MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

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日本の通訳研究の始まり(その1)

2017年05月24日 | 通訳研究

他に適任者がいるとは思うし、あまりやりたくもないのだが、年長者の責任としてとっかかりだけつけておこうとおもう。日本で通訳研究がいつごろ、誰によって始められたかという問題である。(シャドーイングやリプロダクションのような訓練手法がいつ、誰によって導入されたかもわかっていない。)通訳教育の古い文献についてはここの202-204ページに少し書いたが、いずれも204ページで南津君が書いている「通訳者による経験の体系化」を超えず、実証的・科学的研究とは言えない。知りえた限りでは、松本兼太郎が1970年代に何編か書いている。「口頭作文から通訳へ]『明治薬科大学研究紀要』第6号(1976)、「英和同時通訳のための基底文構造」『明治薬科大学研究紀要』第7号(1977)、「英和同時通訳のための修飾構造」『明治薬科大学研究紀要』第8号(1978)、「英和同時通訳のための変形操作」『明治薬科大学研究紀要』第9号(1979)があり、ずっと後になって「英日間同時通訳のための基底要素」『明星大学研究紀要』第28号(1992)を書いている。題名はそれらしいのであるが、実際に読んでみると初歩的な翻訳文法のようなものであり、理論的研究・実証的研究とは言い難い。それは1992年の論文に至ってもそうなのである。

70年代の文献が他にあるかもしれないが未詳である。1980年代になると実証研究と言っていい論文が出てくる。久米昭元(1981)「Oral Englishへのアプローチー”Parallel Reading”の多元的効果ー」(『アカデミア』第30号(144集))がそれである。タイトルからは通訳を扱っているようには見えないが、いわゆる原稿つきシャドーイングの効果を実証的に研究している。船山仲他(1984)「同時に訳すための要点」(『AV Journal』第6号)は、実際に同時通訳をする際に必要な技法を扱っており、技能に即した研究になっている。久米、船山ともに通訳のpractitionerでもあったことに注意を促しておこう。なお久米には(1985)「逐次通訳へのアプローチ-日本語訳出における比較研究」(『時事英語学研究』第24号)もある。このあたりから少しずつ通訳研究の論文が目につくようになってくるが、この時期は世界的にも通訳研究の数はそれほど多くなかったのだ。