お知らせ
■来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。
■『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。
■『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。
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■今日、『同時通訳における概念化過程の検証』(平成17-19年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2)研究成果報告書 研究代表者:船山仲他)が届いた。玉井さん、宮畑さん、西村さんも参加している。たぶん無料で送ってくれると思うので、欲しい人は船山さんに連絡してみて下さい。
■今期は「通訳教育方法論」という講義を一つだけ受け持っているが、やり方が難しい。結局、様々な通訳教育の方法を語学教育との関連を視野に入れながら紹介し、かつ批判するというようなことになっている。これまでは導入のための訓練法(たとえばdecalageなど)と逐次通訳訓練法をやったが、そろそろシャドーイングに入る。シャドーイングは今や通訳訓練法にとどまらず、英語教育や日本語教育などの語学教育に取り入れられているが、拙速にすぎるのではないかと思うこともある。理論的な練り上げが今ひとつ掛けているのではないかという感覚を禁じ得ないからだ。
日本ではシャドーイングに関する議論のほとんどは玉井さんの作動記憶の枠組みを使った研究を参照している。これは当然のことだ。しかし、作動記憶を使ったこの理論でまだ説明されていない部分が残っている。シャドーイングした発声はどこへ行くのかという問題だ。それはGupta & MacWhinney (1993)が言うように、再び音声ループの聴覚受容システムに戻ってくる。つまり音声処理にはinput-output connectivityがあるということだ。シャドーイングは(同時通訳と同様に)同時発声concurrent articulationであり、構音リソースの枯渇を生じる。簡単に言えば「干渉」が生じる。ここを理論的にどう説明するかだ。(ただしGupta & MacWhinney の実験は直後系列想起の際に実験群にthe, the, the...と構音させ、対照群はタッピングをさせるというもので、シャドーイングや同時通訳のような同時発声ではない。)
たまたま月本洋(2008)『日本人の脳に主語はいらない』(講談社選書メチエ410)を眺めていたら、「脳内の発声系と聴覚系が神経でつながっていて、発声をするときの聴覚野の活動が抑制され、耳からの音声による反応が低減されることが知られている」(p.188)という記述があった。そこで挙げられていた論文、Houde, J. F. et al. (2002). Modulation of the Auditory Cortex during Speech: An MEG Study. Journal of Cognitive Neuroscience, 14:8 を読んでみると、なぜそのような抑制が起きるのかについてspeculationをしている。それは(1)自分の発声を外部ソースからの発声と区別するため、(2)スピーチのコントロールのための聴覚フィードバックを調整するため、(3)あるいはその両方、というものだ。自分の発声が外部発声に比べてレベルが低減するのならば、干渉もある程度押さえられるかも知れない。しかしBaddeleyのモデルでは説明が面倒になりそうだ。シャドーイングのような同時発声が外部音声の聴取にどの程度干渉するのかについての実験はいまだにない。
Gupta, P. and MacWhinney, B. (1993) Is the Phonological Loop Articulatory or Auditory? In Proceedings of the Eifteenth Annual Conference of the Cognitive Science Society, Lawrence Erlbaum, Hillsdale, NJ.
■以下の要領で第23回例会を開催します。ふるってご参加下さい。
[日時] 6月15日(日)午後1:00―5:30
[場所] 立教大学11号館A203教室
第1部 1:00―3:00
[演題] 「オスマン帝国の通訳たち-境界性と多重性」
[発表者]:黒木 英充 東京外国語大学教授
[概要] 多言語帝国の通訳はどのような出自で、いかなる役割を果たしたのか。近代化・言語・マイノリティの関係を語る。
第2部 3:30―5:30
[演題]「メンタルレキシコンへのアクセスに、シャドーイング・音読はどのような効果が期待できるか?」
[発表者] 門田 修平 関西学院大学教授
[概要]メンタルレキシコン内の単語の意味アクセスがどのようにして行われるか、またシャドーイング・音読のトレーニングがそのようなアクセスにいかに貢献するかについて考える。
[参加費]会員 無料 非会員:1,000円
・会場への行き方:JR 山手線・埼京線・高崎線・東北本線・東武東上線・西武池袋線・地下鉄丸ノ内線・有楽町線「池袋駅」下車。西口より徒歩約7分。
・[参加お申し込み・問い合わせ先]日本通訳学会事務局(水野的)
e-mail: secretariat@jais-org.net FAX:03-3811-9836
■Miwa, H., Iida, H. and Furuse, O. (1998). Simutaneous Intepretation Utilizing Example-based Incremental Transfer. In Proceedings of the 36th annual meeting of Association for Computational Linguistics Vol. 2. p.855-861.
