意匠法10条1項
1.主体の同一の読み方
意匠法10条1項の下記の条文から主体の同一を解釈します。
意匠登録出願人は、自己の意匠登録出願に係る意匠又は自己の登録意匠のうちから選択した一の意匠(以下「本意匠」という。)に類似する意匠(以下「関連意匠」という。)については、
★「意匠登録出願人は、」
関連意匠の意匠登録出願人を意味します。
関連意匠の出願の査定時における出願人を意味します。
関連意匠の出願について出願人名義変更届を提出した場合には、変更後の名義人を意味します。
★「自己の意匠登録出願に係る意匠」
「自己の」とは、関連意匠の出願人からみて「自己の」という意味です。
したがって、本意匠の出願が特許庁に係属しているときは、関連意匠の出願人は、本意匠の出願人と同一であることが要件となります。
「意匠登録出願に係る意匠」とは、本意匠の意匠登録出願がまだ意匠登録を受ける前であって、特許庁に係属していることを意味します。
★「又は自己の登録意匠」
「自己の」とは、関連意匠の出願人からみて「自己の」という意味です。
「登録意匠」とは、意匠登録を受けている意匠を意味します。
そうすると、本意匠は、関連意匠の出願時においてすでに意匠登録を受けていてもよいことを意味します。
この場合の主体の同一は、出願人の同一ではなくて、関連意匠の出願人と本意匠の意匠権者とが同一であることを意味します。
したがって、関連意匠の意匠登録の要件として、出願人が同一であること、というのは正確ではないことになります。
本意匠の意匠権者とは、関連意匠の出願の査定時における本意匠の意匠権者を意味します。したがって、本意匠の意匠権の設定の登録時の意匠権者ではなくても、その後、関連意匠の出願の査定時までに、本意匠の意匠権を譲り受けた場合には、譲り受けた者がここでいう「自己の登録意匠」の「自己」に該当します。
つまり、関連意匠の出願の査定時までに、本意匠となるべき自己の登録意匠が存在すれば、主体の同一の要件は満たすことになります。
この点において、意匠法3条の2ただし書とは、大きく異なります。
2.関連意匠制度の利用の態様
(1)本意匠の出願をした後、本意匠の出願がまだ特許庁に係属している間に、同一人が関連意匠の出願をする場合
本意匠の出願がまだ特許庁に係属中ですので、「本意匠の意匠登録出願の日後であって、20条3項の規定によりその本意匠の意匠登録出願が掲載された意匠公報の発行の日前である場合」の要件は、満たすことになります。
(2)本意匠の出願をし、本意匠についてすでに意匠権の設定の登録がされた後に、同一人が関連意匠の出願をする場合
この場合は、本意匠の出願が掲載された意匠公報の発行の日前である場合に限り、関連意匠の出願をすることができることになります。
意匠登録査定謄本が送達され、第1年分の登録料を納付すると、意匠権の設定の登録がされ、その後、意匠公報が発行されることになります。そうすると、出願人としては、本意匠の出願について意匠登録査定謄本の送達があった時点で、関連意匠の出願の可能性を検討することが必要となります。
謄本送達から登録料の納付まで30日あり、登録から意匠公報の発行まで約45日あるようですので、約2月半の期間中に関連意匠の出願の決断をすればよいことになります。
3.9条1項の拒絶理由通知を受けた場合のとり得る措置
甲が意匠イについて意匠登録出願Aをしたとします。その日後、乙が意匠イに類似する意匠ロについて意匠登録出願Bをしたとします。
甲の出願Aについて意匠権の設定の登録がされたとします。
甲の出願Aについて意匠公報が発行される前に乙の出願Bについて9条1項違反の拒絶理由が通知されたとします。
乙は、甲と交渉して、出願Bの査定時まで(拒絶理由通知に対する指定期間内)に、甲の意匠イに係る意匠権を譲り受けて、移転の登録をすることができれば、意匠イは、乙の登録意匠となりますので、登録意匠イを本意匠とし、出願Bに係る意匠ロを関連意匠とするために、出願Bの願書に「本意匠の表示」の欄を追加する補正をすることにより、10条1項の要件を満たすことができます。
なお、乙が甲と交渉している間に、甲の出願Aについて意匠公報が発行されることもあると思います。その場合であっても、乙の出願Bは、甲の出願Aの意匠公報の発行の日前にされていますので、時期的要件を満たすことはできます。
自己の登録意匠は、出願Bの査定時までに存在すればよいので、この要件も満たすことができます。
意匠法3条の2では、先願の出願人とは、先願の意匠権の設定の登録時の出願人を意味しますので、先願意匠権を譲り受けたとしても、出願人同一の要件を満たすことはできませんが、この点で、10条1項と大きく異なります。
3条の2は、条文上「出願人」が「同一」であることが必要です。10条1項は、本意匠の出願が特許庁に係属中は出願人が同一であることが必要ですが、本意匠の出願が意匠権の設定の登録がされた後は、「自己の登録意匠」が存在すればよいことになります。
以上より、前記の例では、出願Bの出願人を甲にして、甲が関連意匠の意匠権の設定の登録を受けた後に、甲の出願Aに係る本意匠の意匠権と、甲の出願Bに係る関連意匠の意匠権を一括して乙が譲り受けるという迂回手続をとる理由はまったくありません。2つの意匠権を移転登録することになりますので、登録免許税が2場合となります。
つまり、本意匠の意匠権と関連意匠の意匠権を一括して譲り受けることができるのであれば、乙が甲から出願Aに係る意匠権を譲り受けて、出願Bについて乙が関連意匠の意匠権を取得する方が手続的にも費用的にも経済的です。この視点は大事です。
