MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

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木村榮一『翻訳を遊ぶ』

2019年04月12日 | 翻訳研究

木村榮一(2012)『翻訳を遊ぶ』(岩波書店)。これはなぜか見逃していた。2005年8月から2011年3月まで神戸市外国語大学の学長というから、船山さんの前の学長か。ラテンアメリカ文学をたくさん紹介・翻訳した人で、神戸市外国語大学イスパニア語科の第一期生だという。面白いのは学部卒業と同時に(つまり大学院を経ずに)助手に採用されていることだ。大学院がなかったのかもしれないし、人材不足だったのかもしれない。父親がなかなかの人で「思惑と越中ふんどしは向こうから外れる」と口癖のように言っていたという。木村さんは「お金はないけど、時間はたっぷりあるよ」という言葉につられて「大学に残った」(この言い方もなつかしい、たしかに当時そういう言い回しがあった)のだが、大学紛争で思惑が外れてしまう。深夜に及ぶ教授会に疲れはて、大学を辞めて自衛隊に入ろうかと思うのである。翻訳と関係ないところが面白い本である。


訂正一つ

2019年04月10日 | 翻訳研究

10年前のこの記事で、ガセを書いてしまったようなので訂正します。宍戸儀一訳(1937)『象徴主義の文学』の献辞にある石川善助の死因を「泥酔して電車から川に転落して死んだらしい」と書いたのですが、少し違っていて、この記事によると「踏切で電車にあおられて溝に落ち、溺死した」というのが真相らしい。この記事は当時の新聞も引用し、場所も推理している。
ちなみに死後友人たちが刊行した遺稿集『鴉射亭随筆』(鴉射亭友達会刊)があり、古書価が15万円以上する。私などには無縁の世界だが、復刻版が出ているし、近くの図書館に行けば国会図書館のデジタルライブラリで見ることができる。なお「鴉射亭」とは、愛読していたポーのアッシャー家である。


Crownという雑誌

2019年04月03日 | 雑想

1946年に『Crown』という雑誌が創刊されている。翌年から月刊になり、1948年までは続いたようだ。出版していたのは「銀座出版社」というところ。国会図書館にはプランゲ文庫に大体ある。このうち27冊を入手した。最初は30ページほどだが、最終的には50ページぐらいまでになった。内容はかつての『時事英語研究』によく似ている。アメリカ英語が中心で、時事的な英文エッセイやアメリカの文化的知識、映画のシナリオ、米会話、英文和訳、和文英訳などである。実用英語の雑誌と言っていいだろう。編集後記を見ると「通訳、翻訳当事者の活躍は注目に値する。彼等個人の語学力がそのまゝ国際的に影響してくる」とか「学業成績優秀な諸君は希望により中央連絡事務所や進駐軍関係に就職を斡旋します」などの記述がある。どうやら外務省終戦連絡事務所とのパイプがあったらしい。執筆しているのは、戦前の有名な英語関係者では勝㑨銓吉郎ぐらいのものだ(勝㑨も実用英語の人だ)。中心になっていたのは佐藤佐市という人で、米会話の著書が何冊かある。


『森の生活』翻訳に関わる謎

2019年04月02日 | 翻訳研究

ソローのWaldenの日本語訳は、ごく一部だけを訳したものを除くと15種類ぐらいになろうか。(不明のものもあるのでもう少し増えるかもしれない。)そのうち、初期の翻訳として今井嘉雄(訳)(1925 T14)『森の生活』(新潮社)がある。そして戦後になって、今井規清(訳)(1948 S23)『森の生活』(大泉書店)という訳が出ている。これを突き合わせて見ると、本文は一字一句に至るまで同じなのである。今井規清訳の「訳者の言葉」の末尾に「此の譯書は嘗て一度世に出して、幸ひに公表を博したものであるが」とあるが、今井規清名義の訳本の存在は確認できない。また「訳者の言葉」の冒頭も「私の心の中には、いろんな意味に於て、私の尊敬する、古今の人々が住んでゐる」(今井嘉雄)と「私の心の裡には、いろいろの意味で私の尊敬する古今の人々が住んでゐる」(今井規清)となっている。こんなところまで剽窃する奴はいないだろうから、まず同一人物と見てよさそうである。
まったくの別人の訳がルビを含めて同一という例(Waldenではない)もあるが、これについてはいずれ。