあ朝が弱くてね」と言い訳するいい先生だった。当時42歳ぐらいだったことになる。ルカーチの『歴史と階級意識』の訳者。「思想の科学」グループに近かったと思う。

闘病中だと思うが再起して欲しいのがこの人。「FM東京の歌」を含む伝説の「夜のヒットスタジオ」。これがロックだ。一度消されたがまたアップされている。たぶんすぐ消されてしまうのでいまのうちに。


年次大会のお知らせ他

2007年03月21日 | 通訳研究

第9回年次大会のお知らせ(First Circular)をJAIS What's Newに掲載しましたのでごらん下さい。

お知らせ2件、一応貼っておきます。

2007 EST Summer School Scholarship

<Call for applications>
Ever since it was founded in September 1992, EST has focused on drawing attention to new research in Translation Studies, and encouraging young scholars to join the collective endeavour. Since 2003, the Executive Board of EST has sponsored one participant per year attending a summer school of research in translation studies.
This year again, EST will sponsor one EST member to attend a TS Summer School. The scholarship will be for 1,000 Euros.
The deadline for submitting applications for the EST Summer School Scholarship is 1 May 2007.

The applications will be scrutinized by a committee consisting of Alexandra Assis Rosa, Barbara Ahrens, Heidrun Gerzymisch-Arbogast,  Gyde Hansen, Franz Pochhacker and Sonia Vandepitte. They will base their judgement on the application as a whole, taking into account all information asked for: the technical quality of the project, the applicant's competences and needs, and the relationship between the project and the summer school programme intended to follow.

Students preparing a doctoral dissertation in the field of translation studies are invited to apply. To do so, please fill in the electronic application form (including the attachments) and send it to Sonia Vandepitte - sonia.vandepitte@hogent.be.
Along with the form, applicants will be asked to submit the letter of recommendation from their dissertation advisor by regular mail or fax  to:

Dr. Sonia Vandepitte
School of Translation Studies
Hogeschool Gent
Groot-Brittannielaan 45
B-9000 Gent
Belgium
Fax: + 32 9 224 97 01

Receipt of complete applications (both electronic and regular/fax) will be acknowledged by e-mail.

The name of the scholarship recipient will be announced on the EST website on 5 June 2007 and a notice will also be sent (by e-mail) to each of the applicants.
 
Vienna Euroconference Program Now Online

We are pleased to announce that the program for the MuTra Euroconference
from 30 April - 4 May 2007 at the Center for Translation Studies in Vienna
is now online at
www.euroconferences.info.

The program lists some of the leading names in European translation and interpreting research as well as papers by 25 early stage researchers from 14 countries. LSP translation developments, speech-to-text technology, live subtitling, media interpreting and training perspectives with access to the deaf and hearing-impaired are but some of the topics that will be covered.Talks by leading broadcasters will help to throw light on new trends in the industry. Two plenary discussions, one on Translation Theory on 2 May and one on LSP Training Perspectives on 4 May, will round off the program.

Registrations for the conference have already been received from delegates coming from more than 20 countries, including China, Japan, South Africa, and the United States,
thus ensuring a high level of exchange and good networking possibilities.
For further information and to register for the conference, please visit
www.euroconferences.info website.


小倉さんの新刊

2007年03月20日 | 

同じく通訳学会の会員である小倉慶郎さんの新刊。『30分で50語を記憶!高速マスター英単語』(DHC)。といってもよくある単語暗記用の本とはひと味もふた味も違う。クイック・レスポンスを中心にしてシャドーイングとサイト・トランスレーションという通訳訓練法を応用して、音声と文脈も考慮しているのだ。しかも文脈といっても短文ではなく、まとまりのあるスピーチや読み物を使っているから自然な使われ方を身につけることができる。CDが3枚もついているので、やり方によってはかなり重厚な学習が可能だ。難関校の受験生から大学生、一般までが対象か。
 今の学習者はこういう本があるのだから幸せである。僕等のころは(これを読んでくれている人は誰も知らないと思うが)『赤尾の豆単』ですから。・・・念のためチェックしたら、『赤尾の豆単』まだありましたΣ(゜Д゜;)。


実践的なスペイン語入門書

2007年03月20日 | 
通訳学会の会員である松本アルベルトさんが『CDを聞くだけでスペイン語が覚えられる本』(中経出版)を出した。「海外旅行などでよく使うフレーズを左右振り分け録音のCDとともに覚えられる、超実践的なスペイン語入門書の決定版!買物・観光・食事のときに「本当に使える」基本表現を耳から覚える!」「特徴:各シチューション毎に私のネイティブとしてのノウハウを凝縮した「プチコラム」が満載。安心して旅行できるように工夫してあります」とのことです。