瀬崎祐の本棚

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スーハ!  7号  (2011/02)  神奈川

2011-03-03 21:30:22 | 「さ行」で始まる詩誌
 「スーハ!」には毎号、同人のエッセイが載るのだが、どれをとっても読み応えのあるものとなっている。あまりに面白いので、その中から「捨てられた声の周辺」野木京子を紹介する。
 エッセイというよりも散文詩、あるいは掌編と言っていい内容の幻想譚である。誰かから渡されたガラス壜を見ていると、人の声が聞こえてくるのだ。

   「見えないよ。小さいから」
   「何が」
   「砂粒が」
   「中に入っているのが」
   「死んだ人たちの声が聞こえるよ、その壜」

 えんじ色の栓を抜いてガラス壜に耳を近づけると、おーい、という少年のような声が聞こえる。その声に応えたりしていると、やがて部屋の中には水が充満してきて私は水に呑み込まれてしまう。

   (略)                      自分がどこにいるのか
   もよく判らない。私は小さな悪魔のように、水と一緒に壜に閉じ込め
   られたのだろうか。それとも、声だけになって、どこに在るとも知らな
   い浜辺にいるのだろうか。
    いや、きっと私は砂粒になったのだ。砂粒になって、死んだ人の声が
   捨てられている浜辺にこぼれ落ちている。
    そしてそれは、案外幸せなことかもしれない
                                 (最終部分)

 壜というものによって作られた小宇宙のような空間に在るものは、何なのだろうか。もちろん、壜の中には海があり、浜辺があるのだろう。話者はその世界に入り込んでいったというよりも、その世界が壜の中から広がってきて、この世界を包みこむように裏返ったのだろう。
 作品を書こうとする感性は、そのように壜の中から呼びかけてくる声を聴き取ってしまうし、ついにはその世界での砂粒に自分を変容させてしまうものでもあるのだろう。だからといって、その感性を怖れることはない。砂粒になってしまえばなったで、本人は「案外幸せ」なのだから。
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