第6詩集。110頁に25編を収める。
巻頭に故・高良留美子氏へ捧げる追悼詩2編が載っている。
佐川亜紀の前詩集の感想で私は「社会への洞察を抜きにしては佐川亜紀の作品を読むことはできない」と書いた。この詩集でも作者の視線は沖縄、アイヌ、アフガニスタン、香港、ミャンマーなどに向けられている。
「アンネとアマル」。日本で生理用品として知られるアンネ・ナプキンは、アウシュヴィッツに送られる前のアンネ・フランクが「アンネの日記」に記した生理の記述からその製品名がつけられている。そして今、パレスチナのガザでは妊婦も爆破された病院の瓦礫に埋まるのだ。
命を守る家もない
流産した妊婦 殺された妊婦
がりがりにやせた新生児
生理用品もなく全身の傷から出血するパレスチナの少女
吹き飛ばされた乳房から流れ出す赤い血
尊厳の命が生まれるべき場で繰り広げられる殺傷ほど惨いものはない。そしてその命を育む基本となる月経の処置にも事欠いている。柔らかいナプキンの肌触りが彼の地では失われている。
「雨傘と心臓」は、香港での弾圧に抵抗した人たちを描いている。かつて香港では普通選挙をもとめての雨傘革命があった。しかし民主主義は失われ、政治犯の弾圧がつづいた。
わたしは
左手も右手も
骨の折れた雨傘を
差し出すふりをする
かつて心臓を突き刺した
銃剣に似た傘を
土砂降りのような激しい政治的弾圧の中で、ゆがんだ傘で抵抗する心を失わない人がいる。作者のどの作品にも硬い意志があり、それを支える堅い言葉がある。問題意識が言葉の源泉となっている。
最後に置かれた「対話」。様々なものを背負ったそれぞれの人が発するのは必然的に異なる言葉となる。それでも、
その深い谷を
渡る
言葉ではない言葉
言葉である言葉
巻頭に故・高良留美子氏へ捧げる追悼詩2編が載っている。
佐川亜紀の前詩集の感想で私は「社会への洞察を抜きにしては佐川亜紀の作品を読むことはできない」と書いた。この詩集でも作者の視線は沖縄、アイヌ、アフガニスタン、香港、ミャンマーなどに向けられている。
「アンネとアマル」。日本で生理用品として知られるアンネ・ナプキンは、アウシュヴィッツに送られる前のアンネ・フランクが「アンネの日記」に記した生理の記述からその製品名がつけられている。そして今、パレスチナのガザでは妊婦も爆破された病院の瓦礫に埋まるのだ。
命を守る家もない
流産した妊婦 殺された妊婦
がりがりにやせた新生児
生理用品もなく全身の傷から出血するパレスチナの少女
吹き飛ばされた乳房から流れ出す赤い血
尊厳の命が生まれるべき場で繰り広げられる殺傷ほど惨いものはない。そしてその命を育む基本となる月経の処置にも事欠いている。柔らかいナプキンの肌触りが彼の地では失われている。
「雨傘と心臓」は、香港での弾圧に抵抗した人たちを描いている。かつて香港では普通選挙をもとめての雨傘革命があった。しかし民主主義は失われ、政治犯の弾圧がつづいた。
わたしは
左手も右手も
骨の折れた雨傘を
差し出すふりをする
かつて心臓を突き刺した
銃剣に似た傘を
土砂降りのような激しい政治的弾圧の中で、ゆがんだ傘で抵抗する心を失わない人がいる。作者のどの作品にも硬い意志があり、それを支える堅い言葉がある。問題意識が言葉の源泉となっている。
最後に置かれた「対話」。様々なものを背負ったそれぞれの人が発するのは必然的に異なる言葉となる。それでも、
その深い谷を
渡る
言葉ではない言葉
言葉である言葉