瀬崎祐の本棚

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タルタ  16号  (2011/02)  千葉

2011-03-02 22:25:10 | 「た行」で始まる詩誌
 「藪椿」柳生じゅん子。
 長い石段を上がっていくわたしの前に、小さな女の子の姿が見えるのである。その子は「ずいぶん前に 叔母が夢のなかから 大切に取り出してみせた子ども」だったのだ。死出の床にあるらしい叔母を見舞ったときに、叔母はわたしを小さな女の子のように呼んで抱いた。わたしの中には、たしかに”叔母が取り出してみせた女の子”がいたのだったが、

   あのときふっと やわらかな姿をかいま見せた 覚えて
   いないわたしの半身のような女の子は 叔母が死ぬ時に
   手をひいて あちら側に連れていってしまったと思っ
   ていた。 もう永遠に会えないと思っていた。

 わたしの前にふたたびあらわれた女の子は、後ろ姿だけを見せている存在なのだろう。わたしはその後ろをついていくだけなのだろう。わたしなのに、わたしではない。女の子は、叔母さんの中にだけ在ると思っていたわたしだったのだろう。
 亡くなった叔母さんへの、単なる思慕とも異なる懐かしさが感じられる作品。おそらくは、叔母さんによって形づくられた部分がわたしの中にもあって、それをわたしは叔母の思い出と共に大切に愛おしく思っているのだろう。しみじみとした読後感を残す鎮魂の作品である。
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