瀬崎祐の本棚

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詩集「兆し」  なんば・みちこ  (2014/11)  土曜美術社出版販売

2014-12-27 21:34:19 | 詩集
 第10詩集。109頁に22編を収める。
 無理のない自然体がそこにはある。物事に抗うのではないが、決して譲ることもない立ち位置が見えている。力を抜いた自然体は、そのまま迷いのない強さのようなものになっている。
 巻頭の「心の水」では、「水に映った影は流れてしまって/残らないのに」「心の水に映った影は」私から離れないと詩う。

   水は流れてとどまらないのに
   心の水は溢れるばかり
   逆さに流れて泡立つばかり

 「橋」は3編からなっている。その始めの「吊り橋」では吊り橋が揺れる。それは風のせいではなく、ココロの不安のためだと言う。しかし、それでもなお作者は「吊り橋を渡れ/渡り切れ!」と、ココロの不安のためにためらう人を激励している。ここには作者の優しさと強さがある。
 次の「光りの橋」では、何かがやってくるのも橋だ、と詩う。橋を駆けてくるものは一本の線になり、それは言葉になって私を捉えて変えてくれるのである。ここには詩を書く衝動のようなものがあらわされている。
 詩を書くその衝動は、3篇目の「つなぐ橋」で明らかになる。

   言葉は橋だ
   風は橋だ
   音は橋だ
   においは橋だ
   駆けてくる声 音 木霊

 ここで詩われているのはすべて何かを伝えるものである。そうした伝えるものが橋だとするならば、橋によって伝わるもの、あるいは、橋によってつながれるもの、があるわけだ。作者が詩を書く衝動は、つなぐものを通して、つながれるものを愛おしく思うココロであるのだろう。
 「うそ」などの岡山弁を交えた作品を読むと、作者の肉声を聞く思いがした。
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詩集「明日への体操」  楡久子  (2014/11)  詩遊社

2014-12-24 23:27:58 | 詩集
 第3詩集。75頁に19編を収める。詩遊叢書の19冊目。
「トロッコの旅」は、父と母と三人でトロッコに乗って「ふきっさらしの迷路の道を行く」物語。そのうちに季節も移って、雪の世界となる。「膝が寒さで泣」き、「トイレを我慢し」たりもしている。トロッコが下り坂でスピードを上げて早く着けと思っている内に着くのだが、そこは

   秋だった
   秋の道を
   もうしばらくは
   歩かねばならない
   父も母も
   ついてくる

 語り口は軽く、ひとつひとつを取り出せば具象なのだが、全体を見るとまったく判らないものとなる。(そのあたりは夢の世界に似ている。)何のために取り出されたのか判らない世界だからこそ、作品としてしかあらわれなかったのだろう。
 おじいさまの家の三面鏡を描いた「鏡台」。

   右のほうからなま暖かい風が吹いて、下の
   方からは天井の梁が太く迫って、にぶくき
   しんでひき臼のような暗い音を立てますの
   で、急ぎ左の方を開ければ、地底からうな
   り声が這い上がってきます。

 鏡のなかの世界が異世界であることを端的に詩っている。その鏡のなかの世界にわたくしも入り込んでいるのだが、そんなわたくしを眺めて記述しているわたくしもいるわけだ。鏡の世界の面白さは、その記述がどのように成り立っているのかというあたりにもあると思っている。
 この作品の最後は素晴らしく魅力的である。「叫びたい衝動に駆られながらがまんですの」と語るわたくしは、

   今もそうして過ごしておりましたの。お馬が
   通る、お父様だわ。
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詩集「明日戦争がはじまる」  宮尾節子  (2014/07)  思潮社

2014-12-22 22:11:38 | 詩集
 第6詩集。169頁に41編を収める。オンデマンドでの発行である。
 こんな言い方は何にもならないのだけれども、まず感じたのはとても素直に書かれていることへの畏敬だった。その素直さが強さになっているのだ。
 「想像してみないか」では、いじめ問題を取りあげている。君にいつか愛する人ができ、その愛する人との間に子どもが生まれる。さらに「その子どもが誰かに いじめられている姿を」想像してみないか、と語りかけている。その子どもは「いじめを苦にして、今ひとり/命を絶とうとしている」のだ。