1.主体の同一の読み方
意匠法10条1項の下記の条文から主体の同一を解釈します。
意匠登録出願人は、自己の意匠登録出願に係る意匠又は自己の登録意匠のうちから選択した一の意匠(以下「本意匠」という。)に類似する意匠(以下「関連意匠」という。)については、
★「意匠登録出願人は、」
関連意匠の意匠登録出願人を意味します。
関連意匠の出願の査定時における出願人を意味します。
関連意匠の出願について出願人名義変更届を提出した場合には、変更後の名義人を意味します。
★「自己の意匠登録出願に係る意匠」
「自己の」とは、関連意匠の出願人からみて「自己の」という意味です。
したがって、本意匠の出願が特許庁に係属しているときは、関連意匠の出願人は、本意匠の出願人と同一であることが要件となります。
「意匠登録出願に係る意匠」とは、本意匠の意匠登録出願がまだ意匠登録を受ける前であって、特許庁に係属していることを意味します。
★「又は自己の登録意匠」
「自己の」とは、関連意匠の出願人からみて「自己の」という意味です。
「登録意匠」とは、意匠登録を受けている意匠を意味します。
そうすると、本意匠は、関連意匠の出願時においてすでに意匠登録を受けていてもよいことを意味します。
この場合の主体の同一は、出願人の同一ではなくて、関連意匠の出願人と本意匠の意匠権者とが同一であることを意味します。
したがって、関連意匠の意匠登録の要件として、出願人が同一であること、というのは正確ではないことになります。
本意匠の意匠権者とは、関連意匠の出願の査定時における本意匠の意匠権者を意味します。したがって、本意匠の意匠権の設定の登録時の意匠権者ではなくても、その後、関連意匠の出願の査定時までに、本意匠の意匠権を譲り受けた場合には、譲り受けた者がここでいう「自己の登録意匠」の「自己」に該当します。
つまり、関連意匠の出願の査定時までに、本意匠となるべき自己の登録意匠が存在すれば、主体の同一の要件は満たすことになります。
この点において、意匠法3条の2ただし書とは、大きく異なります。
2.関連意匠制度の利用の態様
(1)本意匠の出願をした後、本意匠の出願がまだ特許庁に係属している間に、同一人が関連意匠の出願をする場合
本意匠の出願がまだ特許庁に係属中ですので、「本意匠の意匠登録出願の日後であって、20条3項の規定によりその本意匠の意匠登録出願が掲載された意匠公報の発行の日前である場合」の要件は、満たすことになります。
(2)本意匠の出願をし、本意匠についてすでに意匠権の設定の登録がされた後に、同一人が関連意匠の出願をする場合
この場合は、本意匠の出願が掲載された意匠公報の発行の日前である場合に限り、関連意匠の出願をすることができることになります。
意匠登録査定謄本が送達され、第1年分の登録料を納付すると、意匠権の設定の登録がされ、その後、意匠公報が発行されることになります。そうすると、出願人としては、本意匠の出願について意匠登録査定謄本の送達があった時点で、関連意匠の出願の可能性を検討することが必要となります。
謄本送達から登録料の納付まで30日あり、登録から意匠公報の発行まで約45日あるようですので、約2月半の期間中に関連意匠の出願の決断をすればよいことになります。
3.9条1項の拒絶理由通知を受けた場合のとり得る措置
甲が意匠イについて意匠登録出願Aをしたとします。その日後、乙が意匠イに類似する意匠ロについて意匠登録出願Bをしたとします。
甲の出願Aについて意匠権の設定の登録がされたとします。
甲の出願Aについて意匠公報が発行される前に乙の出願Bについて9条1項違反の拒絶理由が通知されたとします。
乙は、甲と交渉して、出願Bの査定時まで(拒絶理由通知に対する指定期間内)に、甲の意匠イに係る意匠権を譲り受けて、移転の登録をすることができれば、意匠イは、乙の登録意匠となりますので、登録意匠イを本意匠とし、出願Bに係る意匠ロを関連意匠とするために、出願Bの願書に「本意匠の表示」の欄を追加する補正をすることにより、10条1項の要件を満たすことができます。
なお、乙が甲と交渉している間に、甲の出願Aについて意匠公報が発行されることもあると思います。その場合であっても、乙の出願Bは、甲の出願Aの意匠公報の発行の日前にされていますので、時期的要件を満たすことはできます。
自己の登録意匠は、出願Bの査定時までに存在すればよいので、この要件も満たすことができます。
意匠法3条の2では、先願の出願人とは、先願の意匠権の設定の登録時の出願人を意味しますので、先願意匠権を譲り受けたとしても、出願人同一の要件を満たすことはできませんが、この点で、10条1項と大きく異なります。
3条の2は、条文上「出願人」が「同一」であることが必要です。10条1項は、本意匠の出願が特許庁に係属中は出願人が同一であることが必要ですが、本意匠の出願が意匠権の設定の登録がされた後は、「自己の登録意匠」が存在すればよいことになります。
以上より、前記の例では、出願Bの出願人を甲にして、甲が関連意匠の意匠権の設定の登録を受けた後に、甲の出願Aに係る本意匠の意匠権と、甲の出願Bに係る関連意匠の意匠権を一括して乙が譲り受けるという迂回手続をとる理由はまったくありません。2つの意匠権を移転登録することになりますので、登録免許税が2場合となります。
つまり、本意匠の意匠権と関連意匠の意匠権を一括して譲り受けることができるのであれば、乙が甲から出願Aに係る意匠権を譲り受けて、出願Bについて乙が関連意匠の意匠権を取得する方が手続的にも費用的にも経済的です。この視点は大事です。