センテンスが完了してからではなく、漸進的な形で機械翻訳を実現しようという試みである。漸進的incrementalでなければならない理由が面白い。対話は連続的に進行するのだから、コミュニケーションの整合性coherencyの中断を避けなければならないというのである。基本的には収集した事例から抽出した構成素の境界パターンの対応を利用し、それに通訳者の経験的知識を合わせて漸進的翻訳(同時通訳)を実現しようとする。関心が接触するのは「通訳者の経験的知識」のところだ。この論文では人間の通訳者が同時通訳の場面で使用する「強力なセンテンス・プラニング」として、能動態と受動態の変換、長い疑問文を付加疑問文にする変形、主題化変形が挙げられている。
面白い試みだが、疑問もある。ひとつは、起点言語と目標言語の構造的ペアのシンクロによって漸進的翻訳を生み出すとはいっても、構成素(項)の逆転(入れ替え)が不可避であろうという点、さらに、通訳者が行う漸進的翻訳(これを一般に順送りの訳という)はあくまでも記憶の制約を回避するための方策であり、「整合性の中断」が避けられるというのはその結果(の一部)にしか過ぎないという点である。そもそも通訳者の「順送りの訳」は発見的方法heuristicであってアルゴリズムとして形式化できそうにない。そこをどうするのかという問題もある。また通訳者の経験的知識も論文に現れた限りでは狭すぎるし、ここに挙げられた例の程度ではセンテンスが完了してからの翻訳でも整合性の中断は問題にならないように見える。コンピュータ翻訳の場合はメモリの制約は考えなくていいのだから、ここまで漸進的である必然性があるのだろうか。実際の同時通訳でも、センテンス遅れなどはざらにある。これは筆者たちの目的がダイアログの同時通訳の実用化にあるためと思われる。なお、未読だが通訳者の知識を機械翻訳(同時通訳)に利用しようという論文として、Loehr, Dan (1998) Can Simultaneous Interpretation Help Machine Translation? Lecture Notes in Computer Science Vol. 1529.がある。これは通訳者の使う'techniques'を抽出して利用しようというものだが、漸進性は特に問題になっていない。こうしたtechniquesや経験的知識のことを通訳研究では一般に「strategies」と言うが、この論文はそれを考える上でヒントになる。
漸進的な機械同時通訳については松原さんなども沢山書いているので今後も紹介していきたい。
■5月29日(木)に東京外国語大学の府中キャンパスで、東京外国語大学 特別公開講座として、ジョアキン・シサノ元モザンビーク共和国大統領の講演会があります。詳しくは以下をごらん下さい。
・日時:5月29日(木)13:10~14:40 同時通訳(英・日)付
・場所:東京外国語大学府中キャンパス 研究講義棟1階 101教室
(府中市朝日町3-11-1)
・スピーカー:ジョアキン・シサノ元モザンビーク共和国大統領
・演題: 「アフリカの平和のために我々は何をすべきか-大学生へのメッセージ」
・協力:東京外国語大学国際コミュニケーション・通訳コース
・参加費無料、事前登録必要なし
・連絡先:東京外国語大学 国際学術戦略本部(OFIAS)
URL: http://www.tufs.ac.jp(西武多摩川線多磨駅下車徒歩3分)
電話:042-330-5931 電子メール:ofias-office@tufs.ac.jp
■Intepreting Vol. 10 No. 1 (2008)はDoing Justice to Court Interpretingと題した司法通訳特集号。目次とabstractはこちら。特筆すべきは武田さんのInterpreting at the Tokyo War Criminal Tribunalという論文が収録されていること。なお武田さんのPhD論文は日本語で出版される予定である。
■FORUM Vol. 6 No. 1 (2008)は今回は翻訳に関する論文が多い。
Murdering the Title: Translating the names of Agatha Christie's detective stories (Eirlys E. Davies)
Closing the Expertise Gap: A concrete example of guided reflection on a conference interpreting (Clare Donovan)
Eye Movement Recordings as a Tool for Studying Mental Simulation of Speed in Text Processing by Professional Translators (Antin Fougner Rydning & Armina Janyan)
Towards a Functional Translating Strategy for Minor Languages: The case of Greek (Panayotis I. Kelandrias)
Readability Analysis of Community Translation: A systemic functional approach (Kim,, Mira)
Relationship between Verbalization Translation and Intertextuality: Focusing on Korean-Japanese translation of political cartoons (Park, Kijung)
When a Translator Fluots Grice's Maxims: The case of a user manual translation from Korean into Russian (Seo, Yukyung)
La Philosophie de la Traduction - de Schleiermacher a Ricoeur (Yun, Seong Woo & Lee, Hyang)