   君は君のかけがえのない命を
   救うことができない
   君には君たちの幸せを
   守ることができない

   なぜならば 想像はここまでだ
   その子どもをいじめている
   誰かが、

   いまのきみだから。

 「石巻ボランティア日詩」という”日誌”に見立てた作品や、福間健二、水島英己とおこなったツイッター連詩の自分のパートも収められている。ここでは、まさにライブ(生命)がライブ(生演奏)で語られているようだ。
 表題作「明日戦争がはじまる」では、満員電車やインターネットで人間らしさが鈍磨していく様が皮肉を交えた軽快さで語られる。そして、

   じゅんび
   は
   ばっちりだ

   戦争を戦争と
   思わなくなるために
   いよいよ
   明日戦争がはじまる

 なお、七年前に書かれていたというこの作品には”この詩は著作権フリーです”との断り書きが付いている。
 「あとがき」で円周率のことが書かれている。3.1415・・・と無限に続くπの値を3.0にしてしまうと、円はなんと正六角形になってしまうという。この小数点以下の、どこまでも切り捨てられないもの、言葉で言いきれないものが詩ではないか、という意が述べられている。なるほどと感心させられた。
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Down Beat  5号  (2014/12)  神奈川

2014-12-21 15:14:24 | ローマ字で始まる詩誌
 7人が集まる。31頁で、最後に各自の近況報告の欄もある。

 廿楽順治は怪獣シリーズの2編を載せている。「怪獣博士」は思わずゲラゲラポーと言いたくなるほどに、「相当いい加減な殺意」と同時にある”相当いい加減な”面白さがあった。「カネゴン」は作者独特の軽快で皮肉な視点が、そこはかとない哀しみを連れてきていた。

 「地下都市の葡萄」中島悦子。
 地下都市は何ものかから隠れて住むところなのだが、いたるところに葡萄を貯蔵して葡萄酒を作っていたという。そこには何かを拒否して暮らす決意と、それゆえの閉塞感もあるようだ。その葡萄は汚染からは守られていたのだろうか。

 「日曜日」小川三郎。
 日曜日は多くの人にとって義務やそれに付随する予定から解放された日だ。だから、私にとっては捉えどころのない一日なのだろう。だから、正直に物事の間で揺れ動く一日なのだろう。私はどこへともなく彷徨って行ってしまいそうだ。

 「ビニールおばさんscene7」柴田千晶。
 その存在を世間に忘れられて餓死していく人たちがいる。彷徨っているビニールおばさんを見ていた私は、いつしかビニールおばさんになって見られる存在になっている。この作品でも赤居さんのことが語られる。やがてsceneがみんなつながったとき、赤居さんはどのように立ち上がってくるのだろうか、楽しみである。
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詩集「ぴかぴかにかたづいた台所になど」 相野優子 (2014/410) ふらんす堂

2014-12-17 23:05:28 | 詩集
 第2詩集。103頁に24編を収める。
 アジアの片隅の小さな台所でお総菜を作る主婦だという作者は、「包丁はしょっちゅう研ぎ、訪ねてくれる人は必ずもてな」すという。この自覚が、市井にありながらも日常に埋没してしまわない感性を磨いているのだろう。
 印象的な詩集表題は、作品では「ぴかぴかにかたづいた台所になど/女性の自立はないのだと」と続く。若いころにいせいよく唱えていたと言い、今はきちんとした生活に拠っている。季節の野菜や魚を保存し、「ごみにするときには必ずかなしむ」。それは背筋がすっきりと伸びたような生き方である印象を伝えてくる。この作品の最終連は、

   しみだしてゆけ
   その場所から ひたひたと
   腹の底にたたんできたものたち
   せつなさのやわらぐ方向に 思う人に
   あしたに きのうに
   みちてゆけ

 「ギムレットには早すぎる」は、忙しい一日を描いている。パソコン仕事をし、義母を訪ね、眼科を受診し、まだら認知症の母を実家からダンス友の会に連れて行き、買い物に行き、駐車場でメールをし、母を迎えて夕食の支度をした。そうして自宅に帰ると、

   出かける前にセットしておいた掃除ロボットが
   カーペットの端で動けなくなってギブアップしていた
   すばやくエプロンを着け
   朝刻んでおいた韮と三つ葉と大葉でチジミを焼きながら
   缶ビールをピシッとあけた

 淡々と事象が書きとめられているのだが、その掴み方によってちゃんと詩になっている。そして、それらの事象は書きとめられることによって立ち上がってくる。それらが私の方を見詰めてくるのだろう。それが、私がその一日を生きたということなのだろう。
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