「ずるずる」高岡力。
ついでに立ち寄っただけのばあさんの家で、「娘はクリームソーダをずるずると啜っている。」私はそれが気に障って仕方がないのだが、娘はなかなか止めようとしない。おまけにばあさんは碌でもない壺を売りつけようとしてくる。
だらだらとした散文詩形で、かみ合わない会話や、堂々巡りをしているような私の呟きがうねっている。すると、娘はあっという間に成長して「いっぱしの色女になっている。」これはどうしたことだ?
騒々しい。店の扉が勢いよく開いて、少年が駆け込んで来た。小脇に抱えた
紙を店内に散撒いて、去っていく。号外なのだと思う。手に取ると白紙なの
だが、ついに戦争か…と遠方の弟のことが気になりだした。
こうして理屈無用の夢のような展開を見せていく。夢は、抽象的な思いをあくまでも視覚で見せつけてくる。だから目に見える情景は具体的だが、その結びつき方は抽象的なのだ。娘は”ずるずる”を続けるし、ばあさんとの後に引けない駆け引きが熱を帯びてくる。
息づかいだ。待機の姿勢の、息苦しい大勢の鼓動が、潜んでいる。踏み込ま
れてなるものか。ずるずる。ずるずる。この時とばかりに、娘は虚空を啜り
上げてくる。ずるずる。ずるずる。ずるずる。ずるずる。私は首を横に振り
続ける。
(最終部分)
ついにこうして物語の中に立ち上がるものが描かれる。すべてが”ずるずる”という音と共に何ものかに引き寄せられていくようだ。圧倒されるような存在感の”ずるずる”である。お見事。
ついでに立ち寄っただけのばあさんの家で、「娘はクリームソーダをずるずると啜っている。」私はそれが気に障って仕方がないのだが、娘はなかなか止めようとしない。おまけにばあさんは碌でもない壺を売りつけようとしてくる。
だらだらとした散文詩形で、かみ合わない会話や、堂々巡りをしているような私の呟きがうねっている。すると、娘はあっという間に成長して「いっぱしの色女になっている。」これはどうしたことだ?
騒々しい。店の扉が勢いよく開いて、少年が駆け込んで来た。小脇に抱えた
紙を店内に散撒いて、去っていく。号外なのだと思う。手に取ると白紙なの
だが、ついに戦争か…と遠方の弟のことが気になりだした。
こうして理屈無用の夢のような展開を見せていく。夢は、抽象的な思いをあくまでも視覚で見せつけてくる。だから目に見える情景は具体的だが、その結びつき方は抽象的なのだ。娘は”ずるずる”を続けるし、ばあさんとの後に引けない駆け引きが熱を帯びてくる。
息づかいだ。待機の姿勢の、息苦しい大勢の鼓動が、潜んでいる。踏み込ま
れてなるものか。ずるずる。ずるずる。この時とばかりに、娘は虚空を啜り
上げてくる。ずるずる。ずるずる。ずるずる。ずるずる。私は首を横に振り
続ける。
(最終部分)
ついにこうして物語の中に立ち上がるものが描かれる。すべてが”ずるずる”という音と共に何ものかに引き寄せられていくようだ。圧倒されるような存在感の”ずるずる”である。お見事。